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【注目】おいしいお米を炊くために!“自動車部品メーカー”が開発した「羽釜」その誕生秘話(浜松市)

2024年8月14日 17:39
【注目】おいしいお米を炊くために!“自動車部品メーカー”が開発した「羽釜」その誕生秘話(浜松市)

浜松市にある自動車部品を主に扱う企業が、お米を炊くアルミ製の羽釜を開発。9月からの全国発売が決まりました。全く別業種の商品を生み出したこの取り組み、その開発秘話に迫ります。


おいしいお米を炊くために開発されたアルミ製の羽釜「アラ火(あらひ)」6月初め、一部の店舗やネットで発売されると、おいしいと話題になり、9月から全国発売が決定しました。

その羽釜を開発したのは、浜松市にある、創業63年の「イハラ製作所」。主に自動車部品の製造や、輸送用の機械部品の製造、また産業用機械やロボットの設計・製作などを行っています。浜松に3工場、海外にも3つの工場を持つ、モノづくりの会社です。

今回、この「イハラ製作所」が、羽釜の制作に取り掛かることになったきっかけは、ある商品開発プログラムでした。

(イハラ製作所 渭原 哲 社長)
「浜松いわた信用金庫さんが企画されました、浜松デザインビジョンというプロジェクトがございまして、それに参加したことがきっかけとなります。新しいことへ挑戦していかないと自社の技術も伸びていかないですし、すごく重要な部分だと考えております」

このプロジェクトは、浜松市のデザイナーとメーカーが協業して新たな商品の開発に挑戦しようというもの。また、社長がこのプロジェクトへの参加を決めたのには、、もう一つ理由が…。それは、ある社員の言葉でした。

(イハラ製作所 渭原 哲 社長)
「とある社員がですね、お子さんから『お父さんの会社何やってるの』と聞かれた時に、わかりやすい表現でお答えすることができなかったという話もあって…」

何を作っているのか、答えられなかったお父さん。ならば、自分たちの会社は“こういう技術を持っている”、と「自信を持って言える商品」を作りたい。そこで、早速プロジェクトチームを立ち上げます。中心となったのは、「イハラ製作所」事業部長の名倉さんと総務部の堀尾さん、そして、浜松市のデザイン事務所から谷さんが参加。しかし、一体何を作ればいいのか全く決まらず迷走の日々。

(イハラ製作所 機械事業部・鋳造事業部 名倉 幸夫 事業部長)
「最初は水筒、2つに割れる水筒ということで、それを聞いた瞬間は非常に面白いなという感じがしました」

水筒を分解できれば奥まで洗いやすくなる!と、なんとも斬新な発想。しかし、実用性に乏しく、製造も困難だったため、あっさりお蔵入りに。その後もなかなか決定打が出なかったある時、デザイナーから起死回生の一言が。

(UOデザイン事務所 谷 雄一郎さん)
「例えば米を炊く鍋とかどうですかね?」

すると2人の反応は?

(イハラ製作所 総務部 堀尾 健人さん)
「いいすよね。メチャメチャ」

(イハラ製作所 機械事業部・鋳造事業部 名倉 幸夫 事業部長)
「いいんじゃない」

日本人に欠かせないお米、しかも日常で使うことができる商品。そこで、アルミの鋳造技術もあるイハラ製作所の利点を活かしてアルミ製の羽釜を制作することに決まりました。しかし、もちろん炊飯窯の知識など全くなく…。そこで、以前から親交のあった、ある料理店の店主に監修をお願いすることに。それは、浜松市内にある、人気で予約が取れないことで有名な、地の食材にこだわる食べもの屋「勢麟」。

こちらがご主人の長谷部敦成さん。何と、このお店、食べログユーザーの投票で決まる食べログアワードで、全国約85万店のうち、わずか35店舗しか選ばれない頂点の食べログGOLDを2年連続で受賞したお店なんです。「勢麟」ではアルミ羽釜を使用し、ごはんを提供。炊き上がったお米の特徴を聞いてみると…。

(勢麟 店主 長谷部 敦成さん)
「もう全然、お米のベロ(舌)にのせた時のざらつき、あれが全くないんですよ。で、米の表面にも細かいヒビがいっぱい入っちゃうとかそういうのがないので、つるっとしているのが特徴ですね。もう全く別物ですね。炊飯器とかで炊くのとは」

アルミは熱伝導率が高く、急速に過熱することでおいしいお米が炊き上がるといいます。しかし、このアルミ羽釜にはある課題も…。

(勢麟 店主 長谷部 敦成さん)
「一番は金属のイオン化の反応ですね。その金属イオンの反応が出てしまうと、食材の香りをおさめてしまうんですよ」

(勢麟 店主 長谷部 敦成さん)
「アルミの羽釜は、水に金属特有の臭いが移ってしまうため、それを防ぐための下準備が必要なんです」

この「勢麟」では、毎日お客様に出す前に、何度もお米を炊き、羽釜の内部に黒い炭化層を作ることで、アルミ素材と米との接触を防いでいます。しかし家庭で面倒な下準備をするわけにも行かず…。そこで「イハラ製作所」が取り組んだのは、独自の表面処理。

(イハラ製作所 機械事業部・鋳造事業部 名倉 幸夫 事業部長)
「個々に生かせる技術があると認識はしていたので、一つ一つ(技術を)持っていけば必ずやれるとは思ってました」

(イハラ製作所 総務部 堀尾 健人さん)
「今回アルマイトというですね、表面に皮膜を作ってあげる処理を施すことによって、そのあたりはクリアできたというところですかね」

「イハラ製作所」には主に金型を作る機械事業部、そして、羽釜の形を作る鋳造事業部、さらに、最終仕上げの加工を行う部品事業部の3事業部があり、今回、それぞれの分野が知恵と技術を出し合うことで、アルミ羽釜という一つの商品が誕生したんです。

それがこの「アラ火」。表面にはアルマイト処理を施し、金属特有の臭いもなく、底面にも加熱効率を高めるための技術も駆使しました。「アラ火」とはアルファベットのIHARAを逆さに読んだモノ。まさに「イハラ製作所」の技術を結集した特別な逸品なんです。

(イハラ製作所 機械事業部・鋳造事業部 名倉 幸夫 事業部長)
「胸を張って、これはうちの会社で作ったものだって言わせてもらってます」

(イハラ製作所 渭原 哲 社長)
「新しい技術、新しい領域への挑戦は、今後、引き続きやっていこうという風に考えております」

現在は、浜松市の遠鉄百貨店で販売されている「アラ火」。社員が胸を張ってお子さんに自慢できる製品が誕生しました。

※「アラ火」は9月から全国の百貨店などで順次販売開始予定