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事務職から転職 トラックドライバーに密着 残業規制で「走れなくなる」? 物流の2024年問題

2024年4月6日 8:00
事務職から転職 トラックドライバーに密着 残業規制で「走れなくなる」? 物流の2024年問題

4月1日からトラックドライバーの時間外労働の規制が変わりました。

それに伴い、輸送力の不足が懸念されるという、いわゆる「物流の2024年問題」が現実のものになりました。

北海道の物流の維持には何が必要か、課題は何か。

現場で働くドライバーにカメラが密着しました。

片道262キロ 1泊2日のトラック輸送に密着

南幌町の農業資材会社にやってきた8トントラック。

運転しているのは、札幌市の運送会社で働く宮田彩さん33歳です。

農業用ビニールハウスの部品を取引先までひとりで運転し運びます。


身長147センチと小柄な宮田さんですが…

重い荷物の積み込みも慣れたもの。

(金澤記者)「これからどちらに?」

(宮田彩さん)「厚沢部町まで行きます」

午後3時ごろ、南幌を出発!

荷下ろしは道南・厚沢部町のキノコ農家。

片道262キロ・1泊2日、トラックドライバーのリアルにカメラが密着しました。


事務職員から転職 トラックドライバー3年目

宮田さんはトラックに乗り始めて3年目。

事務職員からの転職です。

(宮田彩さん)「男性と体の大きさも高さも違うので、体力面的には結構大変なことはありますが、(荷物を)届けて感謝されると運んでよかったなと思うし、ないと困る仕事なのかなと思う瞬間ですね」

午後5時半。

走り始めておよそ2時間半で中間地点の豊浦町に到着。

食事は楽しみのひとつ。

きょうは弁当を購入し、運転席で食べることに。

(宮田彩さん)「めっちゃおいしい。眠くなったらすぐ止まるようにしています」

ドライバーの大事な作業がもうひとつ。

運転時間の記録です。

休憩のたびに宮田さんはペンを走らせます。

長時間労働を防ぐため会社でも運行記録を管理

宮田さんの会社では、ドライバー全員の運行記録を厳密に管理しています。

長時間労働を防ぐためです。

(武田運輸 武田秀一社長)「魅力ある業界でなければ人は集まってこないですね。ドライバー・社員が働きやすい環境をつくるというのが我々の仕事だと思っています」

トラックドライバーの働き方が見直されるなか、4月1日、大きな動きが。

物流の「2024年問題」。

運送業の残業時間が4月から年間960時間に制限されました。

「走れなくなる」? 4月から残業時間を制限


一方で、我々の生活にとっても懸念されるのが、輸送力の低下です。

このままではわずか6年後には、道内の荷物の27%が運べなくなるという試算も。

トラックドライバーはほかの仕事と比べ、労働時間が2割ほど長いというデータがあります。

しかし、年収はそれに見合うどころか1割ほど低い現状。

これまでの労働時間の長さを解消しようというのが法改正の狙いです。

しかし、トラックドライバーの本音は?

(トラックドライバー)「走れなくなりますよね、時間が限られているので」

(トラックドライバー)「仕事をしなきゃいけない時は稼げた方がいい、走って稼げた方がいいと自分は思う」

“2024年問題”ドライバーの生活がかかっている

南幌町から厚沢部町に向かう宮田さんは、およそ1時間30分の休憩を終えた午後7時、再びハンドルを握ります。

残り125キロです。

事務職から転職して1年半の去年10月。

トラック事業者の集会で、こんな思いを話していました。

(宮田彩さん)「私はトラックドライバーの仕事が大好きです。これからも運送業界で仕事が続けられるよう、大きな力添えをお願いします」

今回の残業規制は大好きな仕事を続ける助けになるのか。

宮田さんは答えを出せていません。

(宮田彩さん)「2024年問題といっても、動いてみないとどう変わっていくのかわからない。ドライバーの方それぞれ生活もかかっているので、待遇を良くしてもらうとかお給料を上げてもらうとか、そういうところで少しは改善されるのかな」

出発してからおよそ6時間後の午後9時。

宮田さんは目的地の厚沢部町に到着。

翌日の朝、農家に資材を引き渡すため、就寝はトラックの中です。

(宮田彩さん)「きょうは余裕を持ってゆっくり走れたので気持ちに余裕があります」

就寝は午後10時。

翌朝6時まで体を休めます。

余裕を持った運行が、物流業界のスタンダードになりつつあります。

“野菜が来ない” 生鮮品の配送にも影響

2024年問題の影響は、さっそく道北のマチでもー

稚内市のスーパーでは、営業前の午前6時に大量の商品が運び込まれてきました。

しかしー

(金澤記者)「売り場には茨城の長ネギや神奈川の大根など様々な生鮮品が並んでいますが、4月からある変化が起きるといいます」

このスーパーでは、毎日行っていた野菜など生鮮品の配送を、4月1日から週5日に減らさざるを得なくなりました。

手頃な価格と品揃えを維持するための苦肉の策です。

(買い物客)「事情が事情なのでそういうことは仕方がない」

(買い物客)「安定して届く方がいいと思います、無理するよりは」

(西條 営業本部 安井則彦商品部長)「遠方であっても消費者の生活は変わることがないようにしなければならないので、適正価格を維持できるように努力していかなければならない」

フェリーや貨物列車 空白地帯の地域も

ここ道北は、2024年問題の影響が大きい地域と言われています。

そのわけは、国が推進する「モーダルシフト」。

トラックが担っていた物流を、大量輸送が可能な貨物列車やフェリーに転換しよう、というものです。

しかし、道北には本州との定期航路や貨物列車の駅がほとんどありません。


専門家は、地域物流の維持には「近道」はないと、対策の「3本柱」を指摘します。

(北海商科大学 相浦宣徳教授)「労働時間の短縮によるドライバーの収入の低下が懸念される。労働環境の改善・適切な運賃の収受。そして輸送力不足に対する物流自体の効率化、この3本の柱を同時に行っていく必要がある」

感謝の言葉が励み 仕事の大切さを実感

(宮田彩さん)「おはようございます!よく眠れました」

南幌町から厚沢部町まで走るトラックドライバーの宮田彩さんが、届け先のキノコ農家に到着したのは翌朝9時でした。

トラックについたクレーンをリモコンで操作し、ビニールハウスの部品を慎重に下ろします。

(キノコ農家 渋田博文さん)「大変でしたね。ありがとうございました。かけがえのない存在。僕らは物を運んでもらえないと商売できないので」

一番励みになるという感謝の言葉。

宮田さんはこの仕事の大切さ、社会との関わりの深さをもっと知ってほしいと話します。

(宮田彩さん)「やりがいのあるとてもいい仕事だと思っています。運送業界に見合った待遇を見直してもらって、運転手が新たに入ってきてくれればいいのかなと思います」

人々の生活に欠かせない物流。

トラックドライバーの仕事の実態と待遇に対する社会の理解が、「2024年問題」を「問題」ではなくするカギとなります。

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