特集「キャッチ」我が子を看取る 家族が渚ちゃんと過ごした大切な時間
特集「キャッチ」です。我が子が、治療が困難な病気に冒されていると分かったとき、あなたならどうしますか。限りある時間を大切にするため、自宅で看取ることを選んだ家族の半年を見つめました。
■お母さんと姉・玲良ちゃん
「なぎちゃん、6歳のお誕生日おめでとう。」
7月14日、6歳の誕生日を迎えるはずだった加茂渚(かも・なぎさ)ちゃん。はじける笑顔は、もう思い出の中にしかありません。
私たちが北九州市八幡西区に住む渚ちゃんと出会ったのは、半年ほど前です。渚ちゃんは両親、そして2つ年上のお姉ちゃんとの4人家族です。
渚ちゃんは天真爛漫な女の子で、公園を全力で駆け回ります。けれど、渚ちゃんはこの時すでに、がんと診断され、厳しい治療に向き合っていました。
■母・美咲さん(34)
「やっぱりね、このまま治ってくれたらいいのですけれど。」
両親が渚ちゃんの体の異変を感じたのは去年7月です。七五三の写真を撮りに行った時のことでした。
■美咲さん
「右手が上がってないんですよ。 握力もたぶん無くなっていて、ポロンと落とすことがあって。」
右腕が上がりにくく、握力も弱くなっていました。受診した大学病院で告げられた病名は、“小児脳幹部グリオーマ”です。
脳の中枢部、脳幹に腫瘍ができる小児がんの一種で、その原因はほとんど分かっていません。手術で取り除くことは難しく、抗がん剤もほとんど効かないとされています。
■産業医科大学小児科・中島健太郎医師
「この疾患に関しては、ほぼ治してあげられない。2年生存率が10%という厳しい結果になっているので。」
突然、突きつけられた、あまりに過酷な現実でした。
■美咲さん
「半分諦めずに、でも半分は看取る時に後悔したくなかったので、渚のやりたいこと、したいことは全部かなえてあげたいなと思ったので。」
家族みんなで過ごせるように、渚ちゃんの両親は悩んだ末、通院での放射線治療を決断しました。
■看護師
「こんにちは。」
2022年10月、渚ちゃんの自宅を訪ねてきたのは、病院から依頼を受けた訪問看護師です。体調をチェックし、主治医に報告するためです。
■看護師
「ご飯しっかり食べていますか。」
■美咲さん
「食べています。偏食なのですが。私が看病疲れでおかしくなって。」
■看護師
「気持ちも落ち着きませんよね。」
■美咲さん
「ずっと気が張っている感じです。」
母の美咲さんはふと、疲れを漏らしました。壊れそうになる心の叫びは、ブログに吐き出してきました。
“どうしてこうなってしまったのか、怒りも悲しみも悔しさも苦しみもぶつける場所など無い。あの日以来、闇の中で光を探しています。”
2022年12月、病状の進行を遅らせようと放射線治療に取り組んできたものの、がんは渚ちゃんの体を確実にむしばんでいきました。まひが進んで、自分の体が思うように動かせず、かんしゃくを起こすこともありました。
2023年2月、次第に歩くことも難しくなり、サポート用の器具が欠かせなくなりました。それでも、渚ちゃんは“治りたい”、その一心で頑張ってきました。
そんな妹の姿をそばで見てきた2つ年上の玲良ちゃんは、押し殺してきたつらい気持ちが、こぼれだすこともありました。
■美咲さん
「ごめん、ごめん。ママ、ずっとお話していたから。寂しいんよね。お守り、また買いに行こうね。」
■玲良ちゃん
「お守り100個買う。」
家族みんなで闘っていました。
2023年3月、制服姿の渚ちゃんは、訪問看護師に抱っこされてある場所に向かっていました。
■園児
「おはよう。」
そう、幼稚園です。治療を始めて以降、あまり通うことができずにいました。主治医から許可がおり、お友達と一緒に年中の修了式を迎えることができました。
