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【特集】知られざる航空自衛隊『幹部候補生学校』に潜入 国を守るためには「結果が全て」という厳しい“指導”の日々…自堕落な生活からエリート自衛官を目指す青年の葛藤と成長に密着

2024年3月2日 11:00
【特集】知られざる航空自衛隊『幹部候補生学校』に潜入 国を守るためには「結果が全て」という厳しい“指導”の日々…自堕落な生活からエリート自衛官を目指す青年の葛藤と成長に密着
将来は、“エリート自衛官”として国防の最前線に―

 航空自衛隊の幹部を育てる学校が、奈良にあります。入学した幹部候補生のほとんどは、大学を卒業したばかりの若者たち。卒業後は各地の部隊に配属され、部下を持つことになるため、幹部にふさわしい振る舞いができるよう体力・知識・身だしなみに至るまで、9か月間にわたり厳しく指導を受けます。求められるのは、結果のみ。知られざる『幹部候補生学校』の日々に密着。若きエリートたちの成長の日々を追いました。

“無職”だった青年が挑む航空自衛隊の世界 「親に迷惑かけるのは違う」自由気ままな日々に別れを告げ、本気で進むと決めた道

 2023年4月。奈良市にある航空自衛隊の『幹部候補生学校』に入学したのは、204人の若者たち。年によって異なるものの、試験の倍率は例年20倍前後にもなります。狭き門を突破した、エリート自衛官の“卵”です。

 航空自衛隊の階級は、空士・空曹・空尉・空佐・空将と上がっていき、3等空尉から上の階級が“幹部”です。

 自衛隊に入隊する方法は多岐にわたりますが、幹部以外で採用された場合、2士・1士・士長・3曹・2曹・1曹・曹長と地道に階級を積み重ねていきます。幹部に昇進するには、厳しい試験を突破しなければなりません。

 一方で幹部候補生として入隊すれば、いきなり曹長に任命され、幹部候補生学校を卒業してまもなく、幹部に昇進するのです。

 川島嵩嗣さん(24)も、そんな幹部候補生の一人です。

(川島嵩嗣さん)
「大学を卒業してから2年間“プータロー”をやっていまして、そこから幹部候補生学校に入学しました。将来は、英語を使って米軍との共生を図れるような仕事がしたいと思っています」

 朝6時。幹部候補生の一日は、ラッパの合図で始まります。起床から5分で、グラウンドへ。幹部といえども、自衛官として基礎的な体力は必要。腕立てやランニングなど、ハードなメニューをこなしていきます。

 トレーニングの後は、座学。国際情勢や自衛隊の持つ兵力など、今後部隊を指揮していく上で必要な知識を学びます。詳しい内容は全て機密のため、取材はNG。

(川島さん)
「非常に眠いですが…、非常に大変興味のある分野であります」

Q.本当ですか?
(川島さん)
「本当です…(笑)」

 川島さんは、自衛隊に入るまでは定職に就かず、友人と『YouTube』に動画を投稿するなど、自由気ままに暮らしていました。

(川島さん)
「親にすごく迷惑をかけていて、『YouTubeをやる』と言ったときは母も絶望していて。それはやっぱり違うよなと、そろそろ親に迷惑かけるのは違うなと思って、『本気で頑張る』と言って、ここに入りました」

幹部候補生が最初にぶつかる壁、それが『点検』「成果が出せなければ必要ない!」「言われたことをやるだけなら誰でもできる!」浴びせられる厳しい“指導”に…

(教官)
「向かって右から黒帽!ハンガーは、こぶし一個分ずつ開ける!」

 学生が最初に直面する壁が、『点検』です。身だしなみや掃除が行き届いているかなど、細かく確認されます。

(教官)
「田中候補生」
(川島さんの同期・田中新菜さん)
「はい!田中候補生!」
(教官)
「本課程における目標を答えよ」
(田中さん)
「はい!私の本課程における目標は、何にでもチャレンジすることです。大学まで大きなことにチャレンジしたことがありませんでしたが、ここに入校し、幹部自衛官として皆を引っ張って行けるように、様々なチャレンジをしたいと思っております」
(教官)
「その意気込みは良いが、部隊においては成果が求められる。成果が出せなければ、幹部としては必要ない」
(田中さん)
「はい!」

(教官)
「『ベーシックマナーの目的』について、答えて」
注:ベーシックマナーとは、挨拶、掃除、身だしなみなどの基礎的なこと。基本的なことを確実に行う習慣を徹底させることで、服務規律違反を防止するほか、任務を忠実に行えるようにする。

(川島さん)
「はい!『ベーシックマナーの目的』とは、…幹部自衛官として…一般的なことは、一般的にやる…ことだと、存じております!」
(教官)
「どういうこと?もうちょっと落ち着いて答えて。しっかり考えて」
(川島さん)
「はい…………忘れました!」
(教官)
「なんで覚えてないの?」
(川島さん)
「あ、暗記をしていたのですが…」
(教官)
「何で声が小さくなるの?」
(川島さん)
「はい!暗記をしていたのですが!忘れてしまいました!」

