継承危うく…400年の歴史”鳴子漆器”、若者のチカラでイノベーションを!
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400年の歴史を持つ鳴子漆器。
近年、需要の縮小などで伝統の継承が危機に立たされています。
こうした中、鳴子漆器にイノベーションを起こそうと若者が提案したプランが事業化されようとしています。
その舞台は、3年前 大崎市岩出山に開校したローカルビジネススクールです。
大崎市鳴子温泉。
2024年6月、伝統的工芸品・鳴子漆器の工房に若者たちの姿がありました。
会社勤めなどをしながら新たなビジネスプランなどを提案するスクールに通う、20代~
40代の受講生5人です。
スクールの課題として、鳴子漆器に新たなイノベーションを起こす事業プランを作成する使命を背負っていました。
これまで鳴子漆器にほとんど触れたことがなかったという受講生たち。
初めて絵付けを体験し、そして鳴子漆器によそわれた料理を食べてみるとー。
受講生
「ただ古いものというイメージだったが、使ってみて手触りとか口ざわりがすごくいい使ってみればわかる」
「可能性があることに今まで気づけなかったし、気づこうとしなかった後ろめたさがある」
漆は、耐久性や殺菌性に優れ、縄文時代から食器など幅広く使われてきました。
16世紀、ヨーロッパでは日本の漆器は「JAPAN」と称されるほど人気を博しました。
400年の伝統を持つ鳴子漆器は、独特な艶と滑らかな口当たりで東北の食文化に彩りを与えてきました。
塗師の佐藤建夫さん(74)は漆に魅了され、57年間塗り続けてきました。
佐藤建夫さん
「漆はよく見ると、柔らかくて温かくて心が豊になる思いがする」
30年ほど前、鳴子漆器は温泉客の土産として飛ぶように売れたと言います。
しかし、近年 安価な食器や化学塗料の台頭で漆器離れが進み、かつて30人ほどいた鳴子の職人は今では4人。
全国の漆器の出荷額は、この20年の間に4分の1に落ち込んでいます。
佐藤建夫さん
「日本の素晴らしい手業が日本を作ってきた。だんだん薄くなっていくのはとても寂しい」
こうした中、佐藤さんは伝統の継承には若者のアイデアが必要だとして、スクールの受講生に事業プランを募ったのです。
伝統工芸の世界では異例のことです。
佐藤建夫さん
「物を作る技術は持っているが、どのように売るかはできない。若い方の考えを取り入れていかないといけない」
ビジネススクールがあるのが、大崎市旧岩出山町。
3年前、人口1万に満たない過疎の地域に開校した「ローカルイノベーションスクール」です。
受講生は、週末など月に1回 仙台などから集まり、この1年間 市場調査などをしながら、新規事業プランを考えてきました。
受講生「ワクワク。とても気持ちいいホルモンが出てくる」
校長として指導に当たるのが、ブルーファーム社の早坂正年社長(44)です。
ビジネススクール校長・早坂正年さん
「プロジェクトを絶対達成したいというワクワク感ドキドキ感、社会的意義を打ち出していかないといけない」
ビジネススクール校長・早坂正年さん
「鳴子漆器を継承していかないといけないと、誰もが思う。けれど、大事だから残そうとか価値があるからと義務的なものになると渦にならない」
早坂校長は、30代の時 東京でバイヤーのリーダーに抜擢され、世界中の商品の取引に関わってきました。
そして11年前、岩出山に移住してからは、東北の食材で数百種類もの商品開発。
グローバルな人脈をいかし、宮城の日本酒をイタリアやスペインなどへ海外販路を拡大させるなど、震災からの経済復興を支えました。
ビジネススクール校長・早坂正年さん
「全国の農作物食品を扱う中で東北はすごいなと。実直な生産者が多い。今まで美味しいから売れたかもしれないが、ちゃんと伝えないといけない局面になった」
早坂校長は、東北には商品をPRする人材が不足していると痛感し、スクールを立ち上げました。その拠点は東京や仙台ではなく、岩出山です。
ビジネススクール校長・早坂正年さん
「ローカルのことを考えるのに東京でやっていてはだめ。やはりこの場所で起こっていること、この場所で困っている人が見えて、生み出されてくる」
スクールでは、ローカルであることを強味と捉え、酒蔵や水産業の課題を"生きた教材"にしてきました。
しかも、事業プランは実行に移されるため、通常のビジネススクールでは得難い実践力が磨かれるのです。
今回、“教材”に選んだ鳴子漆器。
受講生は1年間 考え抜いたアイデアを基に、試作品など仕上げていきました。
開発費など予算もシビアに計算し、佐藤さんにプレゼンを繰り返しました
受講生「まだ考えが甘い。もっと深堀しないと実現できない」
2月、プランが固まってきました。
その一つ目は、SDGsの観点から、旅館や各家庭に眠る古びた漆器に漆を塗り直すサービス「NARUKO VINTAGE」です。
これまで中古の漆器が再利用されることはほとんどなく、古いものに価値を見出すビンテージという発想には、佐藤さんも前向きです。
佐藤建夫さん
「もしかしたら生き返って素晴らしいって見てもらったり手にしてもらえるかもしれない」
そして、佐藤さんが最も興味を示したプランが「龍文塗の体験プログラム」です。
「龍文塗」とは、数種類の顔料を水に浸して潜らせると、独特な模様が浮かび上がる技法で、世界に2つとないデザインです。
一堂「おおー」
鳴子漆器では伝説の職人・故 澤口悟一さんが考案し、一時 大ヒットした龍文塗ですが、手間がかかるなどの理由でほとんど作られなくなりました。
受講生は、この埋もれた技を復活させ、外国人観光客らを対象にした体験プログラムで、鳴子漆器の魅力を世界に発信しようと提案しました。
受講生「唯一無二で感動的」
ヨーロッパで人気が高まる日本酒が、ワイングラスで楽しまれている現状に目を付け、酒枡に龍文塗を施して日本酒の本来の味わい方を売り込むプランも準備しています。
佐藤建夫さん
「そういう方法もあるんだと、意欲が沸いた。元気が出てうれしかった。提案されたものに技術を上げて内容の良いものをつくらないといけない」
開校から3年。
卒塾生の中には、地域経済の牽引する起業家が出始めていて、地域産業の課題解決と人材育成の一石二鳥のビジネススクールに注目が集まっています。
ビジネススクール校長・早坂正年さん
「ローカルイノベーションスクールで考えたアイデアで、起業する人たちがローカルで出てくると良い。ピンチをいかにチャンスに変えるのかを学び、お互いにウィンウィンになれる関係は、まだほかにもたくさんあるのではないか」
3月8日、宮城・大崎市役所市民交流エリアで、行政や金融機関などを招いたプレゼンテーションが開かれ、最終的な事業プランが決定されます。