短期間で3回の事故 高齢者に免許返納を促すも平行線「生活に欠かせない」 北海道
ブレーキとアクセルの踏み間違いに逆走。
高齢者ドライバーによる事故が後を絶ちません。
警察は高齢者に免許の返納を呼びかけていますが、なかなか進まないのが現状です。
免許返納をめぐる実態を取材しました。
3回の事故 警察官が高齢者宅を訪問
北海道石狩市内の住宅を訪れる2人の警察官。
この日訪問したのには、ある目的がありました。
(警察官)「短い期間で連続した交通事故があったので、その件でお話を聞きたいなと来させていただいたんですよね」
道警では複数回事故を起こした人を訪問し、安全に運転するための指導をしていて、この日もその取り組みの一環で訪れました。
話を聞く80代の男性。
実はことしの4月と10月にあわせて3回事故を起こしています。
(警察官)「続いて起こしちゃった事故の話を聞いてもいいですか?」
(男性)「駐車場の中で…これはアクセルじゃないかなと思うんだけどもね」
(警察官)「アクセルとブレーキの踏み間違いですか?」
(男性)「それで物損で終わったんですけどね」
アクセルとブレーキの踏み間違いで事故
当時の状況を詳しく聞く警察官たち。
あえて本人に話してもらうことで、受け答えが正確かどうかを見ています。
(警察官)「アクセルとブレーキを踏み間違えてぶつかったのは何にぶつかっちゃったんですかね」
(男性)「鉄骨の…柵があって、暗かったんですけどね。それで間違って(ハンドルを)切っちゃって…駐車場に入っちゃって…それで女性の車、無人だったけど擦ったんですよね」
逆走や踏み間違い 相次ぐ高齢者の事故
男性のような高齢ドライバーによる事故。
道内でも多く発生し、社会問題となっています。
左車線を逆走してくる車。
おととし3月、砂川市で起きました。
運転していたのは80代くらいの男性でした。
高齢者の事故に多いのは「逆走」だけではありません。
「アクセルとブレーキの踏み間違い」です。
走って車を避ける人の姿も見られ、間一髪だったことがわかります。
実際に踏み間違いによる悲惨な事故も起きています。
ことし10月、釧路市の総合病院の玄関前で4歳の女の子と母親が乗用車にはねられました。
女の子は死亡、母親は軽傷を負いました。
逮捕されたのは77歳の男性。
調べにこう供述しました。
「アクセルを踏んでしまった」
札幌でも9月に70代の男性が運転する乗用車が北区のスーパーの店内にー
また、10月には同じく北区のピザ店に80代の男性が運転する乗用車が突っ込む事故がありました。
幸いけが人は出ませんでしたが、どちらも「踏み間違い」が原因とみられています。
80代男性に免許返納を提案するが…
石狩市の80代男性宅です。
事故が相次いだ男性に、警察官が免許の返納を提案します。
(警察官)「いつかは(返納)しないといけないというお気持ちはあるんですか?」
(男性)「まだ」
(警察官)「今すぐは考えられない?」
(男性)「そうですね」
妻の足が悪く免許がないと生活できない
免許の返納はしないと訴える男性。
妻の足が悪く、自分が運転しないと生活できないと訴えました。
(警察官)「奥さんと息子さんと車に乗ることがあると思うので、今後交通事故を起こさないように、家族にけがさせないようによろしくお願いいたします」
免許の返納については平行線のまま、この日の訪問は終わりました。
(札幌方面北警察署 木下大吾警部補)「きょうは受け答えもきちんとされていたので、大丈夫なのかなというのが正直なところです。交通事故を起こすからただ免許を返しなさいよと言ってもその後の生活もありますので、ご家族と話をしていただきたいなと思います」
道警がまとめた年齢別の負傷事故発生件数の推移です。
道内の事故件数は減っているものの、65歳以上の高齢者による事故は6年間ほぼ横ばい。
高齢者が占める割合は高くなってきています。
「車がないと生活が不便」
警察庁のデータによると、免許を返納したくない理由で最も多かった答えが「車がないと不便」。
およそ7割を占めました。
交通事情に詳しい専門家は、返納したがらない人が多いのは、北海道ならではの事情もあると言います。
(東北学院大学工学部 城戸章宏さん)「(北海道は)車を手放す人が比較的多いし、公共交通機関が脆弱。移動手段に困っている人が非常に多く存在している可能性があります」
免許を返納した高齢者の実情とは
砂川市内に住む鈴木日出男さん81歳です。
鈴木さんは高校を卒業してすぐ免許を取り、およそ60年間運転を続けてきましたが、ことし3月に免許を返納。
一緒に暮らす妻・史子さんも2年前に返納しました。
(記者)「免許を返納して生活はどう変わりましたか?」
(鈴木日出男さん)「不便ですね。ちょっとした買い物に行きたいなと思ってもなかなか行けないし、乗合タクシーもちょうどいい時間があればいいんですけど、なかなか時間が合わなくて」
いつもは砂川市が運営している「乗合タクシー」を利用。
家の前まで来てくれますが、乗車するには前日までに予約が必要なため、気軽に利用することはできません。
不便にはなりましたが、ことしで免許を返納することは以前から決めていたといいます。
(鈴木日出男さん)「自分だけならいいんですけど、事故を起こしたら他人に迷惑かかるし家族にも迷惑かかる。80歳で返納しようと初めから決めていたんです」
姪が運転する車でスーパーへ
この日、近くのスーパーまで買い物に行くことにした鈴木さん。
乗合タクシーを予約していなかったため、近くに住む姪に車を出してもらいました。
(鈴木日出男さん)「(姪に)運転してもらったり荷物を持ってもらったりね、申し訳ないと思ってて」
鈴木さんは、公共交通機関や周りの力を借りることで、車がなくてもこれまでとほぼ同じ生活を続けられているといいます。
車がなくても安心できる環境作りが急務
(鈴木日出男さん)「不便なことが多くなるのは確かだよね。でもそれは仕方ないことではないかな。事故を少なくするために返納するのが一番ではないかな」
免許の返納を考えている高齢者が、車を運転しなくなった後も安心して暮らせる社会。
悲惨な事故をなくすため、その環境作りが急がれます。
家族や親戚が集まる年末年始。
「自分は大丈夫」と過信せず、免許について周りの人と考えることが重要です。