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【独自解説】「以前から自殺願望あった」猿之助被告初公判 母親は「あなただけを逝かせるわけにはいかない」と告げ父親は頷き…「不肖な息子で申し訳ない」「許されるのであれば、歌舞伎で償っていきたい」語った今の“想い”―

2023年10月20日 20:00
【独自解説】「以前から自殺願望あった」猿之助被告初公判 母親は「あなただけを逝かせるわけにはいかない」と告げ父親は頷き…「不肖な息子で申し訳ない」「許されるのであれば、歌舞伎で償っていきたい」語った今の“想い”―
市川猿之助被告の初公判

 両親への「自殺ほう助罪」に問われている歌舞伎俳優・市川猿之助こと、喜熨斗孝彦被告(47)。2023年10月20日、東京地裁で初公判が行われ、検察側は懲役3年を求刑、弁護側は執行猶予付きの判決を求めました。両親への気持ちを聞かれると、「父も母も本来は生きていたのに、僕だけが生き残ってしまった。不肖な息子で申し訳ない」と声を震わせながら証言したという猿之助被告。あの日、いったい何があったのか、そして何を語ったのか?元検事の弁護士・亀井正貴氏と芸能リポーター・城下尊之氏の解説です。

母親が「私たちも逝く」…猿之助被告に懲役3年求刑 執行猶予は…?

Q.懲役3年求刑、どう受け止めますか?
(弁護士・亀井正貴氏)
「執行猶予を付けられるのが懲役3年以下なので、『執行猶予を付けてもいいよ』ということでしょう。求刑4年以上になると『実刑をくれ』、求刑3年6か月から4年ぐらいは『実刑は欲しいけど、仕方がない』というぐらいで、求刑3年だと『執行猶予やむなし』という、検察側の意図がみえてきます」

 罪状認否について、猿之助被告は「間違いありません」と起訴内容を認めました。また、自殺を両親に相談した際、母親から「あなただけを逝かせるわけにはいかない」と言われ、それに対して父親・段四郎さんが頷いたということです。

(亀井氏)
「もし、これが事実であれば、主導性については若干薄まります。精神的・物的にサポートし、指導していたのは猿之助被告ですが、自殺に向けての自主的な判断は両親がした、ということが見えてきます。母親のこの供述により、必ずしも無理心中ではなく、猿之助被告が『一緒に死んでくれ』というような方向でもなかったということです」

Q.母親が発言し、父親が頷いたという“温度差”は、いかがでしょうか?
(亀井氏)
「父親が発言できる状態であったのかが分からないので、厳密に言えば『意思の表明』としてどうなのかという問題はありますが、検察側としては『自殺意思があった』と認定をせざるを得なかったということだと思います」

 猿之助被告が問われている「自殺ほう助罪」とは、「自殺を決意している人に、その方法を教えたり、用具を提供するなど、自殺行為を援助したり促進したりする罪」で、「6か月以上7年以下の懲役または禁錮」と規定されています。亀井弁護士によると、「1人に対する自殺ほう助罪ならば、執行猶予付きの判決が出ることが多い」ということです。

Q.一般的には執行猶予が付くケースが多いのですか?
(亀井氏)
「1人の場合には、そうです。ただ2人になってくると、例えば『自殺ほう助罪』と『同意殺人罪』がくっつくと、実刑になるケースが出てきます。今回の場合には『自殺ほう助罪』のみですが、2人なので、執行猶予のほうに傾くけれど実刑もないわけではない、という感じでしょう」

Q.実刑になるかどうかを判断する具体的なポイントは?
(亀井氏)
「情状です。要するに、主導者は誰なのか。今回の場合は、“ビニール袋”を被せるなどとどめを刺すような行為をしているので、全体としてどう判断するかという問題だと思います」

Q.歌舞伎界にとっても刑が付くか付かないか、注目されているポイントではないですか?
(城下氏)
「非常に大きいです。執行猶予になるか実刑になるかで、同じ有罪判決でも全く印象が違います。たくさんのファンがいる中で、例えばこの先、演出家として復帰、あるいは舞台に復帰する可能性があると考えたときに、執行猶予であることが大切だと思います」

