処分に数千万円かかる10トン超の「漁網」 アートに活用して町の歴史を継承 三重・四日市市
処分に数千万円がかかると言われた産業廃棄物。これをアートに活用する男性を取材しました。
祖父が残した10トン以上の「漁網」 処分に数千万円…どうする?
三重県伊賀市にあるギャラリー。中をのぞくと美術家の吉田凱一さん(26)が、定期的に開催している個展の準備を進めていました。
部屋の中央に置かれた大きなオブジェに使われているのは、漁業で魚などを捕獲するために使う「漁網」。吉田さんは漁網や海で拾ってきた海洋ゴミを材料にアート作品を作っているのです。立体的なオブジェのほかにも、油絵と漁網を組み合わせて作る「漁網アート」と呼ばれる絵も制作しています。
吉田さんの製作拠点がある三重県四日市市は、かつて漁網の一大生産地のひとつでした。吉田さんの祖父・常信さんは、四日市市内で漁網を製造する工場を長年営んでいましたが、2016年2月に脳梗塞で倒れ、意識が戻らぬまま他界。60年続いた漁網工場も閉業することに。
漁網製造に生涯を捧げた祖父の死後に遺されたのは、漁網の在庫と老朽化した工場でした。推定10トン以上はある漁網の処分には、数千万円もの費用がかかります。そこで、吉田さんは漁網を何かに再利用できないかと考え、大学卒業後は漁網メーカーに就職しました。
吉田凱一さん:
「祖父は倒れたのも工場でしたし、この工場だったり漁網のことはすごく愛していた人。その彼が築いてきたものをただ処分して、なかったことにするのは自分としてはできなかった。なんとかして活用手段を見つけて付加価値をもたせることを目指した」
漁網や海洋ゴミがアートに変身! 地元商店街でファッションショーも開催
漁網メーカー退職後、廃棄する予定だった漁網や海洋ゴミに新たな価値を生み出すべく、アート作品などを作り、販売しはじめた吉田さん。祖父の工場は現在アトリエになっています。
去年、クラウドファンディングで資金を募ったところ100万円以上集まり、漁網やレジ袋などを再利用して作った「漁網ドレス」を披露するべく、地元商店街でファッションショーを開催。100人を超える観客が集まりました。
吉田凱一さん:
「昨年のファッションショーのテーマは、公害を乗り越えた四日市。黒い煙がもくもくして公害がひどかったときの四日市をテーマにした、黒いドレスと白いドレスという構成。やりきれたときは感謝の気持ちでいっぱいになった。祖父が残した網がこんなに美しい姿でドレスに変わっていく様を見たときに感動しました」
吉田さんがアート作品に使う材料は、海岸で拾い集めたもの。砂浜に流れ着く様々なゴミは、吉田さんにとって大切な材料のひとつです。
吉田さんは現在、9月に開催する新たなファッションショーに向け準備を進めています。
吉田凱一さん:
「この町は網の産業があって発展してきたんだと、次世代に受け継ぎたい。歴史をアートとして残していって、数十年後数百年後の人たちにつないでいく」
祖父が残した産業の記憶を未来につなぐため、吉田さんは作品を作り続けます。