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【特集】「民藝」とは? 普段使いのアイテムに少しこだわって生活を豊かに… 街の新たなにぎわいづくりに民藝を活用 鳥取県鳥取市

2024年5月18日 7:32
【特集】「民藝」とは? 普段使いのアイテムに少しこだわって生活を豊かに… 街の新たなにぎわいづくりに民藝を活用 鳥取県鳥取市

「民藝(みんげい)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。オシャレだけどちょっと値の張る食器やインテリア、あるいは「美しさとは何か?」などと少し難しい世界を思い浮かべる方が多いかもしれません。実はそんなことはなく、普段使いのアイテムに少しこだわって、生活を豊かにしようという考え方です。

鳥取市でいまこの民藝を中心にしたまちづくりを目指す商店街があります。その中心部となっているのが「民藝館通り」と呼ばれる場所。ここには、民藝の展示を行う「鳥取民藝美術館」や民藝の品々を販売する「たくみ工芸店」などが立ち並んでいます。

民藝館通りに、2024年3月オープンしたのが「たくみ珈琲店」。民藝はなんだか難しくてハードルが高い――。そんな民藝の魅力を身近に感じてもらおうと、地元商店街が中心となり、このカフェを立ち上げました。開店から1か月以上がたちましたが、この日(4月8日)もランチタイムは多くの客でにぎわっていました。

友人と来店した女性客
「居心地がいいですね、温かい感じがしますね。色どりも良いし、見た目も楽しめました。お皿がかわいくて」

別の女性客
「(これを)狙ってたの。テレビでね映ったのよ、この形の色違いが。ああ、あのカップでコーヒーを飲みたいなと思ったら、きょう来て、すごく幸せ」

コーヒーや洋食を提供する食器は、全て民藝のもの。机や椅子、照明などにもこだわり、落ち着きのある温もりの空間を作り上げました。地元の食材を使った料理も人気です。

この民藝カフェを監修したのが、鳥取民藝美術館の常務理事を務める木谷さんです。

鳥取民藝美術館 木谷 清人 常務理事
「民藝的な空間で、コーヒーを飲む、お茶を飲むというような場所がなかったものですからね。それをどんな風にデザインしようかということで」

たくみ珈琲店では、実際に民藝の食器や椅子などを使ってもらうことで、その美しさに触れられる空間を目指したといいます。

近くにある民藝美術館には、そんな民藝の品々が展示されています。民藝の代表的な作品の一つ、牛ノ戸焼の染分皿はシンプルなデザインと、深みのある色が凛とした印象を与えてくれます。

さまざまな生活道具が並びますが、そもそも民藝とは何なのでしょうかー。

鳥取民藝美術館 木谷清人 常務理事
「“民衆的工芸”を略して民藝と呼んだわけなんですね。民衆が普段使いの器だとか、あるいはさまざまな道具がありますけども、そういったものが誰もそれまで美しいとは言わなかったのですが、そういったものこそ美しいのではないか、ということを言い始めたのが柳宗悦たちだったわけですね」

日常的に使う道具の中に「用の美」と呼ばれる新たな価値を発見した柳宗悦。「民芸運動の父」と呼ばれるこの柳から影響を受けたのが、鳥取の医師・吉田璋也でした。近代化の波にのまれ、消えゆく伝統的な手仕事のものづくりを、時代に合わせ再びデザインする「新作民藝」を鳥取で確立することになります。

1932年には現在のたくみ工芸店の前身となる店舗を鳥取市で開き、翌年には東京にも民藝を扱う店舗を開きます。作品の企画からデザイン、生産、そして流通・販売まで一貫して手掛けるモデルを築いた吉田璋也。その後、民藝は国内外から注目を集め、一時代を築くことになります。

民藝美術館の隣に立つ「たくみ工芸店」では、鳥取県の窯元や工房の手がけた民芸品が販売されています。実は吉田璋也の進めた「新作民藝運動」の最も大きな特徴がものづくりとともに、流通と販売を行う組織を作ったことでした。

