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【開戦82年】100歳の元学徒が語る戦争 仲間の船は撃沈「勉強したかった」福岡 

2023年12月8日 18:14
【開戦82年】100歳の元学徒が語る戦争 仲間の船は撃沈「勉強したかった」福岡 
100歳の元学徒のメッセージ

太平洋戦争の開戦から8日で82年です。戦況が悪化するにつれ、旧日本軍は兵力不足を補うため、高等教育を受ける大学生なども徴兵するようになりました。戦争には行きたくない。当時は決して口にできなかった、学徒出陣に対する思いを当事者の証言や貴重な資料から紐解きます。

福岡県庁の目の前にある東公園で、今から80年前の1943年10月、必勝祈願が行われました。それまで徴兵が猶予されていた大学生たちの出征が突如、決まったのです。

■九州帝国大学・中楯 興さんの日記より(1943年10月19日)
「からりと晴れ渡った一点の雲もない深い秋空の下。午後1時半より壮行会。今更ながら胸の中にひらめくもの。異常な緊張におそはれた。」

ハワイ・真珠湾への奇襲攻撃が行われた1941年12月8日、この日を境に、旧日本軍は太平洋戦争へと突き進みました。

徐々に戦況が悪化し、不足する兵力を補うため白羽の矢が立ったのが、当時、徴兵を猶予されていた大学生たちの学徒出陣です。

■九州大学 大学文書館・藤岡健太郎教授
「ちょうど重機やっているあの辺り。この道を通って正門から出て行って、箱崎宮で必勝祈願やって、そのあと東公園の亀山上皇像の前で万歳三唱をした。」

当時の九州帝国大学では1943年12月、文系学部の学生など691人が一斉に出征しました。

■藤岡教授
「国家に有為な人物として育成される彼らを、兵士として送り出して死なれては困るということもあるわけですよね。そういう状況の中で、何で大学生だけ優遇されるのかと反発も強かったので、学徒出陣をせざるを得なかったところはある。」

大学への進学率は当時、3%ほどだったといわれています。現在の九州大学には、入隊前に書いた学生の日記が残されています。

■中楯興さんの日記より(1943年11月29日)
「この部屋に寝、この机に向かうのも最後かもしれない。本を読むのも当分おさらばだ。すべては大いなる道。無上の命令の中に抹殺されてしまふ。」

学問を志しながら道半ばで出征した学生は、全国でおよそ10万人に上ると言われています。その一部は、戦闘機ごと敵艦に体当たりする特攻隊として、命を落としました。

私たちは“生き証人”に会うため、山口県へ向かいました。100歳の町田保さんは、戦時中の1943年10月に、山口県の高等学校から当時の東京帝国大学経済学部に入学しました。

■町田 保さん(100)
「案外、無関心だった。戦争やっているのは他人事のように思っていた。先輩で戦死した人もいましたが、意外と身近な問題と考えていなかった。」

しかし、入学した翌日、学徒出陣の一報が飛び込んできました。

■町田さん
「入学式出て新聞見て、ハッとした。12月に徴兵延期が停止されるという記事が出たんですよ。それはえらいことになった。勉強がしたかったですね。」

1943年10月、東京の明治神宮外苑競技場で行われた学徒出陣の壮行会に、町田さんも東京帝国大学から出征する一人として参加していました。

その後、福岡県久留米市にあった、陸軍の幹部を育てる学校で訓練を受けることになりました。大学で勉強するはずだったドイツ語の教科書を持ち込もうとしましたが、認められませんでした。

■町田さん
「そんな暇があったら、軍隊の勉強をしろということ。」

フィリピンに向かう途中では、仲間の船が攻撃され沈没する様子も目の当たりにしました。

■町田さん
「こうやって並んでね、行きよったんです。そしたら一番前の船がやられて、我々は次の船やった。4000人くらい乗った船がやられて、助かったのは500人くらい。」

将校として兵士を率いていたタイで、日本の敗戦を知らされ帰国の途につきました。

生きて帰ることができる。町田さんはそんな安どの気持ちをかみしめると同時に、無謀な戦争で多大な犠牲を出した事実に、ぼう然としました。

■町田さん
「大勢の日本軍が亡くなったけど、どんな思いで亡くなったのかと想像していた。自分はそんなのになりたくない。戦いに行ったらどっちの方に逃げようかな、そのことばかり考えていた。これは終戦じゃなくて敗戦だ。とぼとぼ下がってくる日本軍を見て、これはとてもじゃない。」

学業に打ち込める“今”は、決して当たり前ではない。九州大学では12月、学徒出陣に関する貴重な資料を集めた企画展を開いています。

展示されているのは、徴兵された学生の日記や遺品など100点以上です。

■九州大学 理学部3年
「同じ大学生という立場の人が戦地に赴いたり、いろんなことをさせられていたという状況に戦争を身近に感じた。戦争には行きたくないという思いがある。」
■九州大学 文学部4年
「将来の日本を支えていくために大学に行っていたところもあるかと思うのですが、なんで自分は学ぶのだろうと突きつけられたときだったのではないかと思って。私たちはそういうのを考えず大学に来られているので、すごく考えさせられる展示。」

学問の道を奪われ、戦場に送り込まれた学生たちの歴史。今に残る記録と記憶は、遠い昔話ではない戦争の現実を、私たちに突きつけています。

九州大学の学徒出陣に関する企画展は、九州大学・伊都キャンパスの中央図書館で12月24日まで開かれています。入場は無料です。