週刊誌報道以前から「自殺願望あった」…初めて明かされる心情

 被告人質問で猿之助被告は、自殺に至った理由について、「自分がいなければ、周囲(両親や伯父・猿翁さん)がもっと幸せだったと思うことがあり、以前から自殺願望があった。雑誌報道で、それが強まった」と発言しました。事件の引き金になったといわれる“週刊誌報道”の内容は、「猿之助被告による弟子・共演俳優・スタッフへのパワハラ・セクハラ疑惑」というものでした。

Q.本人にとっても家族にとっても、この週刊誌報道は大きなものだったのでしょうか?
(城下氏)
「そうですね。事件が発覚する前日に、記事の詳しい内容がわかり、『自分はもう、やっていけない』という気持ちになり、そこから“家族会議”という流れができて、悪い方向へ転がっていくという状況になったと思います」

 さらに、「自殺すれば問題が解決すると思ったか?」という質問に対し、「生きていて歌舞伎に関わり、歌舞伎界にいるよりも、いなくなったほうが弟子もしがらみが取れて、行きたいところに行って活躍できると、プラスになると思った」と述べたということです。

Q.以前から抱えていたものがあった、また“背負い込む”性格でもあったのかなと思うのですが、いかがでしょうか?
(城下氏)
「やはり、トップになったわけですよね。猿翁さんの下でのトップと、独立した形でのトップとはまた違いますし、そこに関わっている人たちがたくさんいて、それを一人で背負って立っているようなところもあったので、いろんな悩みがあったのだと思います」

Q.これまでの供述では、こういった話は出てきていなかったですよね?
(亀井氏)
「私も初めて聞きました。イメージは、ちょっと違ってきますよね。元々責任感が異常に強くて、恐らく悲観主義的なところもあったんだと思います。もし今後も歌舞伎と関わっていくのなら、ここの部分は意識した上で、何らかの形で措置して変えていく必要はあると思います」

「許されるのであれば歌舞伎で償っていきたい」…語った今の想いと今後

Q.職業について、猿之助被告は「歌舞伎俳優です」と答えたということですが、ここも注目されていたポイントの1つでしたよね?
(城下氏)
「保釈後、関係者に『もう表舞台には出られない』と話していたということですが、それならば猿之助という名前を返上することもできます。ですが、猿之助という名前でトップスターとして走ってきた歴史と、小さい頃からやってきたこともありますから、やはり『歌舞伎役者です』と答えたい気持ちもわかる気はします」

 猿之助被告本人の心情として検察側は、「この事件の直後は、なぜ自分だけが生き残ってしまったのかと思っていたが、他の人と話をするうちに、許されるのであれば歌舞伎の世界に戻り、歌舞伎で償っていきたいと思うようになった」というような話をしていたと述べました。

Q.歌舞伎で償っていきたい、という思いがあるのですね。
(城下氏)
「執行猶予判決を受けられれば、執行猶予期間を経て、歌舞伎の世界で演出もできるし舞台にも立てるということで、周りもそれを期待しているということです。ファンの数が多く集客力が違うことと、ああいった演出をする人が他にいない、ということです」

 また、弁護側からは、「刑務所に入ることがないようにしてほしい。社会の中で、社会のために頑張ってほしい」という猿之助被告の叔母からの上申書が、証拠として採用されたといいます。

Q.周りの方からのこうした声も、裁判では聞かれているのですね。
(亀井氏)
「これは法廷で言ったわけではなく、上申書という紙に書いてあり、それを検察側が同意しています。あと、懲役3年求刑していますが、求刑する前の理由でどういうことに触れているか、確認したいです。例えば、3年求刑しているが本当に悪質なんだという場合には、施設内処遇が相当であるという文言を一言入れたりするんです」

Q.ここまでに出ている情報で、量刑はどう判断されていくでしょうか?
(亀井氏)
「前々から自殺を考えていたが悩んでいた状況もあり、もしかすると精神的な疾患もあったかもしれないので、当初想定していたよりは、そこまで悪質性はなかったかなと思いますから、執行猶予の可能性のほうが、どちらかというと高いかなと思います。恐らく弁護人は、量刑の結果を見越していると思います」 

(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年10月20日放送)

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