高校生たちが宇宙で有松絞りに成功!染料は成層圏の紫外線、“宇宙有松絞り”と名付け商品化「宇宙の魅力は、飽きることがないこと」 愛知・名古屋
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ー染め物を成層圏へ飛ばし、新たな模様を作る。
旭丘高校天文部所属の高校生らで結成されたチーム「Maroon Grampus」が掲げた壮大な夢が、ついに宇宙で実現しました。伝統工芸品「有松・鳴海絞り」の技法によって、染められた“宇宙有松絞り”。Maroon Grampusを率いる、同校天文部・岡田颯仁さんに、成功までの道のりや今後の展望、宇宙の魅力などについて聞きました。
有松・鳴海絞りの振興につなげたい
企画を考える際、他チームや過去の事例と全く異なる、斬新な企画を提案したいと考えていたMaroon Grampus。チーム内で話し合った結果、“染め物を成層圏へ飛ばし、新たな模様を作る”という企画を考えついたといいます。
Maroon Grampusが注目したのは、地元・名古屋が誇る伝統工芸品「有松・鳴海絞り」。岡田さんはその理由について、「近年、この染め物は衰退傾向にあります。企画にすれば有松・鳴海絞りの振興にも繋げることが出来るのではないかと考えました」と話します。
2024年7月に内容が決定し、8月より先行研究・試験機の制作などに着手、その後10月に打ち上げが行われたという同プロジェクト。Maroon Grampusはどのようなアイデアと方法で、成層圏で有松絞りを成功させたのでしょうか。
染料は“成層圏の紫外線”!感光剤の変色を利用
Maroon Grampusが染料代わりに目をつけたのは、成層圏の“紫外線”。上空は地上より放射線が強いため、紫外線に反応する感光剤を布に染みこませ、感光剤の変色を利用して有松絞りの模様を作ろうと考えたのです。
スペースバルーンで成層圏まで飛ばした布は、「感光剤を塗布したもの」・「光で色褪せしやすい染料で染めたもの」・「藍染の有松絞り」の三種類。布に施された絞りは、有松絞りデザイナー・安保成子さんが手掛けました。
スペースバルーンに有松絞りを付けて、高度28000mまで飛ばしたMaroon Grampus。3種類の布はそれぞれ別の仕様で打ち上げ、結果を比較しました。
「感光剤を塗布したもの」は、感光剤を塗布した布を絞り、バルーンに付けて成層圏へ。地上に戻ってきたら、布を洗い、紐を解く方法を実施しました。結果は見事成功!出来た模様をMaroon Grampusは、「宇宙有松絞り」を名付けました。
青色と無色が放射線状の模様を描く「宇宙有松絞り」。岡田さんによると、青色は紫外線によって“変色した部分”、無色は“変色していない部分”となっており、絞られた布の外側と内側で日光の当たり方が異なったことが影響しているといいます。
上空の強力な日光による、布の“色褪せ”を利用して、模様を作ることを目的に用意された布が「光で色褪せしやすい染料で染めたもの」。そのため染料には、「メチレンブルー」という青色の染料を利用しました。同布は、布を絞り、染料で染めた後、バルーンで成層圏へ。こちらの結果は、あまり変化が見られなかったといいます。
「藍染の有松絞り」では、通常の有松絞りに用いられる染料を使用。岡田さん曰く、「藍はメチレンブルーほどでは無いですが、色褪せしやすい」という点から、同染料で染めた布をバルーンで成層圏へ飛ばしましたが、こちらも“変化無し”という結果となりました。
専用の試験機を使い、気球で布を成層圏へ打ち上げたMaroon Grampus。装置の制作工程で苦労したことについて、岡田さんは「感光剤に地上で光が当たらないようにすること」を挙げました。感光剤を確実に“成層圏“で変色させるため、地上で光が布に当たらないようにする仕組みを研究。
「最終的には、“布に上からカバーを被せてバルーンにつけて、バルーン落下の瞬間にカバーが下からの風で剥がれる”という仕組みにしたのですが、それまでにメンバーでどの方法が良いか、かなり話し合いました」と、試験機制作時を振り返りました。
宇宙有松絞りを商品化、オンライン販売へ
成功した宇宙有松絞りを初めて見たとき、「思わず“宇宙だー!”という声を上げました」というMaroon Grampus。「(宇宙有松絞りが)こんなにも良い形で出来るとは誰も思っていなかったため、大変嬉しかったです。それと同時に、この柄をより多くの人に知ってもらいたいと思いました」と、岡田さんは当時の心境を明かします。
そんな思いを実現するべく、Maroon Grampusは宇宙有松絞りを商品化。有松絞りデザイナー・安保さんが主宰する有松絞りの企画・制作会社「ABO NON KIKAKU」と協力し、Tシャツやトートバッグ、ハンカチなどの製品に宇宙有松絞りをプリント。商品のオンライン販売をスタートさせました。
有松絞りの振興を目指し、活動の幅を広げるMaroon Grampus。岡田さんは、「他にも成果発表などを通して、有松絞りの知名度向上に努めていきたいです」と活動への思いを述べました。
また、Maroon Grampusは宇宙有松絞りの成功を経て、3月より米国視察のため渡米。ワシントン大学や現地の航空会社を訪問するほか、航空宇宙産業を学び、今回の活動も紹介するといいます。メンバー全員が、非常に楽しみにしているという視察。岡田さんは、「企業様や大学で私どもの活動を発表する機会があるので、そこで有松・鳴海絞りや宇宙有松絞りのことを人々に伝えていきたいです」と意気込みます。
湧き上がる好奇心「あの星には何があるのだろう」
“染め物を成層圏へ飛ばし、新たな模様を作る”という、壮大なプロジェクトを成功させたMaroon Grampus。
今回の挑戦を通して、岡田さんは「宇宙が身近になると共に、より興味が湧きました」と話します。続けて、「成層圏の環境に関する知識が非常に増えました。自分たちの機体が成層圏を飛ぶ映像を見た時は、『本当に成層圏へ行ったんだな』という達成感と、『もっと宇宙や成層圏について知りたい』という好奇心が心に湧きました」と、宇宙に対する印象の変化を明かしました。
最後に、宇宙の魅力について聞いてみると、「飽きることがないこと」という答えが。「地球から肉眼で見える星だけでも4000を超えますから、その全てに人類が行くことは不可能に近いでしょう。だからこそ、“あの星には何があるのだろう”という妄想は、止まることがないのです」と、宇宙への想いを語りました。
高校生たちの手によって、宇宙で誕生した「宇宙有松絞り」。同模様の商品を販売するオンラインサイトは、Maroon Grampus公式Instagramからもチェックすることができます。