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“クマの駆除は命がけ” 相次ぐハンターへの苦情・批判 なり手不足が深刻 北海道

2023年10月24日 10:47
“クマの駆除は命がけ” 相次ぐハンターへの苦情・批判 なり手不足が深刻 北海道

北海道で人里近くまで出没するヒグマ。

人身事故を防ごうと捕獲や駆除の対応がとられていますが、ハンターへの苦情や批判が相次いでいます。

高齢化が進むハンターですが、なり手不足への懸念が広がっています。

冬眠前にクマの活動が活発化

北海道浦河町の国道を走る車のドライブレコーダーの映像です。

目の前に突然現れた2頭のクマ。

あわや事故になりかねない危険な状況です。

クマは車の周りを右往左往…

フェンスの奥に立つ大きなクマ。

体長はおよそ2メートル。

根室市のシカを飼育する施設で撮影された動画です。

従業員が爆竹を鳴らして追い払います。

今月3日朝、クマがフェンスの中に侵入し、シカ1頭が襲われました。

ここでは9月中旬からクマの侵入が相次ぎ、市は駆除する方針です。

ことしも北海道各地でクマによる被害が相次いでいます。

「クマがかわいそう」駆除に苦情殺到

東部の標茶町では6月、牧場で乳牛1頭が背中を食われ死んでいるのが見つかりました。

牛に残されていた体毛をDNA検査したところ、あの忍者グマ「OSO18」の仕業と判明。

標茶町などでは4年前から、OSO18に60頭以上の乳牛が襲われる被害が繰り返され、地域の人々を不安に陥れてきました。

警戒心が非常に強いため、OSO18の捕獲は難航を極めましたが、ことし8月、事態は急展開を迎えます。

(釧路総合振興局 杉山誠一くらし・子育て担当部長)「家畜被害をあたえておりましたヒグマ・OSO18と呼ばれるものと確認されました」

駆除されたのは、被害が繰り返されていた標茶町や厚岸町に近い釧路町の牧場です。

道によりますと7月30日、農地の近くに頻繁に出没していたクマをハンターが駆除。

体毛を調べたところ、OSO18のDNAと一致したのです。

(釧路総合振興局 杉山誠一くらし・子育て担当部長)「地域の人に安心して営農していただける環境が整ったということで、まずはほっとしています」

地元が安堵する一方で、釧路町役場には抗議の声が寄せられました。

「クマがかわいそう」「他に方法があったのではないか」

苦情や批判が、電話やメールなどで30件ほどあったということです。

札幌市南区でも7月、子グマ3頭を連れたメスの親グマが駆除されると、市に対して700件を超える苦情が相次ぎました。

北海道が異例の呼びかけ

こうした事態を受け、道はSNSやホームページでヒグマの捕獲に理解を求めるメッセージを発信しました。

「人や農業などの被害防止のため、やむを得ず捕獲する場合があります」

すると、公式Xの閲覧数が2000万回を超え、大きな反響を呼びました。

この発信の背景にはある危機感が…

(北海道ヒグマ対策室 武田忠義主幹)「ヒグマの捕獲というのは、シカの捕獲に比べて非常に困難ですし危険もあります。高い技能と経験が求められます。そういう危険と苦労をしてまで地域の安全を守ろうとする人が、このような非難を浴びることによって自分はもうできなくなってしまう。そういうことを恐れています」

クマが目撃される回数が増えているということは、人の生活圏にクマが接近していることになります。

道ではヒグマが出没した場合、出没場所が
・市街地なのか
・農耕地なのか
・森林地帯であるのか

そしてクマの行動がどの程度危険なレベルにあるのか
・人間を恐れない
・農作物への被害など人間の活動に実害を及ぼす
・人間に積極的につきまとう、人間を攻撃する

などといった段階に応じた対応方針を定めています。

これに基づいて「有害」と判断された個体については、人身事故を防止するため捕獲という対応をとっています。

危険も伴う“クマの駆除”

しかしいま有害捕獲を行った市町村やハンターを非難する声が、道内・道外から寄せられているといいます。

今回の道の発信には、ヒグマの有害駆除に理解を求めると共に、ハンターのなり手不足への危惧があります。

実際にヒグマと対峙し、地域の安全を守るハンターはどんな思いで銃を持つのか、話を伺いました。

北海道厚岸町のハンター・久松昭治さん73歳です。

エゾシカの有害駆除にあたっています。

(記者)「クマを見ることは?」

(久松昭治さん)「年に数回」

(記者)「撃ったことは?」

(久松昭治さん)「あるね、今までに3回くらい。シカの駆除中に出てきたとき、危険を感じれば撃つ、今まで探して撃ったことはない。クマはいても問題ないし、OSOみたいに悪いことをしなければ問題ないので」

ハンターになっておよそ30年。

年々クマの被害が身近に迫っていると言います。

(久松昭治さん)「皮むいてあるでしょ。クマが泥だらけになって体の泥を落とす。30年以上前、私が銃を持った時はクマなんて見たことなかった。今は普通に見られる。異常事態なんですよね、増えすぎちゃって」

(久松昭治さん)「これ牙の痕だね」

酪農家でもある久松さんは去年、経営する牧場で放牧中の乳牛がクマに襲われました。

忍者グマ「OSO18」の仕業でした。

深刻化するクマやシカなど野生動物による農業被害。

また、釧路市阿寒町では今月13日、川に釣りに来ていた男性が、林道で親子とみられる2頭のクマに襲われ、重傷を負う事故がありました。

市民の安心安全を守るのがハンターの任務です。

(久松昭治さん)「現場でクマに接している私たちからすると、クマは危険な動物というイメージしかない。早めに駆除していかないと、毎年人が犠牲になってしまう」

なり手不足が深刻

クマの駆除に対して非難が相次いだことに、久松さんは複雑な思いを抱えています。

(久松昭治さん)「昔と違ってハンターが増えることはないですよね。余計なり手がいなくなっちゃう、非難がくるとね。ハンターは撃ちたくて撃ったわけではないだろうから、人の命を守るために、クマが近づいたら駆除しなければいけない」

久松さんによりますと、クマは本来探して撃つものではなく、危険を認識して撃つものだということです。

ところが、クマを察知したからすぐに撃てるわけでもなく、クマに襲われるかもしれないという危険と隣り合わせの中でやっていると話していました。

実際に北海道内のクマ出没件数は年々増加傾向にあります。

道警によると、ことしは9月末までに3103件と、すでに去年1年間(1882件)を大幅に越えている状態です。

北海道ではどの地域でもヒグマの存在は脅威であり、人々の生活や安全を守る役割を猟友会やハンターに一任している現状があります。

ハンターの高齢化も進む中で、野生生物に対する危機管理体制を整える必要があることを私たち自身も理解しなくてはなりませんし、ましてそれを妨害するような行為があってはならないと思います。