難病・パーキンソン病の患者を支える男性「いつ動けなくなるかわからない」命がけで仲間と共に活動続ける
甲斐敦史さん(62歳)
働き盛りの40代後半で、パーキンソン病を発症して約16年。
最初は「左足でつまずく・左指先がちょっと痺れる・無意識に筋肉に力が入ってしまう」という症状。
脳神経外科の病院で「顔の表情がないからパーキンソンじゃないか」と言われました。
当時パーキンソン病という病名も聞いたこともなく、ネットで調べてみると「難病で、治療法もなく、原因もわからない」ということを知ったそうです。
現在、2人の子供はすでに独立し、妻と2人暮らし。
3年前に定年退職を迎えた後は、全国パーキンソン病友の会 宮崎県支部の代表・日本難病・疾病団体協議会 理事を担い、様々な活動を続けています。
活動で東京へ行くこともあるという甲斐さんは、「いつ動けなくなるかわからないので、ある意味命がけで活動しています。ただそんなことを言っていたら何もできない。病気とともに体当たりでいくしかない」と笑顔で話します。
「パーキンソン病」とは
国が指定する難病のひとつ「パーキンソン病」は、脳の異常で体の動きに障害が現れる 病気。
身体を動かすために必要な神経伝達物質「ドパミン」が十分に作られないことで体の動きに障害が出ます。
代表的な症状は「安静にしているときに手足が細かく震える・重心がぐらついたときに姿勢を立て直すことができず倒れてしまう」といったものがあります。
笑ったり喜んだりすることが、ドパミンの分泌につながり非常に良いと言われています。
パーキンソン病 友の会 定例会
さまざまな活動を続ける中で甲斐さんが大切にしているのが、パーキンソン病友の会の定例会(毎月第3土曜日 13:30 ~ 開催)。
患者やその家族が月に一度集い交流する会で、パーキンソン病について患者同志で情報共有することが最大の目的です。
病気によって体を動かすことが減ってしまうので、交流会では必ずみんなで楽しみながら運動を行います。
- 【話:発病から10年の男性】
最近調子が良くて、今日が一番ベストだなぁといつも思っているところ。この調子でもうちょっと長くいければいいと思う。 - 【話:発病から7年の女性】
仕事を辞めてから日常生活を送るっていうことだけで1日が終わってしまう、そういう生活になって充実感がないような。その中でやはり気をつけていることは、自分で自分のことができるように生活を送るということ - 【話:発病から21年の女性】
薬が変わってから急に転倒するようになり1日に何十回も転ぶんです。でも転んだら転んだまま自分で起き上がることができなくなってしまい、一度は人生をあきらめかけました。そんな時にお電話をくださったのが会長の甲斐さんでした。本当にありがたくて会長からの電話がなかったら、もう立ち直ってなかったんじゃないかなぁって思いました。
薬との向き合い方について
この日は、妻が1年前に発病したというご夫婦が初めて参加していました。
「薬をいろいろ飲んでるのに、だんだん症状が進んでいっているような感じ。薬で悪くなってきているような気がする」と悩む女性に、他の患者から「私の場合、効いてくる前に状態が一旦ものすごく悪くなりすごく苦しい状況になってから、数十分後に効いてくるというパターンもある。あきらめずに効く方法があるはずだと前向きに捉えられると、きっといいふうに向くと思う」というアドバイスがありました。
甲斐さんは、「薬が効く幅というものがあり、人によって幅が狭くなったり広がったりする。この幅より少なすぎてもつらい、多すぎてもつらいんです。飲んでいきながら自分の経験で探すしかない。同じような症状の患者さんの話を参考にしながら、いろんなことをやっていくことで、自分の最善の生活を見つけていただきたい」と話します。
今まで1人で悩んでいたという女性は、「同じパーキンソンの方々のいろんな話を聞いて良かった。1年以上の時間はかかったけど、同じような症状の病気の方と触れ合えたことは、私にとってはとてもありがたいこと」と話します。
