【独自解説】相次ぐ“操作ミス”が原因の高齢ドライバーによる事故 一方で免許返納は減少傾向…そこにある課題は?ライドシェアは救世主になる?
高齢ドライバーによる事故が各地で相次いでいて、高齢者へ免許の返納も呼びかけられていますが、「仕事で必要」「移動手段を失う」など、免許を手放せない高齢者がいることも実情です。ドライバー不足による公共交通機関の廃止・減便なども増える中、政府が議論を加速させているのが、一般のドライバーが自家用車で客を運ぶ「ライドシェア」の導入です。「ライドシェア」は新たな移動手段になるのでしょうか?交通ジャーナリストの鈴木文彦氏が解説します。
死亡事故全体のうち16.7%が高齢ドライバーによる事故
11月24日、東京80歳の男性が運転する車がガードパイプを突き破り、4人が巻き込まれ女性2人が骨折をしました。11月4日には京都で80歳の男性が運転する車で、アクセルとブレーキを踏み間違えてコインパーキングの壁を突き破り、隣接するカフェに突っ込みました。また、北海道でも9月に70代の男性が同じようにブレーキとアクセルを踏み間違え、スーパーの入り口に突っ込んでいます。9月20日、愛知では77歳の男性が運転する車が、高速道路のインターチェンジの出口から進入し、約20分間逆走の後、トラックと正面衝突しました。
交通事故での死亡事案は増加していませんが、その中で高齢ドライバーによる死亡事故の割合は増加しています。2022年には379件・16.7%となっていて過去最高、2年連続ワーストを記録しています。
特に75歳以上のドライバーの死亡事故が多いと言われています。その要因の1つ、「操作不適(操作ミス)」は75歳未満のドライバーが10%に対し、75歳以上は22.2%と倍以上の数字です。
Q.高齢ドライバーの事故は大きな社会問題ですね。
(交通ジャーナリスト 鈴木文彦氏)
「高齢になりますと、判断力や運動能力が衰えてきます。しかし、そのことを本人が自覚していないこともありますので、高齢者の運転が危険なことが多くなってしまいます」
1998年に始まった運転免許の“自主返納”制度ですが、当初は伸び悩んでいました。しかし、2019年の池袋の事故によって、返納者は60万人を超えました。ただそこをピークに、減少傾向にあります。車を手放すと「移動手段がなくなる」「仕事にならない」など、運転のリスクが高くても手放せないのが実情です。鈴木氏は「移動手段の確保が課題」だと指摘しています。
加速する公共交通機関の運転手不足
そんな中、路線バスの減便や廃止も加速しています。大阪の金剛バスが12月20日で全線廃止。大阪・京都・滋賀を走っている京阪バスが来春までに16の路線を廃止。千葉中央バスや関東鉄道なども大幅減便となっています。鈴木氏によると「路線バスの減便・廃止の波は全国に広がっている」ということです。
主なバス会社127社に問い合わせたところ81.1%が2023年以降に減便や廃止をすると答えています。その要因として、沿線住民の減少・燃料高騰・運転手不足などがあるということです。また、2024年4月から法改正で「時間外労働の規制強化」が行われます。その影響として、ドライバーの拘束時間の減少、売り上げ・利益の減少、ドライバーの収入の減少などが起こります。日本バス協会は、運転者の数は今後減少して行き、このままでは2030年には4万人が不足すると予想しています。鈴木氏は「地域インフラを担う運転手の魅力発信も重要」と指摘しています。
Q.2024年の法改正でどんな問題が出てきますか?
(鈴木氏)
「2024年問題は、バスだけではなく全ての物流などのドライバーに言えることですが、バスだと退勤をしてから次の業務まで最低9時間あけなければならなくなります。朝のラッシュ時にドライバーを確保しようとすると、夜間は繰り上げないといけなくなるなどの影響が出てくると予想されます」
Q.例えば地元に戻ってバスの運転手をしようと思ってもハードルが高いように思います。
(鈴木氏)
「バス会社や自治体が、運転手の養成や免許取得の支援などをしています。故郷で仕事ができるというのは、バスやタクシーの運転手の魅力なのですが、その魅力の発信ができていないと思います」
さらにタクシー業界の運転手不足も深刻です。車の数はそれほど減っていませんが、利用者がコロナ禍で大きく減ってしまいました。運転手の数も2013年~2023年の10年で約2割減少しています。いま、コロナ禍が明けて利用者が増加しているのですが、運転手がいないという状態です。鈴木氏によると「都市部では、高齢化により夜間のドライバーが不足している。地方では、人も車も不足しエリアのカバーが困難」ということです。
(鈴木氏)
「まず、コロナ禍で離職者が多くいたというのがあります。そしてドライバーの平均年齢がどんどん上がっていて、あるタクシー会社の経営者は『夜、目が見えないと言われると乗せるわけにはいかない』と言っています。そのため夜間のタクシーが拾えない、駅待ちのタクシーもいないということになっています。こういった状況の中で、二種免許の在り方などはこれから議論されていくと思います。二種免許の難易度や費用の面も緩和することによってプロドライバーを育てることも必要だと思います」
ライドシェアや自動運転は救世主になる?
運転手不足解消の救世主として、日本でもライドシェア導入について検討が始められようとしています。ライドシェアとは、一般の運転手が自分の車で利用者を運ぶというもので、アメリカで始まりました。利用者と運転手は「配車アプリ」でマッチングされ、利用料などもこのアプリ経由で支払われます。アメリカの場合、運転手は証明写真・住民票などを提出し、免許・良好な状態の4ドア車を所有している、自動車保険の証明がある、国内で1年以上の運転経験がある、などの条件があり、運転経歴や犯罪歴の審査も行われるということです。また、アプリに運転手の評価が示されるということです。
今の日本では、ライドシェアは“白タク”ということで違法ですが、超党派でライドシェア勉強会が発足し、一部地域では実証実験が開始されています。神奈川県では、配車管理や料金決済はアプリで行い、運行や整備の管理をタクシー会社が行う「神奈川県版ライドシェア」の検討を開始しています。ライドシェアのメリットは、利用者は料金が安くなることと、運転手側には働く時間に自由度が高まるという点があります。デメリットは、運転手の質が不均一、事故などのトラブルのノウハウに不安がある点があげられます。
Q.アメリカで普及していて、とても便利だと聞きますが、日本でも普及するでしょうか?
(鈴木氏)
「日本の場合はプロの技術が高いので、プロに対しての信頼感もとても高いです。日本でライドシェアがどれだけプロに匹敵したサービスが提供できるのかが課題です。また、アルコールチェックや車の整備がきちんと行われているのかなどが見えるようにしていく必要があると思います。不安をいかに拭うかが重要です」
また、高齢者事故の増加や運転手不足の解消につながる自動運転ですが、海外ではサンフランシスコなどで有料の無人タクシーのサービスが始まっています。日本でもその実験が各地で行われていますが、海外も日本も全く無事故というわけではなく、停車中に追突されたり、ほかの車に接触したりするなどの事故が起こっています。
Q.自動運転はどこまで進んでいるのでしょうか?
(鈴木氏)
「技術的には、相当なレベルまで達していますが、大きく三つ課題があります。まずは“法整備”です。事故が起こったとき、誰が運転の責任を持つのか、保険をどうするのか?という所の整備ができていません。もう一つは自動運転と人の運転する車が混在している期間の“安全確保”をどうするのか?そして、まだ“コスト”がかなり高いので、この“コスト”をだれが負担するのか?ということがあると思います」
(「情報ライブミヤネ屋」2023年12月7日放送)