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【独自解説】「父は3度殺された」“札幌すすきの殺人事件”母・浩子被告の第2回公判で明かされた遺族の胸中「一家全員の極刑を望む」 妻の証人として父・修被告が出廷した理由は「浩子被告と自分を無罪にするため」

2024年7月3日 11:00
【独自解説】「父は3度殺された」“札幌すすきの殺人事件”母・浩子被告の第2回公判で明かされた遺族の胸中「一家全員の極刑を望む」 妻の証人として父・修被告が出廷した理由は「浩子被告と自分を無罪にするため」
瑠奈被告と両親の“歪な親子関係”

 2023年7月、北海道札幌市の歓楽街『すすきの』のホテルで、男性の首が切断され、頭部を持ち去られた猟奇的な事件。田村瑠奈(るな)被告・父の田村修(おさむ)被告・母の田村浩子(ひろこ)被告ら親子3人が逮捕・起訴され、2024年7月1日、母・浩子被告の第2回公判が行われました。公判では、父・修被告が証人として出廷。裁判での2人の様子は?父・修被告は何を語ったのか?現地からの報告を交え、亀井正貴弁護士・野村修也弁護士のダブル解説です。

2023年7月1日の夜、一体何が…?対立する検察側・弁護側の主張に専門家指摘「父・修被告が精神科医であったことは、有利にも不利にも作用する」

 改めて、事件のここまでの経緯を整理します。猟奇的な事件が起きたのは、2023年7月1日。

 起訴状などによると、午後11時前に被害男性(62)と田村瑠奈被告はホテル近くで待ち合わせ、その後二人で入室。約3時間後の午前2時ごろ、瑠奈被告がフロント前を通り一人で退室する様子が、ホテルの防犯カメラに映っていました。父の田村修被告は、送迎係だったということです。

 同年7月24日~25日にかけて、瑠奈被告、父・修被告と母・浩子被告3人が『死体損壊・遺棄』などの疑いで逮捕。約半年間の鑑定留置の後、2024年3月6日に瑠奈被告が『殺人・死体損壊などの罪』、修被告が『殺人ほう助・死体損壊ほう助などの罪』、浩子被告が『死体遺棄ほう助などの罪』で起訴されました。

 被害男性の遺体は、全裸で頭部がない状態で発見され、その後、瑠奈被告の自宅の2階浴室から被害男性の頭部が見つかり、約20本の刃物も押収されています。死因は『出血性ショック』で、背後から刃物で複数回突き刺されたとみられています。

 起訴状などによると、瑠奈被告は『実行役』とされていて、ホテルの浴室で背後から刃物で男性を刺し、殺害。「のこぎり」などの複数の刃物で首を切断して頭部を持ち去り、持ち去った頭部を損壊したとされています。

 また、父・修被告は犯行に使用した「のこぎり」などを購入し、瑠奈被告に提供。事件当日、瑠奈被告をホテル付近まで送迎。瑠奈被告が自宅に持ち帰った頭部を損壊する様子を、ビデオで撮影したなどとされています。

 そして、母・浩子被告は頭部を自宅に隠すことを容認し、瑠奈被告に頼まれたビデオの撮影を父・修被告に依頼。計画段階から犯行を認識していたとみられています。

 2024年6月の母・浩子被告の初公判で、『死体遺棄ほう助』の罪について、検察側は「娘・瑠奈被告が死体の頭部を隠していることを知った上で、これを容認し、生活を続けた」と主張。一方の弁護側は、「頭部を認識したのは、娘・瑠奈被告が自宅に持ち込んだ後。移動も、容認する発言もなし」と主張。

 また、『死体損壊ほう助』の罪について、検察側は「娘・瑠奈被告の計画を容認した上で、父・修被告に娘・瑠奈被告の求めを伝え、ビデオ撮影を依頼」と主張。一方の弁護側は、「娘・瑠奈被告の計画の認識はなし。父・修被告に対しても、損壊が行われることを伝えて撮影を依頼したことはない」と主張。

