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【10年分のツケ】『農地の違反転用』で原状回復に最大27億円超 農家は「許可はもらっていたのに…」

2024年8月14日 19:23
【10年分のツケ】『農地の違反転用』で原状回復に最大27億円超 農家は「許可はもらっていたのに…」

 岩手県一関市ではいま、石灰を含む石や砂で白く盛り土された農地が、農地法の違反転用にあたるとして、所有者が原状回復や農業関連の交付金の返還を求められる事態となっています。
 原状の回復には、最大で27億7000万円あまりの費用が掛かるとされるこの問題について、北上支局・熊谷記者が取材しました。

 一関市内のとある場所、ことし3月の映像です。造成工事が行われたあとのようなこの土地はもともと水田でした。市内の石灰鉱山などから出た石灰を含む石や砂で盛り土されたため、表土は白く、 周囲の景観から浮いて見えます。これと同じような盛り土農地がいま、一関、大東、東山、川崎の市内4地域で合わせて50戸、およそ16.3ヘクタールで確認されています。盛り土をするにあたって必要な農地の現状変更届は受理されていましたが、市はことし3月になって、「農地とは認められない」と判断を一転。所有者に対し、原状の回復と、すでに受け取った交付金の返還を求める事態になっています。

 なぜこのような盛り土が行われたのか?一関市は農地の所有者と盛り土材の提供者、そして盛り土の施工業者に対する調査を行いましたが、証言には一部で食い違いがあることから、真相は現在も調査中としています。

 これら農地は、盛り土をすべて撤去する原状回復が原則で、土砂の掘削と搬出などを含む費用は27億7000万円あまりと試算されています。このため、市は耕作可能な土を盛り土の上にかぶせることで、費用をおよそ2億円に圧縮できる方法で対応することができないか、県と協議を続けています。

 東山町松川地域にある中通集落協定39戸の代表で、農地に盛り土をした当事者でもある、兼業農家の小野寺正則さん65歳です。こちらではかつて、牧草を栽培していましたが、東日本大震災による福島第一原発事故の影響で除染を行ったあと、牧草地としては使えなくなり、雑草を刈るだけの日々が続いていたそうです。その頃、別の農家から、「市内の鉱山から出た石灰の置き場所として農地を提供した」という話を聞き、小野寺さんも盛り土をするための農地現状変更届を提出して受理されたことから、無償で提供することにしました。

中通集落 小野寺正則 代表(65)
「私としては東山の松川地域は昔から石灰とセメント産業で成り立ってきたこともあるので、そういう会社に貢献できればという思いもあったし、違反転用だという認識がなかったので戸惑っている」

 違反転用とされた小野寺さんの農地の面積はおよそ0.9ha、原状回復費用は最大で2億円あまりと試算されています。中通集落が返還しなければならない交付金の総額は1600万円あまりですが、違反転用とされた農地のほとんどは小野寺さんが所有するものです。

盛り土の当事者 小野寺正則さん(65)
「(交付金の返還は)盛り土をしていない農家にまで迷惑をかけられないので、なんとか自分の立場で処理したいと思っている。ただ原状回復の約2億円についてはなんともならないので…裁判を起こすなりで対応するしかないのかなと思っている」

集落の代表者
「高齢化と担い手不足で大変な中山間地域にとって交付金は生命線。そういう中でこの問題が発生し、青天のへきれきだ」

 7月20日、盛り土された農地が含まれる市内13の集落に対する交付金の取り扱いについての説明会が、問題の発覚後初めて開かれました。このなかで市は、返還対象となる交付金は1億5800万円あまりであること、返還期限は来年の3月末であることを説明しました。

集落の代表者
「(我々は)農業委員会、市に申請し許可をもらっている。そして何年も経っている。そこに責任はないのか。あくまでも集落が返還してくれと。責任はどこにあるのか」

一関市 佐藤善仁 市長
「本当は一番最初のケースのときに、市長部局であれ農業委員会であれ、『これは認められない』と明確に判断し、どの地域もどの土地も同じ取り扱いができる体制をすぐに敷いていれば、確かにこのようなことは起こらなかったと思う。そういう意味での市の責任は大きいと思っている」

 市は行政の責任を認めたものの、農地それぞれに事情があり、責任の所在は調査中であること、また、交付金の制度として、集落の代表者に返還を求める以外に選択肢がないことを説明し、理解を求めました。

盛り土をした小野寺さんは、苦しい胸の内をこう明かします。
盛り土の当事者 小野寺正則さん(65)
「私も年をとってきて、なかなか農業も出来ないようになってきて、管理も楽なようにということもあって盛り土をしたけれど、それが…こういう結果になったのかなと反省している。時間をさかのぼれるなら、その時点まで戻りたいような気分」

 一関市で2014年度から放置されてきた農地の違反転用。責任の所在と問題解決の糸口を見出すため、盛り土に関係したすべてのひとに真摯な対話が求められています。

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