給食のリンゴ食べ重体となった園児、意識不明のまま2歳迎え 24時間看護する家族の新たな日常
去年5月、愛媛県新居浜市の保育園で生後8か月の赤ちゃんが給食のリンゴをのどに詰まらせ意識不明の重体となる事故が起きました。事故から1年4か月。24時間の看護生活の中で“新たな日常”を、そして新たな“家族のカタチ”を手に入れつつある一家の姿を取材しました。
カメラに向かって離乳食を食べる男の子。当時生後7カ月の田村康至くんです。
この日から1年5か月。康至くんは、自力で動くことも声を出すこともできません。
両親:
「本当に今まで当たり前にしてきたことが全く当たり前ではない…」
あの日を境に、康至くんと家族の生活は一変しました。
去年5月16日、「新居浜上部のぞみ保育園」でならし保育中だった康至くんが、給食の生のリンゴを食べた直後に呼吸困難となり心肺停止の状態で病院に搬送。入園して5日目に起きた出来事でした。
両親:
「意識が戻らないですという話をされて、もう挿管もされていて呼吸器が付いている状態だった」
あの日以来、24時間毎日続く看護生活。父・敦さんと母・早希さんは、今も意識が戻らない康至くんに寄り添い続けています。
両親:
「僕ら夫婦は完全に180度、康至もですし、人生が変わったといっても二言ではないくらい生活感は変わった」
この日は訪問リハビリ。理学療法士の宇都宮稜さんは家族が在宅看護に切り替えた去年12月からずっと、康至くんをサポートしてきました。
宇都宮さん:
「この時間だけでもリラックスしてくれたらなと。最初の状態と比べるとだいぶ力も抜けてきたし(リハビリで)やれることも増えてきたので、だいぶ付き合ってくれるようになったんかなと。僕らに」
宇都宮さんは週3回、およそ1時間半かけて体をほぐしたり、音楽に合わせて手遊びをしたりして康至くんに刺激を与えています。
宇都宮さん:
「康至くんのこれからの人生の長さで考えるとまだまだなので、康至くんを取り巻く人たちが中心となって輪になってみんなでチームでできればなと」
康至くんは現在、西条市の病院にリハビリに通っているほか、医療的ケアが必要な人たちが集まる交流会に母親の早希さんが参加するなど、少しずつ環境が整いつつあります。
一方…
父・敦さん:
「あとはやっぱ地震に関するところですかね今は、ちょっと心配」
この夏、初めて出された南海トラフ巨大地震の臨時情報。両親が抱えるのはいつ起こるかわからない自然災害への不安です。
父・敦さん:
「子ども自体には“電気”がどうしてもないと生活ができなくなるので、その電源供給がしっかりできる場所」
医療機器で命をつなぐ康至くんにとって、電源は生命線です。
父・敦さん:
「これですね、ポータブルバッテリーになるんですけど、これを停電とか災害時にコンセントを 抜いてつなぎ直すようにしている」
自宅には、急な災害に備えて器具や栄養剤などが大量に保管されています。
父・敦さん:
「康至自体の避難場所とかがしっかりできていないのでやっぱり(行政に)避難計画書をしっかり作っていただいて、そこに基づいてシミュレーションであったりとか、それがいま全然できていないので、そこを早くできたらいいかなと感じている」
今月7日。松山市で「要配慮者の災害対策と地域づくり」をテーマに開かれた市民講座。そこに康至くんの父、敦さんの姿がありました。
敦さん:
「ここ最近2回地震があって自分自身が何もできなかったというのがあるので、生の災害地での情報や経験談、対策を直接お話を聞ける機会だったので」
東日本大震災や能登半島地震で在宅医療患者の支援を行ってきた笠井さん。訓練を通して、日頃から「人のつながり」を築いておくことが重要だと話します。
笠井健さん:
「現在個別避難計画は国の指針では努力義務ということになっているが(計画の作成)が進んでいる自治体は、そこに住んでいる人たちを想定して一緒に当事者に参加していただいて訓練をしながら考えると」
この日、康至くんと家族が向かったのは…自宅から車でおよそ20分の場所にある写真館です。
生後4か月の撮影を最後に止まっていた写真館での撮影。2歳の誕生日を前に久々の記念写真です。
撮影はカメラマンの松本さん。康至くんのベビーフォトも担当しました。1枚1枚、シャッター音とともに康至くんの成長を記録していきます。
撮影の合間も、定期的な痰の吸引は欠かせません。
最後は、お揃いのTシャツで家族写真。
「みんなでチョコパーン!おっけ?チョコパーン!!もう一回、せーの!チョコパーン!」
家族に笑顔が戻ります。
前回、家族写真を撮影した日から1年8か月。
田村さん一家の思い出が、また一つ増えました。
松本直樹さん:
「いや嬉しかったです。家族みんなの笑顔がすごく素敵だったので、それに僕らも気持ちなんかをのらされながら撮らせてもらったという感じで」
父・敦さん:
「1歳の時にできなかったことをようやくできたかなという感じで」
母・早希さん:
「色々前に進んでいる感じがして区切りというか、少しずつ区切り区切りができているかなと思って」
父・敦さん:
「家族のカタチがようやくとれたのかなと」
8月31日、康至くん2歳の誕生日です。去年は病室で迎えた誕生日。
今年は自宅で家族水入らずの時間を過ごします。
父・敦さん:
「(去年は)僕ら的にも落ち着くところではなかったですし、今年なんかは本当に家でできるのでゆっくり色々どうしようかなと考えながら」
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディア康ちゃん、ハッピバースデートゥーユー、おめでとう!」
誕生日プレゼントはリハビリに使えるキーボード。康至くんが、音楽を通して刺激を感じられるおもちゃを選びました。
父・敦さん:
「感覚的な刺激を入れていってあげることで、少しでも脳が活性化するとまた違う症状が出てくるのかなというのが一つの目標」
2歳になった康至くん。今、両親が伝えたいことは。
父・敦さん:
「どんな状態になっても今こうやって命がある以上は、この子が社会にとって何か役に立てることがあるのかなと思うので、そのことに僕らがサポートをしっかりできていったらいいのかなと思う」
母・早希さん:
「早く目覚めてねというのと、とにかく元気で長生きしてくれたらいいなと思います」
自分たちだけの“家族のカタチ”をいつまでも。田村さん一家の願いです。