■父・朋也さん(35)
「よかったね。なぎちゃん。よかった、よかった、来られて。」
母の美咲さんのブログには、“当たり前のことが当たり前ではない。そして、そういったことがとても幸せであるということを私は知ることができて、病魔に対して負の感情だらけですが、決してそれだけではありません”と記されていました。
春休みに入ると、渚ちゃんは、いとこたちと遊園地に行きました。どうしても叶えたいことがあったのです。
■渚ちゃん
「メリーゴーラウンド。」
望むことはすべてかなえてあげたいと、治る見込みはほとんどないと告げられたあの日から、家族みんなで大切な時を刻んできました。
■渚ちゃん
「楽しかった。」
■朋也さん
「よかったね。メリーゴーラウンド。」
2023年4月30日、渚ちゃんは、自宅で静かに息を引き取りました。5歳と9か月でした。
■朋也さん
「家で看取れてよかったなと思うんです。最期、ママに抱きしめてもらう中で、渚は静かに息を引き取ったからね。」
■美咲さん
「ぴったり9か月、闘い抜きました。安らかな顔をして、もう苦しくないよって。」
棺の中の渚ちゃんは、大好きだったドレス姿です。お母さんと姉の玲良ちゃんに着せてもらいました。
■朋也さん
「玲良も渚もよう頑張った。 いっぱい、なぎちゃんのことを思いながら、あすも、あさっても頑張っていこう。」
亡くなる1か月前、家族みんなでよく遊んだ自宅近くの公園で記念写真を撮影していました。桜の木の下で大切そうに抱えているのは、1年早く購入したランドセルです。
■美咲さん
「本人は、お姉ちゃんと一緒に小学校に行くと思っていたと思うので。お姉ちゃんと一緒に撮れて本当によかった。」
家族は、この写真をペンダントにして身につけています。
■美咲さん
「今ここにいないけど、一緒に写真を持って、これからも旅行に行ったりとか、遊びに行くときにはいつも一緒にいる気持ちで。一日一日、命と向き合うことを教えてくれたり、本当にささいなことがすごくうれしかったし、幸せでした。」
■お母さんと姉・玲良ちゃん
「なぎちゃん、6歳のお誕生日おめでとう。」
7月14日、6歳の誕生日を迎えるはずだった加茂渚(かも・なぎさ)ちゃん。はじける笑顔は、もう思い出の中にしかありません。
私たちが北九州市八幡西区に住む渚ちゃんと出会ったのは、半年ほど前です。渚ちゃんは両親、そして2つ年上のお姉ちゃんとの4人家族です。
渚ちゃんは天真爛漫な女の子で、公園を全力で駆け回ります。けれど、渚ちゃんはこの時すでに、がんと診断され、厳しい治療に向き合っていました。
■母・美咲さん(34)
「やっぱりね、このまま治ってくれたらいいのですけれど。」
両親が渚ちゃんの体の異変を感じたのは去年7月です。七五三の写真を撮りに行った時のことでした。
■美咲さん
「右手が上がってないんですよ。 握力もたぶん無くなっていて、ポロンと落とすことがあって。」
右腕が上がりにくく、握力も弱くなっていました。受診した大学病院で告げられた病名は、“小児脳幹部グリオーマ”です。
脳の中枢部、脳幹に腫瘍ができる小児がんの一種で、その原因はほとんど分かっていません。手術で取り除くことは難しく、抗がん剤もほとんど効かないとされています。
■産業医科大学小児科・中島健太郎医師
「この疾患に関しては、ほぼ治してあげられない。2年生存率が10%という厳しい結果になっているので。」
突然、突きつけられた、あまりに過酷な現実でした。
■美咲さん
「半分諦めずに、でも半分は看取る時に後悔したくなかったので、渚のやりたいこと、したいことは全部かなえてあげたいなと思ったので。」
家族みんなで過ごせるように、渚ちゃんの両親は悩んだ末、通院での放射線治療を決断しました。
■看護師
「こんにちは。」