- 【話:全国パーキンソン病友の会 宮崎県支部の代表 甲斐敦史さん(62歳)】
パーキンソン病は「原因不明で治療法がなく、治らない病気で進行していくしかない」ということを知り、絶望のどん底に突き落とされます。ただそれを救えるのは同じ病気の患者さんだと思っています。仲間がいるということが分かるだけで、明るくというわけにはいかないですけど、笑顔が戻ってくる、そういった会です。皆さんを笑顔にすることは、ある意味やりがいがあります。
宮崎大学医学部の実習の受け入れ
甲斐さんは、パーキンソン病患者の経験や声を多くの人に知ってもらいたいと考えています。
この日の会では、宮崎大学医学部3年生の実習を受け入れ、具体的な症状や周りの人に誤解された経験などを医学生に伝えました。
- 【話:発病から5年の女性】
一番きつかったのは、筋力が落ちていて身の置きどころがない。だるくてどうしていいかわからない、そんな状態が続いて、最初は自分が怠け者だと思っていた。ちょっと動くのもきつくなり、横になっているときが一番楽っていうような感じ。こんなことじゃいけないと、また起き上がって仕事をしていた。 - 【話:発病から21年の女性】
買い物でお勘定の時にモタモタしてしまって、後ろに並んでいる方がすごく腹を立てられて、持っていたものを全部下に投げ出してしまった。「 すみません」と謝ったけれど大変傷つきました。そういうことを説明しなくても、病気の人間が社会の中にいるんだってことを自然に理解していただけたらありがたいと思います。 - 【話:全国パーキンソン病友の会 宮崎県支部の代表 甲斐敦史さん(62歳)】
薬の副作用で 勝手に体が動くという症状もある。目の前に自転車が急に通ってびっくりして、そのまま動けなくなってしまうという患者さんもいるんです。そんな時に警察が来て「 そんなところに立つと危ない」と怒られた人もいるんです。パーキンソン病だと伝えても理解してもらえなかったという話もあります。
宮崎大学医学部の阿部彩乃さんは、「教科書を読んだだけだとリアリティがないというか、ただ暗記すればいいみたいな感じに思いがち。実際に患者さんを将来的に助けるために勉強しているという意識に変わるので、機会をいただけて本当によかったと思う」と話します。
警察学校での講習会
パーキンソン病の患者は、社会生活でトラブルに巻き込まれることもあります。
去年は元警察官の患者さんとともに警察学校へ足を運び、病気に関する話をしました。
【講習会の内容】
パーキンソン病の方の典型的な体の動き「すくみ足」は、次に踏み出そうとしても足が動かない症状。
自分で足の太ももをつねって持ち上げて動かしたり、心の中で「1、2、3、ソレ」で動き出す、こうやらないと動くことができない。
もちろんすぐにパーキンソン病の人がトラブルに巻き込まれているということは分かるはずはないと思います。
相手の方から聞き出して、パーキンソン病であると分かったときに、その心情を理解して思いやりのある態度を取っていただければと思います。
甲斐さんが活動する原動力とは?
- 【話:全国パーキンソン病友の会 宮崎県支部の代表 甲斐敦史さん】
やっぱり仲間ですね。仲間の皆さんが苦労して 闘病生活をしている。一人暮らしの方もたくさんいらっしゃいます。そういった人たちをできれば助けてあげたい。同じ病気の人じゃないと苦しみは分からない。だから本当は治療法を確立してあげたい。自分も治りたい。そういった思いがまずあります。そのために治療法を見つけないといけない。海外でもいろんな治療法が研究されていますので、そういったものを実現するためにはやっぱり患者が声を上げていかないと。ただ待っているだけじゃ進みが遅いんです。ぜひ皆さんもこの会に入っていただいて、みんなで声を上げて一日も早く実現したいと思っています。
パーキンソン病友の会では、治療法の研究への支援を国に呼びかける署名活動を行っていて、今年は全国で11万を超える署名を集め国会に届けました。