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中津川の老舗酒蔵が北海道へ移転、地球の“温暖化”から逃れる人々

2024年3月15日 11:40
中津川の老舗酒蔵が北海道へ移転、地球の“温暖化”から逃れる人々

1500㎞以上も離れた北海道へ引っ越しを決意した老舗酒蔵『三千櫻酒造』。大きな決断の背景にあったのは、地球の“温暖化”だった。岐阜県で愛され続けてきた“岐阜県の地酒”は、“北海道の地酒”として新たな歴史を築いていく。

中津川から1500㎞以上も離れた北海道へ移転

岐阜県中津川市、田畑が広がるなか、煙突が目立つ建物が。明治10年創業の『三千櫻酒造』の酒蔵だ。歴史を感じる蔵のなかには、米を蒸す窯やタンクが並ぶが蔵内に人の気配はない。実は『三千櫻酒造』、約4年前に中津川市から“引っ越し”をしたのだ。

中津川を代表する地酒の酒蔵として、長く愛されてきた『三千櫻酒造』。地元で飲食店を営む店主は「ショックというか残念な気持ち。山田さんの気持ちも理解できるので、応援という意味で送り出すことはできましたけど」と当時の心境を振り返る。

“山田さん”とは、『三千櫻酒造』の6代目・山田耕司さんのこと。山田さんが引っ越しを決めた場所、それは中津川市から1500㎞以上も離れた北海道東川町だった。


今月8日、東川町に新設された『三千櫻酒造』の蔵の中では、山田さんをはじめ職人たちが麹造りに取り組んでいた。暖房を入れた蔵内は、温度計で温度管理。その重要性について、山田さんは「(温度管理は)重要です。麹の生育温度でちょっとずつ生成する酵素が変わってくるので」と話す。日本酒造りに重要な“温度管理”。それが、中津川市では難しくなってしまったという。

その大きな理由が、地球温暖化による冬の気温上昇。中津川ではこの45年間で、3月の平均気温が約1.7℃も高くなっていた。気温上昇の影響を受けるのが、蒸し米と麹などを混ぜ発酵させる作業。これまで『三千櫻酒造』では、中津川の冬の冷たい外気を使い、低温管理を続けてきた。しかし、平均気温の上昇により、その作業が困難になってしまったのだ。

明治10年から続く酒蔵。老朽化した蔵は温度管理がしにくく、また冷房を完備することは資金面で難しかったという。中津川では気温の高い日は氷を使って冷やしていたが、北海道東川町では扉の向こうは雪景色だ。昨年3月の気象庁のデータによると、東川町の3月平均気温は、中津川より7℃以上低い2.2℃。つまり、酒造りに適した“寒さ”なのだ。山田さんは「ここを開けておけばいくらでも外気がはいってくる。この寒さは大事ですね」と東川町の気候について話した。

世界中で現れる“地球温暖化”の影響

「これは昭和35年生まれですから僕と大体同い年」と山田さんが指したのは、中津川で使っていたタンク。蔵内にずらりと並び、東川町でも『三千櫻酒造』の酒造りを支えている。

140年以上続く家族経営の小さな蔵。気温以外にも、蔵の建設費は東川町が負担してくれることもあり移転を決めた。山田さんは、「ずっと岐阜でやってたら、おそらく、今頃潰れているかもしれない。寂しいには寂しいですけど、蔵をずっと存続するにはどうするかという決断なので」と決断に至った胸の内を明かした。

温暖化の影響は、今、世界中に現れている。国連難民高弁務官事務所によると、温暖化に伴う気候変動で故郷を追われ、他の地域に避難している人々は年間平均2000万人以上にものぼるという。

また、リゾート地としても人気を集める、インド洋に浮かぶ島国・モルディブでは、温暖化の影響で砂浜が浸食され木の根がむき出しに。過去100年で、約19㎝上昇している世界の海面。今世紀末には最大で82㎝上昇すると予測されており、モルディブは国土のほとんどが水没する恐れがある。

温暖化の影響は、動物たちにも。ロシアの村のゴミ処分場では、餌をあさるホッキョクグマが出現。気温の上昇で海面が凍結する期間が短くなり、十分な狩りができなくなったホッキョクグマ。餌を求め、本来の生息域から遠く離れた人里までやってきたのだ。

深刻化する地球温暖化。その影響は、世界中でさまざまな形で現れているのだ。

“東川町の地酒”として知名度も高まる

酒造りに適した環境を求め、中津川から北海道東川町に引っ越してきた『三千櫻酒造』。移転から4年、東川町の地酒として徐々に知名度が高まっている。『三千櫻酒造』の酒を味わったお客さんからは、「甘いけど後味はすっと消えていくので飲みやすい。おいしい」「水がいいのか分からないけど、飲みやすい澄んだ感じがします」という声が寄せられるなど評判も上々。

また、“北海道土産”として『三千櫻酒造』の酒を購入していく観光客の姿も。北海道で酒屋を営む「うえ田」の上田桂輔社長は、「(『三千櫻酒造』の酒を)前回飲んで美味しかったら、また違うのを買いたいって声をよく聞くので、お店としても力強い蔵元さん」と話す。

蔵の存続のため、新しい土地へ移転を決断した『三千櫻酒造』。しかし、気候変動は他の蔵元も抱える課題だ。
山田さんは「土蔵の蔵を全館冷房に改装するなんてことはできないし、立て直すとそれなりにお金がかかる」と蔵元の現状を明かす。続けて、「その辺をどう判断するかですよね。もう自分たちで対処するしかしょうがない」と、6代目として存続に対する覚悟を述べた。

岐阜県中津川市の人々に愛され続けてきた『三千櫻酒造』の酒。明治から受け継がれてきた味は、東川町の“地酒”として新たな歴史を刻んでいく。

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