(教官)
「それが幹部自衛官なの?」
(川島さん)
「違います」
(教官)
「誰だってできるんだよ、言われたことをやるだけなら。レベルが低すぎる」
(川島さん)
「はい!ありがとうございます!」
(教官)
「『ありがとうございます』はいらない。答えられてないんだから」

自衛隊の任務は『練習試合なし』で『成果が全て』 自らの能力を伸ばすため、あえて難しいことにチャレンジし続ける日々「まだ成長できる」

 実弾を使った射撃訓練では、川島さんも生まれて初めて実弾を手にしました。幹部になれば射撃を指揮する立場になるため、小銃を自らが撃つことはありません。

 この訓練の目的は、『銃を撃つ部下の気持ちを知ること』。自衛隊は、専守防衛とはいえ、戦闘力を持った組織です。

 2023年9月。この日、9か月のうちで最も過酷な訓練が始まりました。災害派遣を想定し、重い荷物を担ぎながら24時間行進を続けます。その距離、60km。

(川島さん)
「肩、痛いな…肩、いってるわ」

 100人規模の隊を指揮する隊長は数時間ごとに交代し、立候補した学生の中から選ばれます。川島さんは、自ら立候補。開始から2時間後、隊長に任命されました。

(川島さん)
「順序としては、2小隊から3小隊、そして1小隊の順で行く。1110(11時10分)になったら自動的に発進するので、それまで休め」

 隊長の最大の任務は、「決められた時間に全員を目的地に到着させる」こと。川島さんが率いる2中隊は、体力に自信のない人が集まっています。そんな中、歩く速度や休憩時間を調整しなければなりません。

 他の学生から、トランシーバーで無線が飛びます。

(無線)
「10分の遅れが生じたが、歩度歩幅の変更の連絡はなかった。このまま同じ歩度歩幅で行くのか、歩度歩幅を上げるのか聞きたい」
(川島さん)
「方針としては、歩度歩幅を変えずにそのまま行って、10分の遅れは仕方ないものとする」

 「隊内に体調不良者が出た」という設定が付与されましたが、歩くペースは速めずに、後で遅れを取り戻す判断をしました。

 しかし午後、天候が悪化。歩くペースは上がらず、遅れは大きくなりました。

 予定時刻に遅れる代わりに、全員での到着を目指すのか―。
 脱落者を出してでも、時間内の到着を優先するのか―。

 隊を指揮する者に、判断が迫られます。

 川島さんたちの隊が選んだのは、「全員を到着させる」こと。しかし、目的地には、予定時間より1時間も遅れての到着となりました。

(教官)
「最初に言ったと思うんだけど、1時間も待たせるの?助けを待っている人を。あり得ない!体が痛い?待っている人は、死にそうなんだよ!」

(川島さん)
「……」
(教官)
「使命感が全然ない。目が死んでる、腐ってるぞ」

(1中隊長・齋藤英輝3等空佐)
「我々の任務には、いわゆる“練習試合”というものは存在しません。我々が『一生懸命頑張りましたが、任務を達成できず、国の主権も守れませんでした』と言ったときに、納得される方はいないと思います。『成果にこだわってほしい』と思っているのは、我々が安全保障の最後の砦であって、後ろにはもう“守るべきものを守る盾”は、ないからです」

『指導』とは、目的に向かって教え、導くこと― 9か月間の訓練を終え、配属先へ 幹部候補として、その表情にも変化が…「信頼され、まとめ上げられるような指揮官に」

 人を成長させるために必要なもの―それは、『指導』。

 『指導』―それは、目的に向かって教え、導くこと。

(教官)
「我々は、結果が全て」

 人を守るために、彼らは何をすべきか―。

(川島さん)
「まだまだ、幹部自衛官としての自覚と姿勢は足りないです。もっと成長しなきゃな、と」

 チャレンジをすればするほど、指導を受ける機会は増えます。川島さんは、自らの能力を伸ばすため、あえて難しい隊長にもチャレンジしました。

(1中隊2区隊長・大塚健智2等空尉)
「積極性は、非常にあると思います。いろんな活動に対して、積極的に『役職、自分がやります』と言えるので」

(川島さんの同期・茂庭成海さん)
「なかなか積極的にいけない子もいる中で、(川島さんは)自分からみんなに声をかけて」

 9か月間、川島さんは厳しい指導と向き合ってきました。最初は、『指導とは、ただ怒られること』だと思っていましたが…。

(川島さん)
「幹部としてどういう人間になるべきかということは、再三指導は受けたんですけど、全て頭に入れて、どう行動すべきなのかと常日頃から考えて、行動していました。『言われている内は、まだ成長できると思われている』と思っています」

 2023年12月、卒業の日を迎えました。川島さんに、卒業証書が手渡されます。

(教官)
「おめでとう」
(川島さん)
「ありがとうございます!」

 川島さんの配属先は、埼玉県の入間基地。戦闘機の動きなどを指示する部隊です。これまで学んだことを生かすのは、国防の最前線―。

(川島さん)
「いきなり部下を持つ職種ではないんですけど、階級が下の方とも暮らしていきます。他者から信頼されて、みんなをしっかりまとめ上げられるような指揮官になりたいと思っています」

 9か月間、指導を受けてきた彼ら。これからは部下を指導し、目的に向かって教え、導いていきます。

(「かんさい情報ネットten.」2024年1月19日放送)