約半数が高齢者 存続を懸けた西川町の取り組み タブレットの全戸配布など積極的なデジタル化も
ほぼ2人に1人が高齢者という西川町でいま、町の存続を懸けた取り組みが進んでいます。その中心がタブレットの全戸配布といった積極的なデジタル化です。一方で、住民の賛否は分かれています。行政と住民は町の将来にどう向き合っていくのか。分岐点に直面する町を取材しました。
県の中央部に位置し、豪雪地として知られる西川町。
人口は約4500人で県内35市町村で32番目。高齢化率は47・9%と最も高い割合の町です。
2年前、この西川町のトップに就任したのが元財務省東北財務局職員で県内最若手のリーダー菅野大志町長(45)です。
菅野大志町長「25年後には(西川町の人口が)2000人を切る。県内で最低水準。いまが100だとすると、(25年後には)40人しか残らない。私は25年後に人がいなくなることを想定し、仕事を考え、西川町の道を考えていかなくていけないと思っている」
これまでに、インターネット上のオークションを活用した公園の命名権の販売やスマートフォンを使った周遊型の体験イベントなどデジタル技術を融合させた新たな取り組みを次々と打ち出してきました。
そしていま、大規模なプロジェクトが動き出しています。タブレット端末を町内すべての約1700世帯に無償で貸し出し、運用しようという試みです。講習会には連日、多くの町民が参加しています。
「携帯と同じように速度制限が発生するので…」「なんだがわがらね」「WIFI入っていれば動画見ても大丈夫」「動画を見る方法がわがらね」
タブレットはA4サイズほどの大きさで、町の最新情報や町報などにもアクセスでき、文章の読み上げ機能もついています。
「では一番上、海味第四町内会の皆様へというところ押してみてください」
町民「町報が(紙面だと)文字で分かりにくいが、タブレットで見られるのはすごく文字が見やすくていいなと思った」
タブレット端末は1台3万円。購入から配布、運用コストとして初年度はトータル約2億円を町の予算に計上しています。国の補助金と企業版ふるさと納税を原資に町の支出は0に抑えたといいます。行政防災無線を補完する機能を備える他、高齢者の安否確認など、様々な用途を想定しています。
町職員でプロジェクトリーダーの黒田宜雄さんです。
西川町企画財政課の黒田宜雄デジタル推進係長「最近クマの出没が増えているが、どこどこでクマが出ましたということも、今回電子データも添付できるので、地図情報も一緒に流すなど、より身近に危険を感じ取ってもらえる効果もあると思う」
一方で、課題も。黒田さんのもとに男性がやってきましたた。
町内会長「いま説明受けて、お知らせ見ないから電話番号があるといわれても、みんな080からだと誰も電話に出ない」
男性は講習会があった地区の町内会長です。知らない電話番号には出ない人もいるということを心配しています。
地区会長「町内会のお知らせで独自にお知らせするから」
さらに難しいのは「受け取らない」という意思表示をしている町民が一定数いることです。
デジタル推進員阿部昌範さん「「私は受け取らないから」と言われたことがあるが、実際に実機を見せて防災無線の観点で説明をしたら「じゃあ受け取る」と言っててくれた人もいた。最初から「タブレットだから」とか「機械だから触れない」というところを越えれば、意外に受け取ってくれる人は多いと思う。どうしてもという人も中にはいるが…」
どうすればすべての町民に受け取ってもらえるか試行錯誤が続いています。
こうした中。
タブレットの配布がいよいよ2月から始まりました。
西川町つなぐ課の荒木真也課長「タブレットの配布態勢は全職員で。みんなで一生懸命やらないと成しえない取り組み」
訪れたのは1人暮らしの高齢者世帯です。
荒木繁代さんは84歳。うまく使いこなせるか少し不安そうな様子も見せていました。
「大変だんねがやー」
デジタル推進員の黒田さん、一から丁寧に操作方法を指導していきます。
黒田さん「触り方は指の腹を使ってトンと触ってもらうと…」「長押ししなくても軽くトンと」
荒木さん「そんなに難しいと思わなかった。段々慣れて頑張って利用させてもらいたい」
こちらも一人暮らしの鈴木祐子さん。スマートフォンを利用していてタッチパネルの操作は慣れているといいます。
鈴木祐子さん「1人暮らしは不安は不安。タブレットが身近にあれば安心だと思う」
デジタル推進員の黒田勝さん「タッチパネルになかなか慣れていない方が多いので、一歩目大変だが実際に触ってみて、(表示を)大きくしたり小さくしたりして慣れていく方が多い印象」
部分的な課題はあるものの順調に進んでいるようにみえる西川町のデジタル化。
しかし、1月、1か月間にわたって行われた、キャッシュレス支払いのポイント還元キャンペーンをきっかけに、町民の不満が表面化しています。キャンペーンでは最大30%、6万円の還元が受けられるとあって、対象となった町内唯一の大手ドラッグストアの店舗には県内外から客が殺到。アルコール類やテッシュ関係の商品棚は連日、ほぼ空になりました。
新潟県から「(どんなものを購入?)ビールや薬、日用品。(西川町に来るきっかけに?)そうですね、言い方悪いがそれ(キャンペーン)がなければ知らない。今回を機にまた来てみたい」
しかし、キャンペーンの対象となったほかの一部の店舗からは、「店の売り上げはほぼ変わらなかった」という声や、キャッシュレス決済の使い方が分からない住民からは、恩恵を受けられず不公平だとの意見も。デジタル化の取り組みをどう評価しているのか、不満を持つ複数の町民が匿名を条件に取材に応えました。
町民「西川町は高齢者率が県内で一番高くて、スマートフォンを持っている高齢者は少ないと思う。ドラッグストアだけ一極集中というのはあってはならないと思う。大きい街なら何も思わなかったと思うが5000人足らずの人口でもっと考え方があったのでは」
町民「デジタル化は必ず通らなければいけない道だとは思うが、そんなに急ぐ必要はない。あまりにも急ぎすぎ。しかもこんなに高齢化が進んでいる町で。90歳の高齢者にタブレットを配ったところでどうにもならない。結局使わないで終わりだと思う」
民間の有識者グループは全国896の自治体を2040年までに消滅する恐れがある「消滅可能性都市」として挙げました。西川町もその自治体の一つ。行政のデジタル化を進めることが町の存続につながるのか。いま、その分岐点に直面しています。