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【海街リポート】甘酒で街の力に 陸前高田の米こうじで「甘酒の専門店」 岩手・陸前高田市

2024年5月24日 17:06
【海街リポート】甘酒で街の力に 陸前高田の米こうじで「甘酒の専門店」 岩手・陸前高田市

 月に一度東日本大震災の記憶をつなぐ特集「海街リポート」です。震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市の米こうじで作った「甘酒の専門店」を、ことし念願だった陸前高田市にオープンさせた女性がいます。彼女を突き動かすのは、大好きな街の力になりたいという思いです。

 暑い時期におすすめのよく冷えた、真っ白なドリンク。実はこれ陸前高田の米こうじと一緒に米、水を低温発酵させて作った「甘酒」なんです。

記者「甘い!お砂糖が入っていないのにしっかりとした甘みが感じられます。お米と米麹の自然の甘みなので、後味がすっきりしています」

 甘酒に、フルーツや抹茶を組み合わせたおよそ10種類のアレンジドリンクもあります。ことし1月、陸前高田に甘酒の専門店「AMAZAKESTAND」を開いた、小西 莉絵さん(32)です。隣まちの大船渡市出身ですが、ずっと陸前高田で店を開きたいと思っていました。

「すごい!新しくなってますね」

 震災後の海辺に来るのは初めてです。ここには、小西さんの想い出が詰まっています。小学生のころから運動が好きだった小西さんは、友だちの誘いでバレーボールに打ち込み、高校は強豪の県立高田高校に進みました。インターハイに出場すると、地元の人たちは、「がんばってね」と応援してくれました。

 この海で、部活の仲間とトレーニングをしたり放課後に友人と笑いあったりしていた翌年、東日本大震災が起きました。東京の大学に通っていた小西さんは、テレビの画面に映る変わり果てた陸前高田の街や全壊した母校をみて、夢であってほしいと思いました。

 すぐ地元に戻り、隣街の大船渡にいる家族の無事を確認しましたが、高田高校時代の友達が津波にのまれて命を落としたことを知ります。しだいに、ある思いが芽生えました。

小西さん
「震災をきっかけに自分の生き方っていうんですかね、どのように人生を歩んでいくかって」「勝手に使命感みたいな、別に誰にも求められていなかったとしても、自分は地元のために何かやりたいなってみたいなのは、ざっくり思ってました」

 将来、陸前高田にカフェなどを開き、にぎわいをつくりたいと、大学卒業後は、喫茶店文化が根付く名古屋の喫茶店などに勤めて経験を積みました。

 そして、5年前の2019年には、前の職場の同僚だった三橋 英里子さんと2人で、まず、三橋さんの夢だった神奈川県の鎌倉に、「AMAZAKESTAND」の本店を開業しました。開業してまもなくコロナ禍となり、緊急事態宣言で店を開けられない時もありましたが、丁寧な接客を心がけ、着実にファンを増やし、手ごたえを得ました。

 2021年に仙台店、そして、ことし1月、陸前高田の中心部に、念願の3号店を開きました。「甘酒の専門店」にしたのは、京都に旅行した時、初めて甘酒を飲んでそのおいしさや歴史に感動し、他の喫茶店との差別化も図れると考えたからです。

小西さん
「【飲む点滴】って呼ばれてまして、日本古来からまだエナジードリンクとかがなかった時代から、夏バテ防止にずっと飲まれてたっていう」

 甘酒には「酒かす」で作るものもありますが、「AMAZAKESTAND」の甘酒は「酒かす」を使いません。原料は盛岡の農家が作る米と、米こうじ、水だけで、砂糖も入れません。

 小西さんが譲れなかったのは、大好きな陸前高田の魅力を伝えるということ。震災の津波で全壊し、再建した100年以上の歴史を持つ、陸前高田の老舗こうじ店から「米こうじ」を仕入れ、全ての店舗で使っています。栄養をそのまま届けるため、あえて火入れはせず、低温で発酵させた、ブドウ糖とアミノ酸が豊富な「生甘酒」です。甘酒を気軽に楽しんでもらいたいと、フルーツや抹茶などを合わせた、アレンジドリンクも人気です。オープンして4か月で、常連のお客さんもいます。

87歳の常連
「何回来たかわからない」「美味しいから、よその人さも話して、今度は友達と来ようと思って」

ココア甘酒を初めて飲んだ子は。

子ども「ココアっぽい味でおいしい」

 鎌倉の本店は、一緒に起業した三橋さんが営んでいますが、仙台と陸前高田、2つの店の運営と、インターネット販売の発送などは、小西さんが担当しています。

小西さん
「ここ陸前高田店が、木曜日から日曜日の営業、週4日の営業で、それ以外は仙台に行って働いています。(休みなし?)休みないですね」「甘酒は火入れしないけど、思いは熱いみたいなはははみたいな感じですね」

「あやじゃん!」

 高田高校時代の同級生が来ました。

「うんおいしい、バナナもいい」

記者「小西さんが地元でお店を開いたことについて」

同級生
「正直ここに開くと思ってなくてびっくり」「自分もそうですけど市外に出てしまったので、こうやって地元に戻ってきて、自分の好きな街を盛り上げてくれてるっていうのは本当にうれしいです」

 大好きな街の人たちとの交流を励みに、小西さんには、あたらしい目標ができました。

小西莉絵さん
「日本にいる外国の方たちに飲んでいただいて、みなさんすごいデリシャスみたいな」「世界でも通用するんじゃないかなっていう可能性を感じていますね」

 陸前高田の米こうじで作った甘酒を海の向こうにも届ける。小西さんの大きな夢がこだわりの一杯に詰まっています。

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