【天空の茶畑】北遠の標高400メートルに広がる茶畑で移住家族が作るこだわりのお茶(浜松市天竜区春野町)
浜松市の春野町に移り住み、茶農家をしている家族がいます。夫婦と3人の子どもたちで標高400メートルにある“天空の茶畑”で作るこだわりのお茶とは?
浜松駅から車で1時間半。深い森に包まれた坂道を抜けると…広がる茶畑の奥に自宅があります。“雲海”が見られる浜松市天竜区春野町の砂川地区。小さな集落には37世帯82人が暮らしています。ここでお茶を作っているのが宇野大介さんと妻・まどかさん。3人の子どもたちも「二番茶」の収穫を手伝います。慣れた手付きで摘み取るのは中学2年生の長男・清太くんです。
(宇野 まどかさん 41歳)
「子どもを働かせたらいけないと思うけれど、体格も私より大きくなって、ことしはかなりがっつりやらされたね」
(長男・清太くん 14歳)
「楽しいので、はい」
(宇野 まどかさん)
「ギリギリ家族の手を借りてまわしてきた感じで」
(長男・清太くん)
「家で勉強しているよりはマシだから」
(宇野 まどかさん)
「ハハハ…」
農薬を使わず有機肥料でお茶を作っています。
大介さんは伊東市出身。まどかさんとは京都大学の農業交流サークルで出会いました。結婚後は、塾の講師をしながら、まどかさんの地元・愛知県で農業をしていましたが、2009年に転機が訪れます。大学の先輩の紹介で初めて砂川地区を訪れた2人。目にしたのは標高400メートルにある雄大な山並みと斜面に広がる茶畑でした。美しい景観に心を打たれ、砂川への移住を決めたのです。
(宇野 まどかさん)
「この山道の先に誰か人が住んでいるのかなと思うぐらい」「こんな傾斜地で高齢化も進む中、これだけの景観が維持されていることに本当に感動しましたね」
この日、子どもたちが走って向かったのは自宅裏のハウスです。まどかさんが育てるブルーベリーを摘み取ります。環境に優しい暮らしを心掛けているまどかさん。できる限り「自給自足」の生活をしたいと考えています。清太くんたちは収穫したブルーベリーをもって近所の人のもとへ向かいます。
(長男・清太くん)
「けさ、うちでとれたブルーベリーですが、良かったどうぞ」
(砂川地区の住民)
「ほんと、すごい大きい」「(清太くんは)すごいたくましい子で自転車で伊豆に行ったり、ピアノもすごい上手なんですよ」
清太くんもよく砂川の人たちから野菜や果物を分けてもらうそうです。
(長男・清太くん)
「ちょっと通りかかっただけで、この前も立派なビワをたくさんくれて、差し入れがすごく多くていつもお世話になっています」
次男・秋高くんと長女・初美ちゃんは動物が大好き。かわいがっているのが最近、飼い始めたニワトリです。
でも、怖かったことがあったようで…。
(長女・初美ちゃん 6歳)
「あそこに何かヘビがだらーんってなってて…」
(次男・秋高くん 8歳)
Q.どれぐらいの大きさだったの?「長さはアオダイショウといって、とても長いやつで」Q.太さは?「太さは僕の腕ぐらい」
無事、お父さんが追い払ってくれたそうです。
子どもたちが学校に行っている平日は夫婦でお茶摘みです。作業をしているとまどかさんがかけているサングラスの話題に….
(宇野 まどかさん)
「テレビのためにつけたわけではなくもともとやっていた」
(宇野 大介さん 45歳)
「もともと僕はやってほしくなかった」
(妻・まどかさん)
「ハハハ…」
趣味のマラソンで使っているサングラスだそうです。
お茶作りにはとことんこだわる大介さん。手摘みするのは1本の枝先から開いた2枚の若葉“一芯二葉”のみ。柔らかくて“お茶の旨味”が詰まっているといいます。
(宇野 大介さん)
「極端な話、こういうのとかね。そうすると、これとこれって全く別物なんですよね。だからこれとこれを一緒に作るというのは、かなり雑な作り方なので、やっぱり手摘みじゃないとできないということがあります」
摘み取った茶葉は自宅の前に広げて天日干し。“甘み”を引き出すことが狙いです。
(宇野 大介さん)
「天気予報とにらめっこしながらやるかな、やめておこうかなみたいな」Qどれぐらいの時間干している?「これね、お天道様次第です」
ペットボトルのお茶に使われ安く取引されることも多い二番茶ですが、“紅茶”にすることで差別化を図っています。
茶葉ができあがると、大介さんが家族を集めました。並べられたのは摘み取った日が異なる7種類の紅茶です。
(次男・秋高くん)
「わからない。全部同じにおいな気がする」
(宇野 大介さん)
「だったらそれはそれで答えでいいよ」
(長女・初美ちゃん)
「なんかこの2つはミカンの匂いがする」
“お茶の香り”を大切にしている大介さん。子どもたちとは対照的に真剣な表情で確かめていきます。そして…。
(宇野 大介さん)
「じゃあどれが一番良かったか指しましょう。せーの!」「おー割れたね。やっぱり違うもんでね、いろいろね」
(妻・まどかさん)
「勉強熱心というか研究熱心というか、いろいろ作り方をちょっとずつ変えたり、天気のことも全部メモしているので」
(宇野 大介さん)
「この条件が良かったんじゃないかとか」
(妻・まどかさん)
「試行錯誤、トライアンドエラーです」
家族に協力してもらいながら品質の高いお茶を目指しています。
お盆を迎え、砂川地区の店で夏祭りが開かれました。初美ちゃんが初めて挑戦したのはスイカ割りです。
(妻・まどかさん)
「そのまままっすぐ振り落とせば」「もう1回いいって」
(砂川地区の住民)
「よいしょ!よいしょ!よいしょ!割れました!拍手!」
夫婦で移り住んで15年。3人の子どもに恵まれ地域の人に支えられながら暮らしてきました。
(砂川地区の住民)
「活性化してくれてみんな楽しんでいる」「本当に馴染んでくれてね。いい人が入ってくれましたよ」
そんな宇野さん夫婦が大切にとっているものがあります。
(宇野 まどかさん)
「これが長男が卒業式のときに、私たち両親にあてて書いてくれた手紙です」
2023年、長男・清太くんが小学校の卒業式で両親に贈った手紙です。両親への感謝と砂川地区を愛する思いがつづられていました。
(宇野 まどかさん)
「『砂川に住み続けたい。僕もここで子育てがしたい』と書いてくれてあって、その夢は変わるかもしれないけれど、今の時点で彼がそう思ってくれたこと自体は本当に感動しましたね」
夫婦と子ども3人、家族でつくるこだわりのお茶。“天空の茶畑”からその魅力を次の世代につなげていきます。