×

“苦手”がくれた教師の夢、吃音の高校生が接客「私は話すことが大好き」

2024年2月7日 18:48
“苦手”がくれた教師の夢、吃音の高校生が接客「私は話すことが大好き」

小学生の頃、音読の授業で自分が“吃音”であることに気が付いた。吃音を機に教師の夢を抱いた、高校生の鈴木蒼唯さん。自分に自信をつけるため、彼女が取り組んだのは、“話すこと”のスキルが求められる「接客」だった。 『注文に時間がかかるカフェ』と名付けられた1日限定のカフェで、接客に挑戦した蒼唯さんを取材した。

全国の約120万人が抱える発話障害「吃音」

“吃音(きつおん)”とは、話し言葉が滑らかに出ないことがある発話障害のこと。吃音に悩む人は、全国に約120万人いるといわれている。鈴木蒼唯さんは、岐阜県内に通う高校生。蒼唯さんが、吃音を自覚したのは小学1年生の頃。国語の音読の時間に吃音の症状が出て、クラスメイトにからかわれたことがキッカケだった。「(同級生から)「なんだよその読み方」とか、あと普通に笑い声が聞こえた。そういう言葉を言われたときに、“あー自分ってちょっと違うんだ”と、そのとき初めて思いました」と、当時の様子を振り返る。

吃音の程度や症状は人によってさまざま。最初の音を繰り返す「連発」、音が伸びてしまう「伸発」、言葉が出ず間があいてしまう「難発」がある。吃音の原因は、決して“緊張”だけではない。蒼唯さんの場合は、連発と難発の症状が、家族や仲のいい友人と話している時によく出るという。

音読授業での出来事がトラウマとなり、「言葉を話すことが大嫌いになった」という蒼唯さん。しかし、中学時代にクラスメイトと積極的に会話するなどの努力を重ね、高校生となった今は滑らかに人と話すことができるようになった。
その努力の結果はさらに飛躍し、蒼唯さんは中学生時代からの友人・七海さんとともに弁論大会に挑戦。選んだテーマは「吃音」。挑戦し続ける友の姿に七海さんは、「(蒼唯さんが)中学の頃から、なんとなく吃音かなと思ってました。“つらい思いしてるんだろうな”ってこともあったんですけど、高校生になって弁論大会にも出るようになって、私も嬉しいです」と笑みを浮かべた。

将来の夢は「学校の先生」

「今、私は言葉を、そして話すことが大好きです」と笑顔で語った蒼唯さん。彼女が“話すこと”に対して挑戦し続ける理由、それは“将来の夢”が関係していた。蒼唯さんの将来の夢、それは「学校の先生」。教師を目指す理由について、蒼唯さんは「生徒で吃音で悩んでいる子がいたら“吃音の先生”って、一番信頼できる存在だと思う。生徒ひとりの人生を、いい方向に変えられるような先生になりたいです」と語った。

夢は「学校の先生」。音読の授業にトラウマを持つ蒼唯さんが次なる挑戦として選んだもの、それが“接客”だった。

今月4日、愛知県犬山市にて、1日限定のカフェ『注文に時間がかかるカフェ』がオープン。接客を行うのは、吃音がある高校生や大学生。17歳の蒼唯さんは“最年少スタッフ”として参加。カフェにエプロンを着用し、「お客さんに対して、自ら進んで声かけを頑張っていきたいです」と意気込んだ。

オープンすると、すぐに多くのお客さんが来店。『注文に時間がかかるカフェ』は、あっという間に満席になった。

“吃音”は自分にしかない個性

「僕自身が吃音障害を持っていて、10代の頃に悩んでいた。若い人たちがカフェに挑戦していると聞いて、僕も応援したいなと思って」と、お客さんにはスタッフと同じく吃音をいつ人も。なかには、「小中学生の頃、ひどい吃音だった」という70代男性のお客さんの姿も。
「僕のやってきたことをお話ししてあげて、役に立てないかなと」と来店理由を話した。吃音を理由に“普通の社会人になれない”と思い悩んだ男性。「学生時代、ノートに書いたものを今日持ってきた」と、必死に吃音について研究したノートを持参していた。

それぞれが思い思いの時間を過ごすなか、蒼唯さんと話している一人の少年がいた。竹内悠成くん、中学一年生。吃音があり、石川県から家族5人でやってきたという。「授業の(音読の)時、毎回自分の番が近づいてくるとめっちゃ緊張して、ちゃんと言えるかなと思う。あ行が言いにくいから、最初の文字があ行やったら絶望する」と蒼唯さんに話す悠成くん。

カフェスタッフたちの接客を体験した悠成くんのお母さんは、「(悠成くんは)人がすごく好きなんですが、うまく話せないということで、なかなか接客業ができないんじゃないかと思っていました。でも吃音があっても、こういうことされてるのは子どもにとって希望なんですよね」と、悠成くんの将来に思いを馳せた。

悠成くんの将来の夢は「獣医」。しかし、飼い主とうまくコミュニケーションがとれるか心配だという。そんな悠成くんに対して蒼唯さんは、「“吃音”は自分にしかない個性と思ってほしい」と話し、「吃音だからできることがある。吃音だからここ(カフェ)に来てくれて出会えたし、吃音をプラスにしてほしい」とエールを送った。

カフェのメッセージボードに、「自分も吃音だけど、ここに来てほっとしました」と記した悠成くん。「これからは、もっと自分に自信を持って、学校でガンガン発表して、やりたいことは、吃音でも諦めずどんどんやっていこうと思う」と力強く語った。

カフェ終了後、蒼唯さんは「お客さんとの会話もとても楽しくて、想像以上の自信になった。高校卒業するまでに、バイトに挑戦したいなと思い始めました」と話し、“アルバイト挑戦”という次なる目標を掲げた。

“吃音”を個性としてとらえ、自身の経験から将来の夢を見つけた蒼唯さん。「先生の夢に一歩近づきましたか?」という問いに、「大きく近づきました」と達成感に満ちた表情で明るくはっきりと答えた。

  • 中京テレビNEWS NNN
  • “苦手”がくれた教師の夢、吃音の高校生が接客「私は話すことが大好き」