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特集「キャッチ」160年の伝統を未来へ 大雨で藍甕(あいがめ)50個が泥水につかった工房 久留米かすり職人の兄弟は前を向く 福岡

2024年7月6日 19:55
特集「キャッチ」160年の伝統を未来へ 大雨で藍甕(あいがめ)50個が泥水につかった工房 久留米かすり職人の兄弟は前を向く 福岡
兄弟で160年の伝統を未来へ
特集「キャッチ」です。2023年7月に九州北部を襲った記録的な大雨からまもなく1年です。大雨で被災した久留米かすりの工房では、伝統を受け継ぐ若き職人兄弟が今も、復興を目指して奮闘しています。

6月15日、熊本市で行われていたのは、被災から半年がたった能登半島地震のチャリティーイベントです。

石川県の復興を願って企画されたイベントには、福岡県広川町からある兄弟が参加していました。

■藍森山 森山絣工房 6代目・森山浩一さん(32)
「先生、お願いします。」

■弟・典信さん(27)
「熱いので先生がやります。」

福岡を代表する伝統的工芸品、久留米かすりの職人兄弟、兄の森山浩一さんと弟の典信(よしのぶ)さんです。

■典信さん
「これは玉ねぎの皮です。草木染めをやってみようと。」

この日は、天然の植物を煮出した液で染める「草木染め」で、染め物体験を実施しました。

■参加した子ども
「面白い染めになっている。」

明るく色づけられたハンカチは、被災した石川県内の小学生に届けられる予定です。

今回、2人が参加した訳を聞きました。

■浩一さん
「僕らが水害を受けた時も、東京から物資を送ったり先輩がしてくれていた。そういうのってすごくありがたいことなので、僕らも今回携われてよかったなと思う。」

7月1日、広川町の工房を訪れると、現在も久留米かすりを製作できない状況が続いていました。

■典信さん
「こちらが藍染めの製造場。去年の7月10日に水害が起きてから、ほぼ変わっていない。」

1年前に九州北部を襲った大雨では、長時間、雨が降り続き、工房の近くにある2つの川が氾濫しました。

■典信さん
「ここにまだ跡が残っている。このライン。ここまで水が来た。(Q.大人のひざより上ぐらいまで?)そうですね。」

「藍森山・森山絣工房」は1858年創業で、この工場はおよそ100年前から使っています。

2023年の大雨で糸を染める「染め場」が浸水し、藍染めの原料を入れていた「藍甕(あいがめ)」50個が泥水につかりました。

ほかにも、かすりを作る工程で必要な機械や商品などに影響があり、被害額は6000万円から7000万円にのぼるといいます。

■典信さん
「もうダメだな。何もできないと思った。」

それでも前を向くことができたのは、ボランティアの支えがあったからでした。

■典信さん
「合計で100人以上の方が来てくださって本当に助かりました。人の力ってすごいなと思って。僕らだけだったら、どうしようかなぐらい気持ちも落ちていましたし。」

しかし、復旧工事の補助金の申請作業に時間がかかり、工事は8月に着工予定だということです。

新しいかすりを作ることができない中でも、浸水被害を受けなかった商品で7月末からのイベントに参加する予定です。

■典信さん
「ことしも大丸福岡天神店で久留米絣大博覧会というイベントがあり、7月31日に始まる。それに向けて商品のピックアップをしている。」

■浩一さん
「うちは手織りなので全体的に模様が細かい。手織りだからこそできる精密さが特徴。」

森山さんのかすりはおよそ160年の歴史を持ち、職人たちが手織りで生み出す繊細な模様と、鮮やかな藍が特徴です。その技法は代々受け継がれてきました。

■浩一さん
「先祖の写真です。2代目の富吉じいちゃんです。」

■典信さん
「2代目は人間国宝でした。かすりの仕事に従事し始めて、歴史をたどって、人間国宝ってすごい人なんだと、ようやく実感できてきた。」

かすりとは全く違う食品系の会社で、技術者として働いていた弟の典信さん。兄の言葉がきっかけで、3年前に地元に帰ってきました。

■浩一さん
「弟は食品系の会社に勤めていて、 僕はアパレル系の仕事をしていた。2つを合わせたらここを観光地にできるなと頭の中にふわっと出て、弟を口説き落とした。」

■典信さん
「いろいろビジョンがあって、すごく共感したし、もともと一緒にやりたいという気持ちがあったので、辞める決断をして帰ってきた。」

そんな兄弟の頑張りを近くで見守る、父であり5代目の哲浩さんは、跡継ぎ2人の存在を心強く感じています。

■父・5代目・森山哲浩さん(64)
「あれだけの水害があって染められない状態から、よくやってくれていると一番感心した。私の技術も伝えないといけないので、早く復活して一緒に染められることを楽しみにしている。」

被災からまもなく1年。復旧が思うように進まない中でも、お互いの存在が気持ちを強くしたといいます。

■典信さん
「1人だったら心が折れていたと思う。兄弟でいたからこそ支え合えた。次の日からはいろんな方々が来てくださったので、より強く生きることができた。」

■浩一さん
「先祖代々続いてきたものなので、何としても復活させないと、僕らの時代で終わったらどうしようもない。早く皆さんの期待に応えたい。」

工房を早く元の状態に戻したい。復興に向けて若き職人兄弟を支えるのは、先代たちが受け継いできた伝統を守りたいという思いと、同じ目標に向かって進む兄弟の絆です。

※FBS福岡放送めんたいワイド2024年7月3日午後5時すぎ放送