“初めて笑った”難病の息子へ 母親が描いた絵本 家族で支えともに生きる 未来への願い
愛らしいタイトルと優しいイラストが描かれた絵本。
ある病いを持つ息子のために、お母さんが手掛けました。
絵本を通して伝えたかったその思いとはー
「あかいふうせん ゆーらんゆーらん おやねをよけて ゆーらんゆーらん おみずのうえも ゆーらんゆーらん」
柔らかい絵のタッチと優しいリズムで進む絵本。
描いたのは、北海道石狩市に住む庄司あいかさんです。
2年前から絵本を手掛け、今では10冊以上にのぼります。
(庄司あいかさん)「昔から両親が毎晩絵本を読み聞かせてくれるような家で育ったので絵本はすごく好きで。たまたま(育児の中で)パッと時間ができたタイミングで、そういえば昔、絵本を描きたかったなっていうので絵本を描いてみた感じです」
あいかさんの絵本に込められているのは、障害のあるなしに関わらず、いろんな人に楽しんでもらいたいという思いです。
息子の隼人くん12歳。
生後間もなく、体に腫瘍ができる結節性硬化症を発症し、右半身が麻痺状態になりました。
さらに、てんかん発作が起きる難病も患っています。
隼人くんの左脳は腫瘍によってほとんど機能していません。
声をかけても反応が少なく、泣いてばかりの日々。
育児の喜びを感じることができなかったといいます。
(庄司あいかさん)「自分の子どもが病気になるとは、頭の隅にもなかったんです。想定していなくて、もうとにかくそれがショックで。最初、病院にかかってから数日後に初めて母に電話して、死んじゃうかもしれないって言ったんですけど。その時が1番苦しかったかもしれないです」
「どうしたら、笑ってくれるんだろう」
あいかさんは、抱っこが好きな隼人くんのために絵本を描き始めました。
(庄司あいかさん)「おみずのうえも ゆーらんゆーらん。楽しくなってきた。ありがとかぜさん ゆーらんゆーらん」
(庄司あいかさん)「楽しいね」
抱っこして揺らしながら絵本を読むと、隼人くんが声を上げて笑ってくれるようになりました。
(庄司あいかさん)「最初はたまたまかなと思ったんですけど、今もハハハッて声が出て笑っていたというのもあって、だんだんと分かってきてくれて、なんか絵本を読んでいる時間は少しだけ通じ合えるみたいな感覚がありますね」
隼人くんには妹の陽菜ちゃんと、弟の晴くんがいます。
そしてお父さんの圭佑さん。
家族であいかさんの絵本づくりを応援しています。
(圭佑さん)「隼人みたいな子たちも楽しめる本があるんだなというのは僕もわからなかったし、そういうことができるんだなということで、驚いたしうれしかったです」
(庄司あいかさん)「絵本もう1回読む?陽菜、もう1回ガタガタドンドン読んで」
(陽菜ちゃん)「ガタガタドンドン~♪」
いまでは妹の陽菜ちゃんが隼人くんのために絵本を読むこともー
でも、陽菜ちゃんには複雑な思いもありました。
兄弟の目線から描いた「ぼくのにぃに」。
「ママがいないとつまんない。保育園なんて行きたくない。ぼくはボソッと、にぃになんてしんじゃえって、言った」
この「にぃになんてしんじゃえ」というセリフ。
陽菜ちゃんが小さいころ、知り合いのお母さんに言ったそうです。
(陽菜ちゃん)「周りの人からじろじろ見られたりとか、これうちのお兄ちゃんって見せた時に「あっうん」って感じの反応が、他の人とは違うんだなって、ちょっと悲しい気持ちになったりとか、小さいころはよくありました」
(圭佑さん)「ショックだったし、でも幼心にそう思うんだろうなと。お母さんが奪われ続けているみたいな、そりゃそうだよね」
(庄司あいかさん)「ずっと押し込めて、私たちの前ではいい子でいてくれたと思うから、そこはしっかり受け止めて、寂しい思いをさせた分これから大きくなっても抱きしめてあげたいし、大好きだよ、大切だよってことを伝えていきたい」
絵本を通していつしか、陽菜ちゃんの心にある思いが芽生えました。
(陽菜ちゃん)「この絵本(ぼくのにぃに)で、別にこれでもいいんだって思ったりとか、お兄ちゃんのことも別にこれが普通だからいいよねっていう気持ちになれました」
散歩に出かけたあいかさんと隼人くん。
この当たり前の生活も、以前はなかなかできませんでした。
(記者)「小さい時、外に連れ出したくないという気持ちもありましたか?」
(庄司あいかさん)「いや、どちらかというと連れて出さなきゃ、知ってもらわないといけないなと思っていた。なので結構積極的に出るようにはしていて、でも出たはいいけど勝手に傷つくことはありました。今は何か気持ちの問題だったなと思って全然気にならないですよね、隼人は隼人だし」
障害のある隼人くんがいる生活は「当たり前」。
隠すことはないと考えています。
あいかさんは障害者への理解を広めたいと去年、絵本の販売サイト「絵本屋だっこ」を立ち上げました。
今年4月までに1100冊以上を販売し、売り上げは絵本配布のための資金や障害児支援のために寄付しています。
(庄司あいかさん)「隼人がいなかったら今の私はないし今の家族はない。なので隼人が来てくれたことで、教えられたことも本当にたくさんあって、苦しかったことも本当に意味があって、今につながっているなと思う。それがあるからこそ今私が伝えられることがある、絵本に込められる思いがある。本当に隼人には感謝してます」
絵本作家として歩み出したお母さんを見て、陽菜ちゃんにも夢ができました。
(陽菜ちゃん)「いろんな障害の人のことを、みんなに知らせるような絵本を作りたいなと思っています」
(庄司あいかさん)「私の発信することに対して共感して寄り添ってくださる方がこれから増えていくと、もっと優しい社会になっていくんじゃないかなと思っています」
いま、あいかさんが伝えたい思い…
それは「誰もが共に生きる社会をつくる」ことです。