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【3月下旬発表へ】国の新たな“南海トラフ巨大地震被害想定”控え…静岡県の地震・津波対策の現状は…

2025年3月11日 17:08
【3月下旬発表へ】国の新たな“南海トラフ巨大地震被害想定”控え…静岡県の地震・津波対策の現状は…

東日本大震災を受け見直されたのが南海トラフ巨大地震への対策です。国は対策の効果も踏まえた南海トラフ巨大地震の新たな被害想定を3月下旬に公表します。県内の対策を取材しました。

東日本大震災の教訓を生かし、国がこの2年後に公表した「南海トラフ巨大地震の被害想定」。これをもとに、静岡県は「第4次被害想定」をつくり、防災対策の基準にしてきました。

想定では、地震発生からわずか3、4分で津波が到達。下田市で最大33メートル。浜岡原発のある御前崎市で最大19メートル。死者は最悪の場合10万人を超え、約30万棟の建物が全壊すると試算されています。これを受け、県は3200億円以上かけて対策を進めてきました。そして3月下旬、国は前回の被害想定発表から10年以上にわたる地震対策の効果を反映した、新たな南海トラフの被害想定を発表します。進めてきた対策の効果が数字に表れるため、注目されているのです。

県内の津波対策では、浜松市に約330億円かけて、高さ最大15メートル・全長17.5キロの巨大防潮堤が完成するなど、数百年から千年に1度程度の地震に対応できる防潮堤は、2022年時点で36.7キロメートル完成。数十年から百数十年に1度程度の 地震に対応できる堤防は、213.4キロメートルまで整備が進みました。これにより想定、想定犠牲者数を約1万7800人減らせるといいます。

(県危機政策課 高部 真吾 課長)
「防潮堤の整備は、今後も着実に行っていくが、発災時は避難が基本であることから、県民の皆様の早期避難意識の向上が課題と考えている」

一方、整備には課題も出ています。

ここは、最大15メートルの津波が予想される湖西市。地震発生後24分で、沿岸部の堤防や国道1号バイパスを越えると想定されています。市は、沿岸に防潮堤を整備するかどうか10年以上検討していますが、課題となるのが“巨額のコスト”です。

(湖西市 山本 健介 危機管理監)
「完全にシャットアウトするものを造ろうとした場合には“約数百億円”規模の費用がかかると見込まれています。工事の期間も“数十年単位”でかかるのではないかと考えています」

隣の浜松市は、2020年、地元企業から300億円の寄付を受け、巨大な防潮堤を完成させました。湖西市の海岸線は約10キロ。現在の堤防で7メートルの津波をくい止めることはできます。市は、2026年3月までに、巨大な防潮堤を整備するかどうか決める方針ですが、全て市の財源で費用を賄う必要があり、ハードルが大きいのが実情です。

(湖西市 山本 健介 危機管理監)
「15メートルを完全にシャットアウトする防潮堤を造ろうとした場合には、“20メートルを超えるもの”が必要であると」「物価高騰や人件費の高騰などいろいろなことがあるので、恐らく費用が上振れすることが懸念されているところです」

ここは、津波の浸水想定域にある住吉西地区。最大3.2メートルの津波が想定され、付近の住民は、高さ6.8メートルの命山に避難することになっています。“防潮堤の整備”については…。

(湖西市・住吉西地区 堀川 匡士さん)
「浜松市が防潮堤を造ったときに浜名湖から西側はいいのか(湖西市)新居、白須賀はいいのかと心配していて焦りもありましたが」「南側に圧迫感のある15メートルの(津波に対応した)防潮堤を望まなくなりました」

一方、若い世代を中心に整備を求める声もあり、賛否が分かれているのが現状です。住吉西地区では年3回の避難訓練を行い、津波の到達時間までに確実に避難できるよう“防災意識”を高めています。

(湖西市・住吉西地区 堀川 匡士さん)
「生きる力を持ってほしいと思うんですよね。『津波が来たら逃げるんだ』、『逃げたら助かるんだ』ということを強く思ってほしい」

このように、防潮堤以外に進められてきた対策では、地域によってバリエーションも生まれています。

伊豆市には2024年、「観光」と「防災」を兼ね備えた全国初の津波避難施設が誕生。日常では、レストランや土産物店が営業する観光施設として利用しつつ…、地震や津波が発生した際には、津波避難タワーになり、避難スペースに1200人ほどを収容できます。

(県危機政策課 高部 真吾 課長)
「津波避難タワーなどの整備は、市町が地域の事情に応じて行っていて、伊豆市においては、観光と防災のバランスを考慮し、災害時だけでなく、平時利用が可能な施設を整備していると聞いている」

県内では、津波避難タワーや命山などが183か所に整備されたほか、避難ビルの指定が進み、津波浸水想定地域における避難施設のカバー率は98%。避難がスムーズにできれば、想定犠牲者数を6万2000人減らすことができるといいます。

自治体の対策が進む一方で、県内には、高台に集団で引っ越そうと検討してきた地域もあります。約200世帯が住む、沼津市の内浦湾に面する重須地区です。この地区は、最大8.6mの津波が押し寄せると想定されています。東北の被災地では“津波が来ない高台への移転”が進む中、重須地区でも「高台へ移転しよう」と2012年ごろから声が上がっていたのです。当時の勉強会にも多くの住民が参加。

(北海道大学 森 傑 教授)
「事前的、予防的に高台移転の可能性を検討することは、非常に 勇気のある英断だと思います」

この時は、津波で甚大な被害が出るとされる100世帯の内、8割近くの住民が「高台移転に賛成」していました。移転場所は、車で5分ほど、海抜約50メートルの高台です。10日、その高台を訪れると、真新しい家が立ち並んでいた。しかし、建っていた家は5軒…。実際に高台へ移転したのは5軒7世帯でした。当初は、国の「防災集団移転促進事業」を適用する方向でしたが、住民らは、経済的負担や高齢を理由に、ほとんどの人が“移転しない”と決めたのです。

(“移転しなかった”住民 80代)
「行政の補助があると思ったんですよね。その時は」「大きな補助も無くて、やはり行けないのが実情だった」「(高台だと)買い物とか高齢者になると不便になる」

2023年、高台へ引っ越してきた、みかん農家の原重弘さん。家族3人で暮らしていますが、震災当時、子どもが小さかったこともあり、高台への移転を決めたといいます。

(高台に移転した 原 重弘さん・57歳)
「津波の心配があり高台に引っ越してきたので、その心配が 無くなったのは気分的には楽ですね」「仲間は増えてほしい、心配ではある(高台の)下も、いつ(地震が)来るか分からないし」

また、建設中の住宅も…。4月、新築の家に妻と息子家族で住む原敏さん78歳。原さんは、当時の自治会長で、「住民らには防災への意識を、今まで以上、高めてほしい」と話します。

(4月に高台に引っ越す 原 敏さん・78歳)
「津波に遭われた人、亡くなった人が大勢、2万人以上いらしゃる、ああいうのを見てますとね…地震防災とか津波の専門家の講演会を開いて」「意識を常に持つ努力をしてほしい」

一方で、高齢者も多く海岸に近い場所では、高台への避難に時間がかかるなど津波対策の難しさは残ったままです。3月下旬に国が発表する南海トラフ巨大地震の新しい被害想定では、最新の想定される津波の高さや犠牲者数
災害関連死についても発表されます。進めてきた地震対策で、どれだけ犠牲者を減らすことができるのか、そして、新たな課題も示されることとなりそうです。

最終更新日:2025年3月12日 11:46
    静岡第一テレビのニュース