 2つの罪について、検察側は「いずれも成立」と主張、対する弁護側は「いずれも成立せず」と主張しました。

Q.浩子被告は瑠奈被告の犯行をどこまで知っていたか、ということですか?
(元検事・亀井正貴弁護士)
「知っていたかどうかと、どういう行為をしたかです。まず、首を埋葬せずに捨ててしまうといった『遺棄』と、首を『損壊した』という2つの行為があります。1つ目の『遺棄』については、知ろうが知るまいが、『瑠奈被告がやったことで、浩子被告は何もやっていない』というのが、弁護側の主張です。恐らく検察側としては、浴室は浩子被告も共同占有しているわけですから、『知った後もずっと置いているということは、容認していることになるではないか』。つまり、遺棄の隠匿のほう助ではないかということです。これは『自宅に持ち込んだ後、継続的に持っていること自体も遺棄と言えるかどうか』という法律の論点も含んでいます」

Q.父・修被告は精神科医ですが、瑠奈被告は精神的に普通ではないということが見受けられる中で、何かできることはなかったのでしょうか?
(亀井弁護士)
「“精神科医であれば『このまま放置すれば危険な行為に至るであろう』と予測できるのだから、より一層防止する義務が出てくるではないか”という面はあるし、かと言ってそのまま放置する、あるいは抹殺することはできない。どういうふうにすれば良かったのかという両面を、裁判官がどのように判断するかも、今回のポイントだと思います」

母・浩子被告の第2回公判に、「非常に痩せこけた印象」の父・修被告が弁護側の証人として出廷…二人の様子は?明かされた被害者遺族の想いとは?

 母・浩子被告の第2回公判は、どんな様子だったのでしょうか?実際に裁判を傍聴した『ミヤネ屋』ディレクター2人からの報告です。

◆◆◆◆◆◆◆

―裁判について。
(「読売テレビ」西山耕平ディレクター)
「田村瑠奈被告の母・田村浩子被告の第2回公判は、時間通り午後1時半に開廷。まず証拠調べから始まり、検察側が裁判所に提出した証拠物が読み上げられました。また、殺害時を自ら撮影したハンディカメラなども、押収物として提出されています。そして、瑠奈被告の手帳が証拠物として提出され、この中に『(2023年)5月28日、ナイトクラブの閉店イベントに出席して、いろんな方に遊んでもらった。しかし、その後トラブルになった』などと綴られていて、その後に『自分で始末する』ということが書かれていたと判明しました」

―浩子被告の様子について。
(西山ディレクター)
「白のシャツに紺のカーディガン姿で、目を見開いて真っすぐ裁判長のほうを向くような雰囲気で、法廷に入りました。『非常に堂々としている』という印象でした。ただ、証拠調べの終盤に、父・修被告の供述調書が読み上げられたのですが、その中に自宅で人体を損壊している描写が複数あり、細かくは申し上げませんが、筆舌に尽くしがたい非常に厳しい内容のものでした。これが読み上げられている20分ほどの間だけは、それまでは真っすぐ目を見開いて検察側のほうを見ていた浩子被告が、ずっと伏し目がちになって、目が赤らんでいたという変化がありました」

―被害男性の遺族は。
(「読売テレビ」西村拓真ディレクター)
「被害者の長男の供述調書が読み上げられた際には、『父は数年前に還暦を迎え、小樽への旅行を計画していたがコロナ禍ということもあり実現できなかった。その旅行をプレゼントする前に事件に巻き込まれてしまい、非常に後悔している』、また『自分は、“父は3度殺された”と思っている。1度目は殺害が実行されたとき、2度目は遺体が損壊されたとき、そして3度目は週刊誌などの報道によって“自分の父は死んで当然”かのような世論が形成されてしまったこと。この3点において、父は3度殺された。ただ、そんなひどい父ではなく、人を楽しませるのがすごく好きな父だった。被告3人に対しては、一家全員の極刑を望んでいます』と語っていたことが明らかになりました」

―父・修被告が入廷した際の様子について。
(西村ディレクター)
「裁判は休廷を挟み、午後3時半に再開。すぐに父・修被告が入廷しました。修被告の印象ですが、我々が入手して報じている写真からすると、顎回りの骨格がわかってしまうぐらい、非常に痩せこけた印象を受けました。裁判では嘘をつかないと宣誓をしますが、その言葉を述べている時に浩子被告のほうを見ますと、大粒の涙を流して、ハンカチで拭っても涙が止められない様子でした。しかし、その後はしっかりと前を向いて、何とか涙を堪えようとしている浩子被告の姿も印象的でした」

―被害男性の遺族に対して。
(西村ディレクター)
「弁護人が『ご遺族に対して言葉はありますか?』と修被告に問いかけると、5~10秒ほど沈黙があり、『言葉では言い尽くせない。取り返しのつかない、大変なことになってしまった。大変申し訳なく思っている』と、はっきり丁寧な口調で述べました」

