我が子を自宅で看取った家族「笑って一日一日を大切に」 小児がんの少女と家族の記録
治療が難しい小児がんと診断された5歳の女の子と、その家族のかけがえのない日々を、以前『めんたいワイド』でお伝えしました。自宅で看取ることを選んだ家族は、悲しみや寂しさと向き合いながら、少しずつ歩みを進めています。
子どもたちであふれた祝日の商店街で開かれているのは、医療のサポートが欠かせない子も安心して楽しめるようにと、医師や看護師が企画したお祭りです。
■加茂美咲さん(34)
「レモネードいかがですか?」
レモネードを販売していたのは、北九州市八幡西区に住む加茂美咲さん(34)です。小児がんの子どもたちを支援する『レモネードスタンド』という取り組みです。
■美咲さん
「渚も、きょう来とる。」
ペンダントにして身に着けているのは、二女・渚ちゃんの写真です。
■加茂渚ちゃん(5)
「だるまさんがころんだ。」
人なつっこい笑顔を見せる5歳の女の子は、加茂渚ちゃんです。元気いっぱいに公園を駆け回りますが、なぎちゃんはこの時すでに、がんと闘っていました。
大学病院で告げられた病名は『小児脳幹部グリオーマ』です。脳の中枢部・脳幹に腫瘍ができる『小児がん』の一種です。手術で取り除くことは難しく、2年後に生きていられる確率は、わずか10パーセントとされています。
■母・美咲さん
「半分あきらめずに、でも半分は看取る時にやっぱり後悔したくなかったので。渚のやりたいことしたいことは、全部かなえてあげたいなと思っていたので。」
■父・朋也さん
「頑張りましょうね。はーい。」
なぎちゃんは、がんと分かった直後から約1か月入院しました。退院後は、通院しながら放射線治療を受けることなりました。
なぎちゃんに、「頭に悪いばい菌がいるからやっつけようね」と伝えた両親は、これまで以上に家族の時間を大事にしようと心に決めました。
退院後から1か月後、なぎちゃんは幼稚園の運動会に参加しました。急に熱が出たり吐いたりして幼稚園に戻るのが遅れましたが、なぎちゃんと家族の思いが通じたのか、かけっこやダンスにも参加できるまで持ち直しました。
楽しみにしていたクリスマスが近づいてきました。
サンタクロースの衣装に身を包んだなぎちゃんは、脳の腫瘍が大きくなり、右腕と右足にまひが進んで、思うように動かせなくなっていました。
■訪問看護師
「誰を描いたの?」
絵を描いていたのは、利き手ではない左手です。体調のチェックに訪れる看護師へのプレゼントでした。どんな時でもまわりを笑顔にさせる心優しい、なぎちゃんです。
お母さんの美咲さんのブログには『今年クリスマスを無事に迎えられたことに深い喜びを覚えると共に来年も…来年も、絶対一緒に過ごしたい。』とつづられていました。
ことし3月、なぎちゃんと家族は、いとこたちと一緒に遊園地を訪れました。
■なぎちゃん
「(Q. 今から何乗る?)メリーゴーラウンド。」
「もう一度メリーゴーラウンドに乗りたい」というのは、なぎちゃんのささやかな夢です。家族みんなでかなえたい、そう願ってきたことです。
■なぎちゃん
「楽しかった。」
■父・朋也さん
「よかったね、メリーゴーラウンド。また乗ろうね。]
■なぎちゃん
「桜もいっぱい咲いている。梅がまざっているかも。」
2023年4月30日に自宅で息を引き取ったなぎちゃんは、お気に入りだったドレス姿で、家族や友だちに見送られました。
なぎちゃんが旅立って4か月あまりが経った9月15日、なぎちゃんをサポートしてきた看護師が、お母さんのもとを訪ねてきました。
■母・美咲さん
「意外と時間がたてばたつほど寂しさが増すというか。きつかっただろうなと思って。すみません、思い出すとね。助けてあげたかった。」
心の穴はぽっかりと空いていました。
なぎちゃんの家族はこの日、訪問看護師の事務所に向かいました。10歳未満の子どもを亡くした5組の家族や医療スタッフが参加し、死別の悲しみを語り合える場が設けられました。
■母・美咲さん
「闘病中は本当にがむしゃらというか、やるしかない。」
■娘と死別した・井上直美さん
「本当に情報が少ない、孤独でしたね。」
■父・朋也さん
「僕らがしてやりたいと思うことはしてやって、後悔のない別れ方はできたのかなと思うので。」
■なぎちゃんの主治医・中島健太郎 医師
「家で看るのはやっぱりね、なかなかね、そうは言ってもお父さん、お母さんが請け負うことなので。その覚悟がお父さん、お母さんにあったと思うし、なぎちゃんはなぎちゃんでよく頑張った。」
■父・朋也さん
「気持ちを正直に話せる環境がなかなかできなかったものですから、私の心も少し軽くなった。」
■母・美咲さん
「子どもたちがいろいろ教えてくれたこと、つないでくれたご縁だと思うので、これからも大切にしながら、一緒に前に進んでいけたらと思います。」
時がたっても決して寂しさが消えることはありません。それでも、前を向きます。
■母・美咲さん
「今まで以上に一日、一秒がすごく大事な時間。丁寧に生きていきたいなと、あの子が教えてくれたんだなと思うので。泣きそうになることもあるんですけど、それも一緒に抱えながら、これからの人生も大切に生きていきたいと思っています。」
FBSでは、なぎちゃんと家族のかけがえのない日々を追ったドキュメンタリー番組を制作しました。
目撃者f『なぎちゃんのささやかな夢 ~小児がんの少女と家族の9か月~』
10月29日(日)25時35分~放送