2022年10月、渚ちゃんの自宅を訪ねてきたのは、病院から依頼を受けた訪問看護師です。体調をチェックし、主治医に報告するためです。
■看護師
「ご飯しっかり食べていますか。」
■美咲さん
「食べています。偏食なのですが。私が看病疲れでおかしくなって。」
■看護師
「気持ちも落ち着きませんよね。」
■美咲さん
「ずっと気が張っている感じです。」
母の美咲さんはふと、疲れを漏らしました。壊れそうになる心の叫びは、ブログに吐き出してきました。
“どうしてこうなってしまったのか、怒りも悲しみも悔しさも苦しみもぶつける場所など無い。あの日以来、闇の中で光を探しています。”
2022年12月、病状の進行を遅らせようと放射線治療に取り組んできたものの、がんは渚ちゃんの体を確実にむしばんでいきました。まひが進んで、自分の体が思うように動かせず、かんしゃくを起こすこともありました。
2023年2月、次第に歩くことも難しくなり、サポート用の器具が欠かせなくなりました。それでも、渚ちゃんは“治りたい”、その一心で頑張ってきました。
そんな妹の姿をそばで見てきた2つ年上の玲良ちゃんは、押し殺してきたつらい気持ちが、こぼれだすこともありました。
■美咲さん
「ごめん、ごめん。ママ、ずっとお話していたから。寂しいんよね。お守り、また買いに行こうね。」
■玲良ちゃん
「お守り100個買う。」
家族みんなで闘っていました。
2023年3月、制服姿の渚ちゃんは、訪問看護師に抱っこされてある場所に向かっていました。
■園児
「おはよう。」
そう、幼稚園です。治療を始めて以降、あまり通うことができずにいました。主治医から許可がおり、お友達と一緒に年中の修了式を迎えることができました。
■父・朋也さん(35)
「よかったね。なぎちゃん。よかった、よかった、来られて。」
母の美咲さんのブログには、“当たり前のことが当たり前ではない。そして、そういったことがとても幸せであるということを私は知ることができて、病魔に対して負の感情だらけですが、決してそれだけではありません”と記されていました。
春休みに入ると、渚ちゃんは、いとこたちと遊園地に行きました。どうしても叶えたいことがあったのです。
■渚ちゃん
「メリーゴーラウンド。」
望むことはすべてかなえてあげたいと、治る見込みはほとんどないと告げられたあの日から、家族みんなで大切な時を刻んできました。
■渚ちゃん
「楽しかった。」
■朋也さん
「よかったね。メリーゴーラウンド。」
2023年4月30日、渚ちゃんは、自宅で静かに息を引き取りました。5歳と9か月でした。
■朋也さん
「家で看取れてよかったなと思うんです。最期、ママに抱きしめてもらう中で、渚は静かに息を引き取ったからね。」
■美咲さん
「ぴったり9か月、闘い抜きました。安らかな顔をして、もう苦しくないよって。」
棺の中の渚ちゃんは、大好きだったドレス姿です。お母さんと姉の玲良ちゃんに着せてもらいました。
■朋也さん
「玲良も渚もよう頑張った。 いっぱい、なぎちゃんのことを思いながら、あすも、あさっても頑張っていこう。」
亡くなる1か月前、家族みんなでよく遊んだ自宅近くの公園で記念写真を撮影していました。桜の木の下で大切そうに抱えているのは、1年早く購入したランドセルです。
■美咲さん
「本人は、お姉ちゃんと一緒に小学校に行くと思っていたと思うので。お姉ちゃんと一緒に撮れて本当によかった。」
家族は、この写真をペンダントにして身につけています。
■美咲さん
「今ここにいないけど、一緒に写真を持って、これからも旅行に行ったりとか、遊びに行くときにはいつも一緒にいる気持ちで。一日一日、命と向き合うことを教えてくれたり、本当にささいなことがすごくうれしかったし、幸せでした。」