【特集】殺害の動機は“ロマンス詐欺”か 裁判で明らかになった驚きの“事件の背景”… ブラジル国籍の妻を殺害したなどの罪で無期懲役判決のブラジル国籍の夫 三重・鈴鹿市
2023年5月、三重県鈴鹿市でブラジル人女性が殺害された事件。発生から20日後、女性のブラジル国籍の夫が強盗殺人などの容疑で逮捕されました。
夫は逮捕前、中京テレビの取材に対し「殺すわけがない」などと犯行を否定、その一方で夫婦が激しく喧嘩する様子がインターネット上に流れるなど注目されたこの事件。
4か月にわたり開かれた裁判で驚きの“事件の背景”が明らかになっていきました。
起訴状によりますと、強盗殺人の罪で起訴されたのはブラジル国籍のプラテス・アルメイダ・デメルソン被告(50)と、デメルソン被告の長女アイハラ・アルメイダ・キンベリ・カオリ被告(27)の内縁の夫ハコザキ・ルカス・ハルユキ被告(24)です。
そして、カオリ被告は、強盗殺人幇助の罪で起訴されました。
デメルソン被告とルカス被告は2023年5月3日、鈴鹿市で、共謀の上、デメルソン被告の妻のアイハラ・アルメイダ・ロゼリさん(当時46)の頭を手斧で切りつけて殺害した上、財布などの入ったカバンを奪ったとされています。
また、カオリ被告は、現場付近で見張り役としてロゼリさんの帰宅をデメルソン被告に知らせるなどしたとされています。
事件から約1年半後の2024年12月、津地裁で判決公判が開かれました。
「被告人を無期懲役に処する」
デメルソン被告は強盗殺人を計画し、ロゼリさんを殺害したにもかかわらず、不合理な弁解に終始し、反省していないなどとして無期懲役の判決が言い渡されました。
裁判長が判決文を読み上げる間、表情を変えずうつむき加減のままだったデメルソン被告。
裁判でも一貫して殺意を否認していました。共犯として逮捕起訴された娘の内縁の夫、ルカス被告が殺害し、自分は殺害を止めようとしたのだと主張していたのです。
デメルソン被告が妻、ロゼリさんと結婚したのは今から32年前、デメルソン被告が18歳、ロゼリさんが16歳の時でした。
2年後、2人は出稼ぎのために来日したといいます。デメルソン被告は、その後、トラックの運転手として安定した収入を得るようになり、 2人の子どもにも恵まれました。
家族4人で幸せな家庭を築いていくはずでした。
しかし、裁判で明らかになったのは…。
「亭主が朝から仕事に行くのに弁当も作らない女なんだな」
子どもが小学生になった頃、デメルソン被告は妻ロゼリさんにこんな言葉を投げつけるようになっていたといいます。一方、ロゼリさんも夫に対する不満を募らせていき、いつしか夫婦は家庭内別居のような状態になっていきました。
そして事件が起こる半年前、2022年11月にデメルソン被告はロゼリさんと激しい喧嘩をして警察が出動する騒ぎに。言い争いの末、ロゼリさんの荷物を手当たり次第、家の外に投げ捨てて彼女を家から追い出しました。
ロゼリさんはこの喧嘩をSNSに投稿していたのです。
妻に不満を募らせた夫が殺害したとみられた事件。
しかし、2024年9月に始まった裁判、検察側は冒頭陳述で驚きの事実を明らかに。
「デメルソン被告は『マリエ』と名乗る女性とインターネット上で知り合い、好意を寄せるようになった」
さらに、検察はその後の裁判でも。
デメルソン被告はアメリカに住んでいるというマリエの事を『私の愛する妻』と呼び、指定された口座に100万円以上の現金を振り込んでいたというのです。
同じく共犯として強盗殺人の罪で起訴されたルカス被告の被告人質問。(ルカス被告 一審懲役20年判決 控訴中)
「デメルソンはマリエと結婚したいからロゼリさんと離婚したいと言っていた」「マリエに対し恋…好きだったと思う」
デメルソン被告が「事件前、よくマリエについて話していた」と証言したのです。
「ロマンス詐欺では…」と疑念を抱いたルカス被告がデメルソン被告に忠告しても、聞く耳を持たなかったといいます。
「デメルソンは『マリエはちゃんとした人で連絡も取っている』と言って、話を聞いてもらえなかった。こんな話をするとデメルソンの声のトーンが上がって怒ったような感じになって…」
さらに、ルカス被告は事件の4日後にデメルソン被告から聞いた話としてこう証言しました。
「ロゼリと離婚するには(ブラジルの裁判所などに対する)手続きに金がかかるから、マリエと結婚するには殺すしかないと話していました」
デメルソン被告の長女で強盗殺人幇助の罪に問われたカオリ被告。(カオリ被告 一審懲役15年判決 控訴中)
そのカオリ被告は被告人質問で
「父(デメルソン被告)から事件の報酬としてお金は全く受け取っていません」と話す一方…「父(デメルソン被告)からブラジルで良い暮らしができると聞いていました」
しかし、それにはある条件が付いていたといいます。
「マリエが6億円を送ってくれれば…という話だったんです」
これに対し、デメルソン被告は法廷ではマリエとはFXを通じての関係で、 口座に金を振り込んだのも投資だったと主張しました。
「典型的な今のロマンス詐欺の手口だよ」
SNSを使ったロマンス詐欺や投資詐欺を担当している警察の捜査関係者は断言しました。
ロマンス詐欺とはインターネット上で架空の人物に成りすまし、恋愛感情を抱いた被害者から金を騙し取るもの。最近では結婚資金を増やす事などを口実に、ニセの投資話に巻き込んで更に金を巻き上げる手口が主流になっているといいます。
三重県内だけでも2024年1月~11月、SNSを悪用したロマンス詐欺はわかっているだけで115件発生、8億円以上の被害が出ています。2023年年と比べて被害額は100倍以上。
中京テレビの取材に対し捜査関係者は驚きを隠せない様子で語りました。
「ロマンス詐欺が殺人の動機になったというのはこれまでに聞いたことない」
検察は法廷でデメルソン被告が事件当日、犯行を起こす直前に「マリエ」に送ったとされるSNSのメッセージを読み上げました。
『私たちが一緒になる努力をしている。』
そして、犯行から4日後には…。
『今、私(デメルソン被告)はあなた(マリエ)のためにフリーです。いつでもあなたが望む時に本当の結婚をするために。もう私たちの関係を正式なものにする事を妨げるものは何もありません』
判決で津地方裁判所は、デメルソン被告はマリエと結婚するために不仲だったロゼリさんがいなくなればいいと考えるようになったと結論付けました。
“ロマンス詐欺”が犯行のきっかけだったのでしょうか。
判決言い渡しの際、表情を変えることはなかったデメルソン被告。無期懲役判決の翌日に控訴しました。
なぜロゼリさんは殺害されなければならなかったのでしょうか。名古屋高裁で開かれる予定の控訴審の日程はまだ決まっていません。