先天性の病気あるか検査する「新生児スクリーニング」 難病・脊髄性筋萎縮症をめぐる現状
取材した記者が一つのテーマを深掘りする「記者のコトバ」。畑中キャスターです。
(畑中香保里キャスター)
今回のテーマは「新生児スクリーニング」です。新生児スクリーニングとは赤ちゃんに先天性の病気があるかどうかを調べる検査で、生後4日から6日で血液を採取し、専門機関で分析します。
公費で賄われていて、保護者が同意すれば無料で受けられます。調べることができる病気はフェニルケトン尿症や先天性甲状腺機能低下症など20種類あります。この新生児スクリーニングで期待されているのは、早期発見という点です。
そんな中、国が検査の対象疾患に追加しようと、今年3月に実証事業を始めたのが、体の筋肉が次第に衰えていく難病「SMA=脊髄性筋萎縮症」です。その現状と課題を取材しました。
SMA=脊髄性筋萎縮症とは
■熊本大学病院小児科 小篠史郎医師
「(Ⅰ型の場合)生後半年までに症状が出てきて、 手足が動かせなくなって、だんだんミルクもおっぱいミルクも飲めなくなって。最後は息もできなくなって、治療をしなければ、もう1歳、2歳ぐらいで亡くなってしまうという病気になりますね」
「SМA=脊髄性筋萎縮症」は、先天的な遺伝子の変異が原因で筋肉が動かせなくなっていく病気で、発症の確率は2万人に1人。難病に指定されています。2017年まで、治療法はありませんでしたが、その後、遺伝子治療薬を含む3つの治療薬を国が承認しました。しかし、発症前に治療薬を使わなければ効果が期待できず、いかに早期に発見するかが課題でした。
熊本大学病院の中を元気に走り回る武藤煌季くん。3歳です。
■熊本大学病院小児科 小篠史郎医師(診察)
「運動面も伸びてきていると思いますね。言葉もだいぶ出てきた」
先進的な研究が進む熊本
新生児スクリーニングの先進的な研究が進む熊本。3年前、熊本大学などの研究グループが、新生児スクリーニングによって国内で初めてSMAを発見。症状が出る前に治療薬を投与することができたのです。
■熊本大学病院小児科 小篠史郎医師
「脊椎脊髄縮症の新生児スクリーニングが実現したのは、 もう寝たきりになっている子どもたちの血液を『協力します』ということで提供いただいて、 その血液を使って研究を行って実現できていることなので、その方々が築いてきた結果が 今、未来の子供たちにつながっている」
煌季くんのような早期発見につながるケースを増やそうと、国は新生児スクリーニングの検査対象にSMAを追加することを目指し、今年3月から実証事業を開始。全国各地でSMAのスクリーニングが行われるようになりました。
しかし、無料で受けられる新生児スクリーニングに対し、SMAの検査では費用の負担が生じる自治体もあり、負担額は様々です。熊本県によりますと、県内の場合5000円がかかるほか、全国的には1万円を超える自治体もあるのが現状です。
地域によってばらつきある検査費用
地域によって費用の負担にばらつきがあるんですね。
(畑中キャスター)
なぜ、ばらつきがあるかといいますと、検査キットの価格の違いや、他の病気と一緒に検査し費用が発生するなど、自治体の事情によって理由は様々なんです。
熊本県の場合は脊髄性筋萎縮症(SMA)と重症複合免疫不全症(SCID)、ライソゾーム病(LSD)の3つを同時に検査します。ライソゾーム病に対して国の補助がないため5000円の自己負担が発生するんです。
ただ、当事者などでつくる団体からは、「経済的な負担が検査をためらうことにつながりかねない」という声も上がっています。「SMA家族の会」の大山有子会長は、「検査は全ての赤ちゃんに平等に行われるべきであり、全国一律で公費での実施を1日も早く実現するべきだ」と話しています。そのためには、国の実証事業の結果がカギを握りそうです。
この問題に詳しい熊本大学小児科の中村公俊教授は、「全国各地域の検査センターで全く同じ精度での検査が求められる。毎年、生まれてくる70万人余りの赤ちゃんを間違いなく検査することが非常に大事」と多くの実績とより高い質が求められると指摘しています。
Q今後、国はどのような動きになるのでしょうか?
(畑中キャスター)
この実証事業について来年度の政府予算で15億円を概算要求していて、実証事業の結果を積み重ねていく方針です。早期発見が治療のカギを握る難病、SMA。その検査を誰もが当たり前に受けることができる社会の実現に向け、新たに動き出した国の事業の行方を注視したいと思います。