“シャイン一強”に陰り「ブドウ王国」山梨の現在地 温暖化に担い手不足…生き残りへ必要なのは?
山梨県が誇る特産品のブドウが今、温暖化による着色不良など多くの課題に直面しています。日本一のブドウ王国として生き残るために必要なものは何か?取材しました。
ブドウの生産量日本一を誇る山梨。秋分の日も過ぎ、朝晩の涼しさが増してきたこの時期、収穫は最盛期を迎えています。
県が8月に発表した去年の県産果実の生産額は約711億4000万円。過去2番目の高さとなりましたが、実はその半分以上がブドウです。さらにその6割超を占めるのが「シャインマスカット」で、まさに一強状態となっています。
一方で海外への輸出額は減少。主力のシャインマスカットは現在、沖縄を除く46都道府県でつくられ、品質を問わず供給量が増加していて、値崩れを指摘する声もあります。
県農政部 原田達 部長
「確かに去年の統計でみると、少しピークアウトした価格推移にはなっている。しっかりといい物を作っている生産者には、暴落しているほどの状況でないのでは」
“シャイン一強”時代に見え始めた陰り。一方で「赤系」や「黒系」のブドウも近年、新たな課題に直面しています。
志村葡萄研究所 志村晃生 社長
「ここ4年くらい前から非常に色が入りづらい。商品価値としては少し厳しくなっているのが現実」
深刻化しているのは、温暖化による着色不良です。ブドウは気温の低い時間にエネルギーを着色に回しますが、記録的な猛暑や昼と夜の寒暖差の縮小により色付きが悪くなっているといいます。さらに追い打ちを掛けているのが、少子高齢化による担い手不足です。
逆境に立たされるブドウ王国。「日本一」を堅持するために必要なことは何なのか?
県農政部 原田達 部長
「何より追及しなければならないのは“おいしさ”」
志村葡萄研究所 志村晃生 社長
「来てがっかりさせないことが絶対不可欠なところ」
県果樹試験場 曽根英一 副場長
「生産量トップなのでやはり、それだけ品質が求められる」
専門家が口をそろえるのが「品質の向上」です。
県果樹試験場では暑くても着色しやすい品種の開発を急いでいるほか、効率的な管理と収量を両立した栽培方法の確立に取り組んでいます。
県果樹試験場 曽根英一 副場長
「こちらが県果樹試験場で開発した樹形改造による収量向上の栽培方法です。従来のせん定では(房が)1列に並んでいるのが特徴。従来はこの幅だがその間隔をせばめることでその分、ブドウのならせる枝が増えて収量が1.2~1.5倍になる。品質も従来と変わらない」
一方、これまで40種近くの新品種を開発してきた志村葡萄研究所では、今も新たなブドウの開発に取り組んでいます。
志村葡萄研究所 志村晃生 社長
「今まではシャインマスカットの子どもたちを品種開発していたのが、今度はシャインマスカットの孫たち(の開発)。来年あたりからしっかりと収穫できるところまではたどりついている」
試行錯誤を続ける業界では今、新たな光も見え始めています。志村葡萄研究所はこの夏、初めてJR東京駅にブドウ専門店を期間限定でオープン。開店前に行列ができるほどの盛況ぶりだったといいます。
志村葡萄研究所 志村晃生 社長
「不安で東京駅に行ったが、想像以上にお客さんが喜んでくれた。非常に大きい財産がつかめた」
山梨のブドウは世界に通用するー。期待が確信に変わりました。
また、県が開発した赤系シャインマスカットの新品種「サンシャインレッド」も今シーズンから本格的に流通が始まりました。シャインマスカットから受け継いだ皮ごと食べられる食味とシャインマスカットにはない芳醇な香りが特徴です。
取引価格はシャインマスカットの1.5倍~2倍と、山梨県の新たな主力品として注目を浴びています。
県農政部長 原田達 部長
「おいしくて口に入れた人が幸せになる。そういった果物をしっかり届けなければ、消費者から飽きられてしまう。ブドウ王国で来られている大きな理由の一つは、観光園が非常に多いことも特徴であり魅力である。(観光園は)いろいろな品種を用意していることが多い。ぜひ自分の好きなブドウを見つけて、山梨のファンになってもらいたい」
岐路に立つブドウ王国・山梨。その未来を照らすのは絶えず、品質向上に取り組む人々の熱意です。