風水害から命どう守る?地震の際に学校で起こりうることは…災害時のリアルを追求「防災教育」の最前線
CH.4防災です。台風の接近を前に、備えについて家族や身近な人と話し合うことも大切です。愛媛県内では、この夏休み中子どもたちが、そして学校の先生“リアルな”防災を学びました。キーワードは「判断力」。ゲーム感覚で楽しく学ぶ最新 防災教育です。
夏休み真っ只中の子どもたちが集まったのは。
今治工業高校 藤原清人教諭:
「大規模風水害で、いかに命を守れるのかっていうのを体感する。自分の体で感じたり頭で考えてもらう。(ゴールは)一つ目は生き残る。二つ目は、取り残された人を助けるということ」
台風直撃までの24時間でどう命を守るのか。すごろくの要素に、ニュース風の映像を組み合わせた防災ゲームです。
プレーヤーはシングルマザーや農家、福祉施設の職員などになり切り、ミッションの達成やアイテムの獲得、人助けなどをしながら安全な場所に移動します。
リスクの高い行動をとると「ライブポイント」が減少し、0になるとゲームオーバーです。
小学生:
「雨が降り出した!」
「どうしよっかな…土砂災害が発生するから山に逃げるのは危ない。普通の平穏な高台に」
夏休みに、親子で防災について楽しく考えてもらおうと松山市が開いたこのイベント。
台風が近づくにつれて警戒レベルも上がり、子どもたちだけでなく保護者ものめりこみながら一緒に命を守る術を考えます。
親子:
「このあとは…」
「まだ7~10(ターン)ある。でもさライフポイントはまだある」
親子:
「これはやばい、よしよしよし車は持っていない」
「マイナス20ポイント」
「車持ってたらやばかった!」
ゲーム終了後、疑似体験を通して学んだことを近くの人たちと話し合い、現実でも生かせることを書き出していきます。
生徒:
「混み合ったりエコノミー(クラス)症候群の危険が高まるので、車を使わない方がいいという意見もあったんですけど、警戒レベル3以下の場合はメリットもあることに気づきました」
藤原先生:
「車が役に立つことってたくさんあります。ただ後半、レベル4とか5ぐらいあって車で逃げようかって。そこで車を使うともう既に氾濫していてそのまま流されていく。時と場合をきちっと把握しないと危険なことが起こる」
保護者:
「どんだけそういうことをやっているかで やっぱりいざというときには行動は変わるかなと思います」
保護者:
「親としての立場でも考えられるし、子どもとしての立場でも考えられるんで、それぞれの立場で共有していったらもっといい」
ゲームを通して楽しみながら学ぶことが、実際の行動につながりやすくなると言います。
今治工業高校 藤原清人教諭:
「楽しいと、課題とか考えたことを次にステップとして、またちょっと勉強してみようかなとか思う。そういうのを繋がれば、これから南海トラフ地震が近く来るかもしれないのでそういうとこで1人でも助かれば」
一方、こちらの会場に集まったのは県内の小・中・高校の校長先生や教頭先生などおよそ70人。災害時に、子どもたちの命をどう守るべきかを研究する慶應義塾大学の大木聖子准教授から最新の防災教育について学びます。
慶應義塾大学 大木聖子准教授:
「過去に高確率で起きていること余震は100%。けが人、階段から転落みたいな大きなケガでないにしても過呼吸になるとか、これは普段の学校の訓練だと起きないことになっていて『全員異常なし』って校長に報告して終わることになっているが、これは頻繁に起こっている。過去に一度も起きていないことというのが学校の倒壊だが…たぶんこれが起きると思って皆さん校庭に逃げている」
学校で行われている避難訓練は、実際に災害が発生した際に起こることとはかけ離れていると言うのです。
どのような訓練を行えば子どもたちの命を守ることにつながるのか…
真剣な表情で講義を聞く先生たちの後ろで、大木准教授の研究室の学生たちが動き始めます。
大木准教授:
