侵攻3年“王様”描く「停戦」実現は? 脱走で兵士不足のウクライナと好景気が続くロシア…急展開の裏側【バンキシャ!】
アメリカ、ウクライナ、ロシア。停戦交渉をめぐり今、それぞれの大統領の思惑が入り乱れる事態となっています。2025年2月24日で侵攻開始から丸3年。トランプ大統領によって事態が急に動き始めました。それぞれの国で今起きていることとは――
◇
日本時間20日、アメリカのホワイトハウスがSNSに1枚の画像を投稿した。
金の冠をかぶり笑みを浮かべるトランプ大統領のイラスト。傍らには「王様万歳」の文字も。
“王様”自らをそうなぞらえた大統領が今、思い描いているのは、ロシアとウクライナの「停戦」だ。
トランプ大統領(18日)
「私にはこの戦争を終わらせる力がある」
「ロシアは野蛮な行為を止めたいと思っている」
この“ラブコール”にロシアのプーチン大統領も。
プーチン大統領(19日)
「(交渉の)準備を進めよう。喜んでドナルドに会う」
ウクライナの頭越しに交渉が進む中、24日、軍事侵攻から3年を迎える。バンキシャ!はウクライナ、そしてロシアを取材。2か国の「今」が見えてきた。
◇
19日、私たちはウクライナの首都キーウに入った。
佐藤篤志記者(NNNキーウ)
「デパートもあるキーウの中心地ですが、兵士を募集する大きなポスターが掲げられています」
ポスターはバス停にも張られ「国の力はあなたが握っている」というフレーズで兵士を募っていた。
そんなウクライナで先月、“ある動画”がSNSを駆け巡った。
(SNSで拡散された動画)
1人の男性を迷彩服姿の男たちが取り囲む。そして、無理やり車の中へ。男性は懸命に抵抗するが、後部座席へと押し込まれた。
戦いが長期化し、兵士不足が大きな課題となっているウクライナ。この動画の真偽は不明だが、「強制動員される様子」とする動画が、SNSには多く投稿されているという。
兵士不足に拍車をかける問題も起きている。私たちは、あるウクライナ兵士(27)に話を聞いた。
ウクライナ兵士
「私は2022年に侵攻が始まってから、ずっと戦闘に参加してきました」
7年前、20歳でウクライナ軍に入隊。侵攻直後から戦闘に加わってきたという。しかし、最近…。
ウクライナ兵士
「所属していた部隊を脱走しました」
部隊から一時、逃げ出したという。“脱走”これがウクライナが今、抱えている問題だ。
先月には、創設されてまもない部隊「第155独立機械化旅団」から、実に1700人近くが脱走したとAFP通信が報じた。男性はその1700人の1人で、日本のテレビメディアの取材に初めて応じたという。
では、なぜ“脱走”したのか。
ウクライナ兵士
「最近は兵士が不足しているので追加の動員をかけていました。入隊したばかりの兵士には、しっかりした訓練を施す必要があります。しかし、私の部隊では戦闘経験がない人をたった2~3週間訓練しただけで前線に送っていました。私はそれを見ていられなかったんです」
また、多くの脱走者が出ている理由の一つに“戦闘の長期化”がある。部隊の人事担当者に聞いた。
――侵攻から3年になりますが、脱走する人は増えていますか?
ウクライナ軍 人事担当者
「特に今年に入ってから脱走が大きな問題になっています。兵士の中には、この3年間一度も休みをとれなかったという人もいます。やる気はあるのですが、疲れから休みを求めてしまうんです」
兵士の脱走が深刻化し、人手不足にあえぐ軍は対策に乗り出した。
記者
「ウクライナ軍は『脱走から戻ってください』という案内を出しています」
そこには「脱走から戻ろう」の文字が。実はこれまで、兵士が脱走すると処罰されていた。しかし、1度目の脱走の場合、軍に戻れば処罰を免れることが可能になったという。
これにより、軍に戻る脱走兵が増えていると司令官は話す。
ウクライナ軍 秩序担当の司令官
「世界の歴史を見ても脱走は珍しいことではありません。人間はロボットではないんです。制度を変えることで、いい成果が生まれています」
◇
一方のロシア。私たちはケメロボ州へ向かった。とあるカフェを訪ねると、オーナーのアンジェリカさんが出迎えてくれた。
カフェオーナー アンジェリカさん
「私は息子のワジムを戦闘で失いました。同じように身近な人を失い、つらい思いをしている人と交流するために、このカフェを開いたんです」
壁には一面に亡くなった兵士らの写真。すべて兵士の家族らが持ち込んだものだという。アンジェリカさんの息子、ワジムさんの写真も飾られていた。
カフェオーナー アンジェリカさん
「ワジムには2人の娘がいました。パパ、パパと懐いていたんです。ワジムの死後、国からは補償金が支払われました。2人の娘が生きていくのに十分な金額です」
ロシアでは入隊から1年で死亡した場合、約1450万ルーブル(日本円で2500万円近く)が遺族の手に渡るとの試算(ウォールストリートジャーナル紙による)もある。
こうした莫大(ばくだい)なカネで遺族が物を買い、経済が回る。フル稼働する軍需産業もあり、経済制裁が続いていてもなお、この3年の景気は好調だったという。
では、プーチン大統領が“停戦交渉”にのぞむ思惑はどこにあるのか。専門家は次のように話す。
防衛研究所 兵頭慎治・研究幹事
「軍事的にも経済的にも今ただちに停戦交渉に応じなければいけない状況はロシア側にはない。ただ、この停戦交渉を短期で実現させたいと思っているのはトランプ大統領の方です。これを一つのチャンスと考えて、この機会にアメリカからいろんなものを引き出していきたい。これが今のロシアのスタンスだと思う」