民藝美術館の道路を挟んだ向かい側に、吉田璋也が実際に診察を行っていた「吉田医院」がいまも残っています。診察室の中には、いまも「用の美」の考え方があちこちに残っていました。木谷さんが紹介してくれたのは、変わった形をした椅子。

鳥取民藝美術館 木谷 清人 常務理事
「こちらが吉田璋也が座った椅子ですね。ゴムのキャスターを使わずに木のキャスターで作りたいですから、木のキャスターの直径を小さくすると割れが入ってしまいますので、直径を大きくする。直径を大きくするとこういうかわいらしい表情の椅子ができてしまったということですね」

毎年秋に期間限定で公開しているこの吉田医院も、将来的には民藝館通りの観光スポットとして常時公開したいということです。

鳥取民藝美術館 木谷 清人 常務理事
「民藝の良さを知っていただくということと、ただ単に器だとかそういったものだけが良いということではなくて、民藝というものの考え方の素晴らしさを感じていただければと思っています」

民藝を活用した街づくりに木谷さんたちと共同で取り組むのが、鳥取駅前商店街で代表理事を務める真嶋さん。この商店街では、コロナ禍で客足が遠のく中、民藝館通りと連携し、民藝をテーマにしたイベント開催などを行ってきました。こうして連携を深める中で、「たくみ珈琲店」の開店が実現し、商店街の活性化へ新たな道が開けました。

新鳥取駅前地区商店街振興組合 真嶋 茂 代表理事
「民藝館通りににぎわいを持たせて、観光客の方、鳥取市民の方、近郊の方に駅前にお集まりいただいて、にぎわいを創出していきたいなというのが元々の発想です」

真嶋さんがにぎわい創出を目指し、新たな取り組みを始めた理由はもう一つあります。

それは、鳥取市が中心市街地の活性化を目指し策定した「2核2軸構想」。鳥取駅と鳥取城跡を2つの核に位置付け、これをつなぐ若桜街道と智頭街道を人が行き交う2つの軸とする構想です。これを実現するために現在進んでいるのが、核の1つJR鳥取駅前の再開発計画です。

公表された基本計画案によりますと、駅北側には向かいの百貨店と直結の空中デッキ(ペデストリアンデッキ)を設置するほか、民間と公共施設の入居する複合施設やキッチンカーなどが出店可能なにぎわい広場を整備します。さらに、駅直結のバスターミナルを東側の高架下に設け、公共交通の利便性も高める計画です。

こうした構想の中で、駅前商店街は駅から中心市街地へと人の流れを作り出す、玄関口の役目を担うことになります。中心市街地の活性化の成否は、この入り口の集客力にかかっているといっても過言ではありません。

新鳥取駅前地区商店街振興組合 真嶋 茂 代表理事
「7~8年先には鳥取駅前が大改造になります。駅に人が集まってくるようになると、これを駅だけで終結させてはいけませんので、街中に買い物客が流れていくような、そういうような一つの起点になりたいなと」

最後に、吉田璋也が鳥取に残したものをもう一つ紹介します。現在、鳥取市の観光スポットとなっている鳥取砂丘や仁風閣、鳥取城跡などは、かつて農地の拡大や都市の開発に伴い、消滅の危機にありました。この危機を救ったのが、吉田とその仲間たちが中心となり、多くの市民を巻き込みながら展開した文化財などの保存活動でした。地域一丸となった活動のおかげで、鳥取の貴重な自然や景色がいまもその姿をとどめています。

鳥取民藝美術館 木谷 清人 常務理事
「吉田璋也は究極的にはですね、民藝運動は『美による社会改革運動』だということを言っているんですね。吉田璋也が守ろうとした鳥取の自然だとか景観だとか、改めて見直される時期になってきたと思いますね」

身の回りのものに少しだけこだわって生活を豊かに、そしてその豊かさを社会全体へ。そんな民藝の精神を思いながら、疲弊する地域社会をどう変えていくのか、もう一度考えてみる時期なのかもしれません。