―事件について。
(西村ディレクター)
「『瑠奈被告が被害者を殺害、あるいは遺体損壊などをすると思っていましたか?』という問いに対しては、『そういう認識はありませんでした』と述べました。また『頭部の遺棄・損壊について、いつ知りましたか?』という問いには、『7月2日、ホテルで事件が起きてから、自宅に帰ってきた後に、瑠奈被告が“首を拾った”と言ったので、それを聞いた時に初めて理解しました』と述べました」

◆◆◆◆◆◆◆

Q.父・修被告は「瑠奈被告が殺害するとは思っていなかった」と言っているんですね?
(亀井弁護士)
「無罪を主張していますから、当然この認識を供述せざるを得ません。なぜこのタイミングで修被告が出てくるかというと、一般的には情状証人のはずですが、自分の公判も控えていますから、浩子被告の犯罪を否定させるために、『犯罪』と『量刑』の両方の位置付けで出てきたんだと思います」

Q.母・浩子被告の情状と自身の情状も考えて、ということですか?
(亀井弁護士)
「まず浩子被告と自分を無罪にするために、犯罪の成否について言うためです。プラスして、浩子被告の量刑のため、つまり情状証人としての位置づけもあると思います」

 弁護側の冒頭陳述などによると、瑠奈被告と被害男性とは“性的なトラブル”がありました。2023年5月に瑠奈被告と被害男性が初めて会い、カラオケに誘われましたが、連れて行かれたのはホテルでした。約3時間の滞在の中で、“性的なトラブル”に発展したといいます。

 検察側の冒頭陳述によると、瑠奈被告は「絶対に見つけて仕返しする。殺してやる」と父・修被告に言っていて、クラブに通って男性を見つけ、2023年7月1日に会う約束をしたということです。父・修被告は被害男性に対し「瑠奈被告に会わないように」と電話しましたが、説得できず、二人は会うことになりました。そのため、検察側は「事件前に瑠奈被告が殺意を募らせていたことを、両親は認識していた」と主張しています。

Q.上記のやり取りがあった上で「のこぎり」や刃物を購入したことを考えると、父・修被告は「瑠奈被告が被害男性を殺害する」と認識していたとも取れますよね?
(亀井弁護士)
「検察側としては、父・修被告が『瑠奈被告が殺害に及ぶこと』を認識していないといけないので、それを主観的に立証する必要があるため、上記のことを出しています。ただ、母・浩子被告の場合には『殺人ほう助』ではなく『死体損壊』『死体遺棄』の罪名ですので、殺害することまで知らなくてもいいです」

Q.絶対的な上下関係がある中で、これをどう取るかですよね?
(亀井弁護士)
「情状の問題があるのと、絶対的な上下関係は瑠奈被告の“異常性”を示しますから、弁護側からすれば、将来的には『瑠奈被告は心神耗弱で無罪』という主張をする伏線にはなっていると思います。」

「瑠奈という魂はなくてシンシア」「問いただすということは思い浮かばなかった」父・修被告が語った、“瑠奈ファースト”な歪な親子関係

 “瑠奈ファースト”な歪な親子関係を、検察側・弁護側の双方が指摘しています。

 検察側によると、瑠奈被告は父・修被告に対し「(母・浩子被告を)熟女系の風俗にでも売り飛ばせばいい」と発言、運転中の父・修被告に対し首を絞めて自分の怒りをぶつけ、母・浩子被告には「“お嬢さん”の時間を無駄にするな。私は奴隷です。オーダーファースト」との旨の誓約書を書かせ、リビングの目立つ場所などに掲示させていたということです。

 しかし、両親の対応は、瑠奈被告が幼少の頃から叱ったり非をとがめたりするようなことはせず、瑠奈被告のことは『お嬢さん』と呼び、敬語を使用。常に瑠奈被告の機嫌をうかがい、謝るなどして怒りが収まるのを待っていたといいます。ただ、証人尋問で父・修被告は、「娘の心がこれ以上壊れないようにするには、どう接していくのか考えて、行動している。無理強いされたり、支配されているということはない」と述べました。

Q.相当歪な親子関係だと、検察側が言っているんですね?
(亀井弁護士)
「そこは前提になっています。瑠奈被告の異常性というのは、瑠奈被告にとっては責任能力の関係から言うとプラスに作用して、両親の立場にとっては、この異常性に引きずられてしまったということで量刑に影響します」

