県と市でW受賞!藤井八冠に新たな“称号”、贈呈品・硯の“丸み”に職人が込めた想い
将棋の駒をモチーフにしながらも、“丸み”を帯びた硯。金鳳石でつくられた硯には、若き棋士の柔らかな人柄が映し出されていた。
地元に感謝「支えてもらったおかげで成長して棋士になれた」
将棋界にある8つのタイトルをすべて独占する“八冠達成”を成し遂げた、愛知県瀬戸市在住の藤井聡太八冠。今月30日、その功績を称え、瀬戸市から藤井八冠に「瀬戸市名誉市民」の称号が贈られた。過去に8名が選ばれている「瀬戸市名誉市民」だが、21歳という若さで「名誉市民」となるのは史上初。瀬戸市役所で行われた式典では、市長から藤井八冠へ推挙状と名誉市民章が手渡された。
市の花・ツバキをモチーフとした名誉市民章。30万円相当の純銀でつくられており、裏面には藤井八冠の名前が刻まれた特注品だ。地元から贈られた“新たな称号”に、藤井八冠は「瀬戸市名誉市民に推挙いただきましたことを大変光栄に思っています。地元の方に支えてもらったおかげで成長して棋士になれたと感じています。今後も瀬戸市の方に喜んでもらえる活躍ができるよう、精一杯頑張りたいと考えています」と生まれ育った街へ感謝を述べた。
地元・瀬戸市では、「(瀬戸市名誉市民に)ふさわしい人。大変光栄なことだよね」、「(藤井八冠は)私たちの誇り。賞(名誉市民)を受け取ってくださったことも、すごく嬉しい」など祝福の声が多く寄せられ、瀬戸市で生まれ育った若き棋士の成長に喜びを滲ませた。
記念品は伝統工芸品の“硯箱”と“硯”
「瀬戸市名誉市民」授与の式典が行われた2時間前、藤井八冠には“もう一つ”の賞が贈られていた。それは、過去に浅田真央さんや吉田沙保里さんに授与されてきた「愛知県県民栄誉賞」だ。授賞の理由について、愛知県は「前人未到の八冠達成という偉業を成し遂げたことが、世代を超えて広く県民に夢や希望を与えたため」とコメント。式典では、大村秀章愛知県知事から藤井八冠へ「愛知県県民栄誉賞」と記念品が贈呈された。
記念品として贈呈されたのは、愛知県の伝統工芸品「彩釉七宝杜若文硯箱」と郷土伝統工芸品「鳳来寺硯」。日常的に墨で揮毫する機会の多い藤井八冠のため、書に関する記念品が選ばれた。
県民栄誉賞のお礼に藤井八冠が準備したものは、「大志」と揮毫(きごう)した色紙。過去、大村知事に21手詰めの詰め将棋を描いた色紙を手渡したことがある藤井八冠。大村知事曰く「うちの県庁の有段者に解かしてみたら、80分かかった」という難問だったという詰め将棋。「今回は詰め将棋ではありませんのでご安心ください」と笑みを浮かべながら色紙を手渡し、対局中には見られないチャーミングな一面も覗かせた。
素直で柔らかい物腰を“丸み”で表現
丸みを帯びた形が特徴的な「鳳来寺硯」。その“丸み”には、硯を手がけた「鳳鳴堂硯舗」五代目・名倉鳳山さんのこだわりが込められていた。
新城市の鳳来寺山の麓に店を構えて130年となる「鳳鳴堂硯舗」。今から51年前、新城市で将棋のタイトル戦が行われた際、先代の四代目がタイトル戦の戦いを硯で表現した「名人硯」を手がけるなど、将棋界との関わりも深い硯店だ。今回の硯では、愛知県新城市で採れる“金鳳石”と呼ばれる良質な石を使用。光をあてると、中に含まれる黄鉄鉱がキラキラ光る表情が特徴だ。
藤井八冠の印象について、「彼の将棋を指す姿、そして勝ってインタビューを受けている姿を見ていると、なにか柔らかい線を感じた」という名倉さん。この“柔らかさ”こそ、記念品の硯に“丸み”が施された理由。「将棋の駒をデザインに取り入れることは根底にあった。藤井八冠の笑顔、若く爽やかな佇まい、温和な話し方。(藤井八冠がもつ)柔らかい物腰と素直な線を、シンプルでホワッとした曲線で表現しようと思った」と、デザインに込められた想いを明かした。
続けて、「(最近は)墨汁を使う方が多いので、硯をつくる方が日本でも数人ぐらいになってしまった。そういった寂しい中で、私の方まで(記念品つくりを通して)活躍の光を当ててくれたことが非常に嬉しい。自分も、もう少し頑張らなという気になります。ありがたいことです」と感謝を述べた。
“実践の感覚”を失わないように取り組んでいきたい
“八冠達成”という偉業に続き、「瀬戸市名誉市民」・「愛知県県民栄誉賞」のW授賞を果たした藤井八冠。瀬戸市役所で行われた会見では、「(街全体で)応援いただいていて、その応援が励みになっています。今後も応援を励みにして、良い報告ができるよう精進していきたい」と授賞の喜びを滲ませた。続けて、「1年間の対局を振り返ると、上手くいったところと、そうでなかったところがあった。それを一つ一つしっかり振り返って改善していきたい。少し対局が空くので、実践の感覚を失わないように、しっかり取り組んでいきたい」と、これから続く戦いへの決意を表した。