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【特集】公共交通業界を取り巻く厳しい現実・・・ 「地域の足」を守る新たな仕組みとは 島根県

2023年12月2日 6:00
【特集】公共交通業界を取り巻く厳しい現実・・・ 「地域の足」を守る新たな仕組みとは 島根県

公共交通を支えるバスのドライバー不足。先日も島根県松江市のバス事業者が新たに4路線を廃止する方針が明らかになりました。このドライバー不足、実はタクシーの方が深刻なんです。取材を進めていくと公共交通を取り巻く厳しい現実が見えてきました。

■夜間タクシーが捕まりにくい…

忘年会シーズン。コロナが明けた飲食店には、楽しかった日常が戻ってきていました。しかしコロナ前と変わったことがー。


「もしもしタクシー1台お願いできませんでしょうか? 」

しかしー。

「折り返し電話しますということでした。なんかもう忙しすぎて、今都合がつかないんでって。全然つかまらないですね」

夜間のタクシーがつかまりにくい状態となっているのです。取材したカップルは2つのタクシー会社に連絡し、なんとかタクシーを手配することができました。

タクシー業界に今何が起きているのでしょうか?

タクシー会社に話を聞いてみると。

松江一畑交通 立脇等 代表取締役社長
「賄いきれてないところがありますね。どうしても夜はタクシーの需要が集中するんで、お客さんに30分、15分待っていただくというのは発生しています」

バス・タクシー事業者で作る島根県旅客自動車協会によりますと、バスの運転手に比べタクシードライバーは近年大幅に減っており、また平均年齢も60歳を超え、年々上昇を続けています。

島根旅客自動車協会 秦日出海専務理事
「都会以上に地方のタクシーというのはですね、利用が減ってきているということですね。収入が少ないということで、そういったこともあって乗務員さんの方も減っていくと」

需要の低下による売り上げの低迷。

それでは山間部のタクシー会社はどうなのでしょうか?

■山間部のタクシー会社の現状とは?

取材班がやってきたのは広島県との県境にある島根県飯南町です。91歳の森山百合子さんは、毎月の通院にタクシーは欠かせないといいます。

森山百合子さん
「私は一人暮らしだから車も持ってないし車乗れる年齢でもないし絶対に必要です」

森山さんが利用している赤来交通、1972年に創業したタクシー会社です。

Q.タクシーの予約って多いときに1日にどれくらい入りますか?
赤来交通担当者
「そうですね8件とか出ることもあります。少ない時でも2~3件ですかね」

20年前はタクシー1台で1か月約80万円の売り上げがあったそうですが、今では30万円ほど。タクシーだけで会社を維持するのは難しいといいます。そこでー。

「本日の小田スクールの登校は全部で8名。よろしくお願いします」

こちらでは飯南町から委託されスクールバスを運行しています。山間部では学校の統廃合が進み、こうしたスクールバスが通学の足として欠かせない存在となっているのです。

赤来交通では現在、スクールバスの他、コミュニティーバスや予約制のバスなど町内のすべての公共交通を担っています。
島根県内で主なバス会社が運行しているエリアはこちら。

空白地帯の公共交通を埋めているのは地域のタクシー事業者です。

赤来交通 藤川佳成社長
「15年ぐらい前まではそれでもタクシー利用がかなりあったんですけども、ほぼウチの会社の収入の80%が町の公共交通の委託料によるもので賄っています」

今後予想される人口減少ー。これにより行政の公共交通支援が削減されれば、山間部のタクシー会社は経営が立ち行かなくなる危険があるのです。

どうしたら地域の足を守れるのか。公共交通の新たな仕組みを提案している会社が島根県出雲市にあります。

■公共交通の新たな仕組みとは?

バイタルリード 森山昌幸社長
「まずタクシー会社が残っているうちは、タクシー会社に頑張っていただく必要があると。残すためには、バスもどんどん減っていく中では、タクシー車両を使った乗り合い交通を行政が委託してやっていくと」

バイタルリードが仕組みを考えた公共交通が、島根県大田市にあります。井田地区の定額制乗り合いタクシー。その名も「井田いきいきタクシー」です。島根県大田市温泉津町井田地区は日本海から離れた山あいの地域。最も多い時で3000人近くいた人口も今では500人ほど。高齢化率は60%を超えます。

井田いきいきタクシーのポイントは「そこそこ便利」であること。運行しているタクシーは1台のため乗り合いが基本。専用アプリで複数の予約を効率よくまとめます。このため1人1人に合わせた乗車時間の細かい注文はできません。また家の前まで迎えに来てくれますが、降りられる場所は井田地区の中か、温泉津町の中心部に限られます。これは既存の公共交通と重ならない配慮ですが、それでも住民たちにはなかなか好評のようです。

取材した日は予約した3人が温泉津町の商店で買い物。現在は34人の会員がいて1日に平均すると10人前後が利用しているといいます。

利用者
「もうなくてはならない存在で何もかもお医者へ行くことから買い物から」

「私も9月くらいまで車に何とか乗ってたんですよ。それでまぁ免許返納しましたので、もう今度からタクシーさんにずっとお世話になって助かっとります」

定額制乗り合いタクシーは、運行コストを下げながらバスよりも利便性が高くなるとして注目が集まっています。

バイタルリード森山昌幸 社長
「目先のコストカットに走っていって委託費を下げるみたいなことしていったら逆にタクシー会社が厳しくなって、タクシー会社がなくなったりすると逆にもっとお金がかかることになりますので、頑張っている会社さんはなるべく応援していくような形をつくっていかないと厳しいんじゃないかなと思います」

街中と山間部では違う役割を担っているタクシー。特に公共交通が弱い地域では、生活を維持していくために大切な存在です。交通インフラの担い手をどう守っていくのか新たな仕組みが求められています。