「自分のクラスの子ども、自分が担任だと思って声掛けをするとかそういうことをします」
災害時に学校現場ではどんなことが起きるのか。調査をもとに、児童や保護者に扮した学生がそれを再現し、対応していく訓練です。
先生6人が職員室に集まると…訓練スタートです。
「緊急地震速報です」
児童役:
「せんせー!」
先生役:
「子どもたちの声が聞こえるようです。じゃぁ教頭先生残ってもらって、他の先生は教室に行ってください」
すると…教室に向かう途中、階段で動けなくなっている児童が。
先生役:
「歩ける?足?足?」
「担架きた担架きた」
意識の有無や歩けるかどうかなどを確認しすぐさま保健室に運びます。
教室では。
(緊急地震速報の音)
担任役:
「大丈夫だよ、大丈夫だよ」
泣き叫ぶ児童に、何度も鳴り響く緊急地震速報。
大木准教授によると過去の災害でも、子どもたちが恐怖で動けない、余震で悲鳴をあげる、嘔吐したり過呼吸になったりするケースがあったということです。
児童役:「ちょっと外見てくるね」
担任役:「こうちゃん!いかん」「こうちゃーん危ないよ!」
じっとしていられない子どもや不安を感じやすい子ども。担当の児童1人1人の個性や特徴をイメージし、災害時にどんな声掛けや対応をすべきか、あらかじめ考えておく必要があると言います。
ここで。
保護者役:
「うちの方が安全なんで学校にいるよりも」
担任役:
「余震があって危険があってもいけないので、一緒に手伝ってほしい」
続々と学校に駆けつける保護者たち。ただでさえ教員の数が子どもよりも少ない状況ですが、その対応に追われ、子どもたちのケアに専念できません。
保護者役:「何でこんなに保健室に人がいないんですか?」
先生役:「今日ちょっと少ないんですよ」
保護者役:「対応がうまいことできてないことがすごい不安で」
先生役:「じゃぁお父さんついてもらってていいですか」
保護者役:「生徒も全然まとまっていない」
大木准教授:
「東日本大震災以降 被災3県については、保護者には引き渡しはしないということに決まりました。生きていればいつか会えます、迎えに来ないでくださいというふうに今どんどんシフトしている」
子どもの安否確認ができるまで引き渡しをしないなど学校ごとにルールを決め、保護者と共有しておくことが大切だと話します。
終始、児童や翻弄されながら訓練は終了。
5年担任役:
「汗が止まらない。いろいろバタバタするのをやりながら保護者対応とかそういったところを止めておかないとパニックになる。人が入れば入るほど大変だろうなと思った」
2年担任役:
「絶対これはそれぞれの先生がシミュレーションし想像して、何ができて何ができないか1個1個クリアしていかないと本当の震災は耐えられない状況が想像できます」
校長役:
「(子どもに対し)教員の数が少ないと感じたり、管理職としてシミュレーションを本気でやっておかなければならないと大変強く感じました。固定観念を崩されたような演習でした」
大木准教授は、大人と子どもが共に考える防災教育への転換が、子どもの成長にも大きく貢献すると話します。
大木准教授:
「ともに探求していくみたいな、 すごい前向きにみんなで失敗できるみたいな、他の教科にはない魅力が訓練にもあるということでこういうふうにですね防災の教育じゃなくて防災を通して子供たちを育んでいく。今自分がすべきことは何か自分より困った状況の人いないかっていうことを絶えず 考え続けるそういう人を育むのに、どの教科よりも避難訓練の時間を使うのが適してる」
今後想定される南海トラフ巨大地震。防災教育が変わることでより多くの命を救えるかもしれません。
大木准教授:
「予定の通りにいかなかった先生や子どもを叱るのではなく、本番までにそういう課題があるって見つけてくれてありがとうと言える。そういう風に、学校だけでなく社会全体がとらえ方を変えていく。それが本番の時に少しでも多くの人の命を助けることになるのではないか」