(2月23日放送『真相報道バンキシャ!』より)
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日本時間20日、アメリカのホワイトハウスがSNSに1枚の画像を投稿した。
金の冠をかぶり笑みを浮かべるトランプ大統領のイラスト。傍らには「王様万歳」の文字も。
“王様”自らをそうなぞらえた大統領が今、思い描いているのは、ロシアとウクライナの「停戦」だ。
トランプ大統領(18日)
「私にはこの戦争を終わらせる力がある」
「ロシアは野蛮な行為を止めたいと思っている」
この“ラブコール”にロシアのプーチン大統領も。
プーチン大統領(19日)
「(交渉の)準備を進めよう。喜んでドナルドに会う」
ウクライナの頭越しに交渉が進む中、24日、軍事侵攻から3年を迎える。バンキシャ!はウクライナ、そしてロシアを取材。2か国の「今」が見えてきた。
◇
19日、私たちはウクライナの首都キーウに入った。
佐藤篤志記者(NNNキーウ)
「デパートもあるキーウの中心地ですが、兵士を募集する大きなポスターが掲げられています」
ポスターはバス停にも張られ「国の力はあなたが握っている」というフレーズで兵士を募っていた。
そんなウクライナで先月、“ある動画”がSNSを駆け巡った。
(SNSで拡散された動画)
1人の男性を迷彩服姿の男たちが取り囲む。そして、無理やり車の中へ。男性は懸命に抵抗するが、後部座席へと押し込まれた。
戦いが長期化し、兵士不足が大きな課題となっているウクライナ。この動画の真偽は不明だが、「強制動員される様子」とする動画が、SNSには多く投稿されているという。
兵士不足に拍車をかける問題も起きている。私たちは、あるウクライナ兵士(27)に話を聞いた。
ウクライナ兵士
「私は2022年に侵攻が始まってから、ずっと戦闘に参加してきました」
7年前、20歳でウクライナ軍に入隊。侵攻直後から戦闘に加わってきたという。しかし、最近…。
ウクライナ兵士
「所属していた部隊を脱走しました」
部隊から一時、逃げ出したという。“脱走”これがウクライナが今、抱えている問題だ。
先月には、創設されてまもない部隊「第155独立機械化旅団」から、実に1700人近くが脱走したとAFP通信が報じた。男性はその1700人の1人で、日本のテレビメディアの取材に初めて応じたという。
では、なぜ“脱走”したのか。
ウクライナ兵士
「最近は兵士が不足しているので追加の動員をかけていました。入隊したばかりの兵士には、しっかりした訓練を施す必要があります。しかし、私の部隊では戦闘経験がない人をたった2~3週間訓練しただけで前線に送っていました。私はそれを見ていられなかったんです」
また、多くの脱走者が出ている理由の一つに“戦闘の長期化”がある。部隊の人事担当者に聞いた。
――侵攻から3年になりますが、脱走する人は増えていますか?
ウクライナ軍 人事担当者
「特に今年に入ってから脱走が大きな問題になっています。兵士の中には、この3年間一度も休みをとれなかったという人もいます。やる気はあるのですが、疲れから休みを求めてしまうんです」
兵士の脱走が深刻化し、人手不足にあえぐ軍は対策に乗り出した。
記者
「ウクライナ軍は『脱走から戻ってください』という案内を出しています」
そこには「脱走から戻ろう」の文字が。実はこれまで、兵士が脱走すると処罰されていた。しかし、1度目の脱走の場合、軍に戻れば処罰を免れることが可能になったという。
これにより、軍に戻る脱走兵が増えていると司令官は話す。
ウクライナ軍 秩序担当の司令官
「世界の歴史を見ても脱走は珍しいことではありません。人間はロボットではないんです。制度を変えることで、いい成果が生まれています」
◇
一方のロシア。私たちはケメロボ州へ向かった。とあるカフェを訪ねると、オーナーのアンジェリカさんが出迎えてくれた。
カフェオーナー アンジェリカさん
「私は息子のワジムを戦闘で失いました。同じように身近な人を失い、つらい思いをしている人と交流するために、このカフェを開いたんです」
壁には一面に亡くなった兵士らの写真。すべて兵士の家族らが持ち込んだものだという。アンジェリカさんの息子、ワジムさんの写真も飾られていた。
カフェオーナー アンジェリカさん
「ワジムには2人の娘がいました。パパ、パパと懐いていたんです。ワジムの死後、国からは補償金が支払われました。2人の娘が生きていくのに十分な金額です」
ロシアでは入隊から1年で死亡した場合、約1450万ルーブル(日本円で2500万円近く)が遺族の手に渡るとの試算(ウォールストリートジャーナル紙による)もある。
こうした莫大(ばくだい)なカネで遺族が物を買い、経済が回る。フル稼働する軍需産業もあり、経済制裁が続いていてもなお、この3年の景気は好調だったという。
では、プーチン大統領が“停戦交渉”にのぞむ思惑はどこにあるのか。専門家は次のように話す。
防衛研究所 兵頭慎治・研究幹事
「軍事的にも経済的にも今ただちに停戦交渉に応じなければいけない状況はロシア側にはない。ただ、この停戦交渉を短期で実現させたいと思っているのはトランプ大統領の方です。これを一つのチャンスと考えて、この機会にアメリカからいろんなものを引き出していきたい。これが今のロシアのスタンスだと思う」
(2月23日放送『真相報道バンキシャ!』より)
最終更新日:2025年2月24日 11:08