 弁護側も、“歪な親子関係”を指摘。両親が瑠奈被告を『お嬢さん』と呼ぶのに対し、瑠奈被告は父を『ドライバーさん』・母を『彼女』と呼んでいました。瑠奈被告はゴミも含めて自分の物に触れられることを極端に嫌がったため、瑠奈被告が置いたものを捨てることも移動させることもできず、家は足の踏み場がほぼない状態。浩子被告は居間に寝起きするスペースを確保するのがやっとで、父・修被告はネットカフェで寝泊まりし、出勤前・退勤後に必ず自宅に寄って、浩子被告に頼まれた買い物をする生活だったということです。

 亀井弁護士によると、浩子被告は「どういう役割を果たしたか」「ほう助と評価し得るか」、瑠奈被告は「『責任能力』の有無・程度、つまり心神耗弱と認定されるか(事件前後の行動の合理性がカギ)」、父・修被告は「娘による殺害を許容していたか」「娘の『責任能力』をどう認識していたか」が裁判のポイントだということです。

Q.心神耗弱である瑠奈被告にマインドコントロールされ、絶対的な上下関係を課せられていたとすると、母・浩子被告の量刑に影響がありますか?
(亀井弁護士)
「母・浩子被告の量刑には、どうにもやりようがなかったという点で、影響がかなりあると思います。一方で、父・修被告の場合は精神科医ということがあるので、どちらに作用するかによって変わります」

 証人尋問で、父・修被告は「10年ほど前から、瑠奈と呼ぶと『その子は死んだ』『その名前で呼ばないで』『瑠奈という魂はなくてシンシア』などと言うようになった。それから『瑠奈』と呼ぶと取り乱し、通常の親としての振る舞いが難しくなった」と話し、「どうして殺害の理由を本人に聞かなかったのか?」という問いに対しては、「シンシアにとって他人の我々に問いかけはできない。この状況でも、問いただすということは思い浮かばなかった」と答えたということです。

 また、「頭部の破損・撮影を、なぜ止めなかったのか?」という問いには、「記憶が曖昧だが、今思うに、やめなさいと言ってもやるだろうなと。本人をとがめて精神障害を悪化させたくない。穏便に時間が過ぎればという思いだった」、「なぜ通報しなかったのか?」という問いには、「今でも苦しんでいるのに、もっと壊れてしまう。追い詰めたくない。娘が抱えていることを受け止め切れず、裏切る行為になると思った」と答えたといいます。

Q.父・修被告は妻・浩子被告の証人として、家族3人が異常な状況に長年置かれていたことも鑑みて、上記のようなことを言ったのですか?
(野村修也弁護士)
「今回の裁判は父親の裁判ではなく、母親が『娘が自宅に持ち込んだ頭部を損壊することを容認していたか』というところが一番の争点です。それについて、母親の弁護側は『容認していたのではなく、致し方なかった、放っておかざるを得ない状況にあった』と言っていますので、それを裏付けるような親子関係であったことを一生懸命、主張しているという状況です。実は、“それがあったことを知りながら、放任してやらせていた”という状態があると、積極的に手伝っていなくても『ほう助』になる可能性があります。ですから、非常に微妙なところなので、“どうしようもない状況で、自分はその場にただ立ちすくんでいただけだ”と主張するために、相応しい背景事情を主張しているということだと思います」

Q.長年、家族という濃密な人間関係の中、閉ざされた空間で暮らしているとこうなってしまうのか…というところは、すごく難しいですよね?
(野村弁護士)
「難しいですね。家族だけにしかわからない親子関係の歪な状況から、今ようやく解き放たれて法廷に出てきた感じがします。ただ、今回の事件はやはり事件直前の被害者との“性的トラブル”の問題は外しては考えられなくて、そのことに対して娘がものすごく怒りを持っている状況に対し、“どうしようもなく、止められない状況だった”ということも、主張したいのではないかと思います」

Q.いつ始まるかはわかりませんが、瑠奈被告・修被告の裁判員裁判では、裁判員の方はかつてないほどの負担になるのではないでしょうか?
(亀井弁護士)
「状況もそうですし、瑠奈被告の責任能力に関する判断は非常に難しいと思います」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年7月1日・7月2日放送分を編集)

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