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“政治が変わる”県内最年少の首長が誕生…小さな町の町長選挙が残したもの【松前町長選挙】

2023年11月27日 16:44
“政治が変わる”県内最年少の首長が誕生…小さな町の町長選挙が残したもの【松前町長選挙】
当選を決めた田中浩介氏

「今、ここから見える皆さんの顔はみんな知ってる顔、ずっと私を応援してくれた人たちの顔」

11月26日夜、大歓声に包まれながら壇上で感謝の言葉を語ったのは、元松前町職員の田中浩介さん(40)

直前に、自らが立候補した松前町長選挙の開票結果を陣営関係者から知らされました。

1万1304票と3573票。

2期町長を務めた現職であり“元上司”の岡本靖さん(70)を田中さんが大差で破ったのです。

「きょういただいた票は期待値の表れだと思っていますので、この期待に必ず応えなければならない。みなさんの課題が希望に変わる新しい町を皆さんとつくっていく」

田中さんの年齢は40歳。県内20市町の市長・町長の中では最年少となります。

選挙前の下馬評では“激戦”と伝えられた松前町長選挙。

今回の結果は、人口3万人あまりの小さな町のトップを決める選挙、というだけの話にとどまらないのではないでしょうか。

“40歳の元町職員の新人”が、“70歳の現職の町長”を破った選挙が残したものとは。

(解説委員 植田竜一)

「町議選、頑張ってね」

今年7月、愛媛県庁で記者会見を開いた田中さん。

「これまでとは違うアプローチで松前町を発展させたい」として町職員を辞し、11月に行われる松前町長選挙への立候補を表明しました。

記者会見以降、定期的に国道沿いでの“辻立ち”を実施。

「初めは町民の誰も目も合わせてくれなかった」(田中さん)辻立ちも、回数を重ねるごとに手を振り返してくれたり、握手してくれたりと手ごたえを感じるように。

しかし8月、挨拶回りで出会った町民からの言葉にショックを受けます。

「あら?田中さん、もう選挙は終わったのに何でまだ辻立ちしよるん?」

「田中さん、あんた知っとるよ。頑張ったね。町議選に出た人やろ?」

ちょうど今年の夏に行われた松前町議会議員選挙と混同する町民が“多発”

「やっと名前を覚えてもらったと思ったら、町議選と町長選の区別がつかない方も多くいて…。やっぱり知名度が低い新人で、しかも、地盤も看板もカバンもない人にとっては選挙って大きな壁なんだなと痛感しました」(田中さん)

相手は、松前町のブランディングを着実に進めてきた実績を持つ現職の岡本さん。

「このままでは勝てない」

田中さんは危機感を抱きはじめていました。

若さと組織と、反対票

武器は“若さ”でした。

若くして立ち上がった田中氏に共鳴して、同世代の仲間が活動に参加。

また、当初から活動の重点に置いていたSNSでも発信を続け、ウェブ上の「フォロワー」も着実に増えていきます。

田中氏を支えていたのは“若さ”だけではありませんでした。

「ええ加減、町政を変えないかんやろ。良くない評判もよう聞こえてくるで」(田中陣営)

現町政への不満をエネルギーとして、多くの町議や自民党県連松前支部が田中氏の応援・支援に加勢。

「誰からも支援は受けられないだろう」と“孤独な戦い”を想定していた田中さんにとって、思わぬムーブメントでした。

若さと、組織力と、田中氏の危機感が原動力となり、全戸の挨拶回りや町民との対話集会を精力的に実行。

告示前には、「やはり若くて勢いがあるのが強い。手ごたえはある」(田中陣営)と言い切るほどになっていました。

“若さ”が惹きつけるもの

YouTubeでも市議会とのやり取りの「切り抜き」動画の人気が高まっているのは広島県・安芸高田市の石丸伸二市長。

37歳で市長に当選、現在は41歳です。

さらに今年は“若いリーダー”の誕生ラッシュでした。

5月、兵庫県・芦屋市に26歳の髙島崚輔市長が誕生し、話題を呼びました。

また今月には京都府・八幡市の市長選挙で元京都市職員の川田翔子氏が当選。

年齢は33歳という史上最年少の女性市長となりました。

愛媛で40歳以下で当選した直近の“若い首長”は、2004年に40歳で四国中央市長に当選した井原巧さん(現・衆議院議員)

30代のリーダーを探すなら、1999年、39歳の時に松山市長に当選した中村時広さん(現・知事)までさかのぼる必要があります。

当時の中村さんは「大きな組織を背景に挑戦したわけではない。市民の皆さんが私を呼んでくれた結果」と語っています。

その時代や時の有権者が若いリーダーを求めるのであれば、愛媛ではおよそ20年以上その要請がなく“間隙”がありました。

だからこそ、今回の松前町長選挙は注目を浴びました。

小さな町の選挙が残したもの

結果は7731票の大差をつけて田中さんが初当選。

田中陣営は勝因について、田中さんの訴えや思いに共感する輪が広がったことのほか、現職への批判票も上乗せされたのではと分析。

報告会後に報道陣の取材に応じた田中さんは“若さ”の魅力について、スピード力、実行力、発信力の3点を挙げました。

「松前町の知名度が上がっていくと思いますし、スピード感を持って取り組むことで、皆さんの声をより早く政策として実現できる。やめるべき政策はやめて、実行すべき政策は実行する。予算化を急ぎます」

今回の田中さんの決起に共鳴して、「自分も政治の道を」と志すような若者の声や“噂”が、近隣自治体を含めて様々なところから陣営に届いていると言います。

「これを機に、若い人の政治への意識が変わるかもしれない。何もしないリーダーより、若くて情熱があるリーダーの方が求められるかもしれない。そういう選挙だったと思う」(陣営関係者)

松前町長選挙が残したもの。

少しずつその答えが見え始めているのかもしれません。