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成功の裏にあった技術者の苦難 愛知が支えた「H3ロケット」の開発

2024年2月22日 15:45
成功の裏にあった技術者の苦難 愛知が支えた「H3ロケット」の開発

2月17日に鹿児島県・種子島から打ち上げられた「H3ロケット」。歓喜に沸いた打ち上げ成功を支えたのは、“ものづくり王国・愛知”の技術だった。苦難を乗り越え、挑戦し続けた3人の技術者たちの素顔に迫る。

日本初!3Dプリンターを使用したエンジン部品製造

実は愛知県はロケット産業の中心地。飛島村の「飛島工場」では機体、名古屋市の港区「大江工場」では部品、小牧市の「小牧北工場」ではエンジンの製造が行われている。中京テレビ「キャッチ!」では、この3 拠点で活躍する技術者たちを取材した。

三菱重工の長崎茜さん(小牧北工場・取材時)は、ロケット部品を作る技術者。長崎さんが作った部品は、巨大なロケットの一番下にあるエンジンに組み込まれている。ロケットの下から自身の手がけた部品を教えてくれた長崎さん。「ちょっと見えにくいんですが、下から上に上がっている“曲げ配管”が3D造形品です。我が子のようにかわいく見えます」と試行錯誤の末に生まれた“大切な部品”への思いを語った。

長崎さんが取り組んでいたのは、日本で初めての試みとなる3Dプリンターを使ったロケットエンジンの部品製造。入社2年目で任された重要な仕事だったが、機械は思うようには動いてくれなかった。「(日本初の試みのため)先輩方からの意見を聞けずに、自分で試行錯誤で闘うしかないのが大変でした。見るからに笑顔がなくなって、食欲も出なかったです」と苦労の日々を振り返る。

当初の打ち上げ予定から遅れること約2年。ようやく打ち上げにこぎ着けたと思ったら、約1年前に経験したまさかの打ち上げ失敗。どん底からの再挑戦だった。

計算通りにいかないからこそ“面白い”

「H3ロケット」を支える技術者はほかにも。三菱重工の柴田晶羽さんだ。柴田さんは一児のママ。娘の優織(ゆうり)ちゃんの名前には、宇宙と関わりの深い“ある人物”の名前が由来していた。由来について、柴田さんは「(名前の由来は)ユーリ・ガガーリンです。ロケットつながりで。ロシアの宇宙飛行士の方で、世界で一番最初にロケットに乗り宇宙に行った人です。何でも挑戦してほしいので、この名前にしました」と明かした。

ホコリひとつも許されない場所で、重要な部品を製造する柴田さん。打ち上げの際にエンジンなどが引き起こす、強烈な振動をおさえる部品だ。

振動試験の失敗がトラウマとなり、退職を考えた時期もあったという。「入社前はもっとスマートな仕事だと思ってたんですけど、計算通りにはいきませんでした。そういうことが毎日のように起きていて。(そういう部分が)“泥臭い”といえばそうなんですが、“面白いところ”でもあると思います」と仕事のやりがいを笑顔で語った。

メインエンジンは自分の“生き写し”

同じく、成功を支えた三菱重工の渡邊大輝さん(小牧北工場)。積み重ねられた苦労の陰には、受け継いできた思いがあった。小学生の時、宇宙飛行士に出した手紙の返事をもらったのがキッカケで、宇宙に憧れをもった渡邊さん。入社以来携わってきたメインエンジンは、まるで自分の“生き写し”のようだという。

「長い間、いろんな人のパスを受け取って形にしていく。いろんな意味で緊張します」と話す渡邊さん。“ものづくりの原点”は渡邊さんの祖父だった。テレビ塔の基礎部分を避けるために、急カーブのルートで進めなければならなかった地下鉄名城線の建設。この難しい工事を担っていたのが渡邊さんの祖父だった。人々の暮らしのため、難工事に挑んだ祖父。そんな祖父の姿は、渡邊さんにとって憧れの存在となった。

渡邊さんの目標は、“人工衛星を利用した日々の暮らしに貢献していく”こと。渡邊さんが生まれたのは、海抜ゼロメートル地帯がある愛知県愛西市。自分の打ち上げた衛星が、少しでも地元の防災に役立てばと願っている。

宇宙輸送の技術を着実に成長させたい

地元の技術者たちの願いを乗せて、打ち上げが成功した「H3ロケット」。打ち上げ成功について、長崎さんは、「失敗がありましたので、打ち上げ成功までの期間はすごく長くて。成功したという結果を受けて、すごく感慨深かったです」と笑顔を浮かべる。柴田さんは、「本当に打ち上がってよかったなと思います。みんなの1つ1つの積み重なりが、打ち上げ成功につながったのかなと思います」とすべての技術者たちの努力と苦労に思いを寄せた。「これでようやくスタートラインだっていう、そういう思いが本当に強い」と嬉しさを滲ませる渡邊さん。続けて「日本の宇宙輸送をしっかりとしたものに維持し、成長させることを着実に続けていきたいです」と今後の展望を語った。

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