【独自取材】「お布施などを不正に得た」として“なりすまし住職”に1億円の賠償請求も、10年以上法要営み「被害を与えたというより“門徒さんを維持した”」と真っ向対立!専門家が指摘する日本の寺の現状とは―
10年以上にわたり法要を行っていたのは、“なりすまし住職”だった…?お布施などを不正に得たとして、寺側が1億円の賠償を求める法廷闘争にまで発展する事態に。『ミヤネ屋』は、“なりすまし住職”とされるA氏と代理人弁護士に直撃取材。ジャーナリストで正覚寺住職の鵜飼秀徳氏が解説します。
■“なりすまし住職”巡り、大阪・東大阪市の寺が揺れに揺れ…一体、何が―
(『読売テレビ』西山耕平ディレクター/2024年11月29日)
「大阪・東大阪市にある『西方寺』。この寺の住職として、10年以上にわたって法要を営み、お布施を受け取ってきたというA氏が、実は、“なりすまし住職”ではないかということで、寺側がA氏に対し民事訴訟を起こしました。お布施を独占しようとしたとして、寺側がA氏に求めた賠償額は、なんと約1億円です」
疑惑の舞台となったのは、大阪・東大阪市にある『浄土真宗 本願寺派 西方寺』。門徒775万人と仏教界最大の宗派で、宗祖は鎌倉仏教の巨人・親鸞聖人。西方寺は、全国に1万を超える浄土真宗本願寺派の寺の一つです。
■「住職さんにお願いしたいんですが…」事の発端は、門徒からの一本の電話
事の発端は、2023年11月。『西方寺』責任役員・井尻雄二郎氏にかかってきた一本の電話でした。
-(門徒)
-「妻が死去しまして、従前から法要を依頼している住職さんに、通夜の読経と本葬をお願いしたいんですが」
(『西方寺』責任役員・井尻雄二郎氏)
「いや、今、ウチに住職はいませんが…?」
実は、初代住職が1984年に亡くなり、跡を継いだ住職代務も2022年に亡くなってから、2024年1月まで西方寺には住職が存在しない状態だったのです。
問い合わせを不審に思った井尻氏は、門徒の自宅を訪問。改めて事情を聞くと―。
(門徒)
「数年前から、西方寺の住職を名乗る人に月命日の法要を依頼したり、法名を付けてもらったりしておりました」
そこで井尻氏は、門徒の自宅前で、通夜の読経をしに来るという“住職”を騙る男の登場を待つことにしました。
すると―。
そこに現れたのが、A氏でした。
(井尻氏)
「こういうことは、やめてください!勝手に使わないでください。法要したり、法名を付けたり」
(A氏)
「私、これから弁護士ちゃんとついて、やってもらいますんで…」
■ポイント①『西方寺』には、そもそも“住職”がいない
原告である西方寺側の訴状によると、ポイントは大きく2つ。1つ目のポイントは、西方寺には住職がいなかったことです。
訴状などによると、西方寺の初代住職は1984年に死亡。その後、初代の甥が『住職代務』として跡を継ぎ、兼務先の兵庫・西脇市に居住していましたが、2022年に死亡しました。それ以降、『西方寺』には住職が存在しない状態で、当時は住職代務を申請中だったということです。
Q.住職を置かずに、住職代務がずっと続くことはあるんですか?
(正覚寺住職でジャーナリスト・鵜飼秀徳氏)
「よくあります。今回、住職代務は兵庫県に住んで、『西方寺』を兼務していたということなので、西方寺には住んでいなかったんですね。こういう形態のお寺は今、全国で1万以上あります」
Q.僧侶の数が減っているということですか?
(鵜飼氏)
「女性の参入などが増えているので、僧侶になる数は、恐らく激減はしていないと思います。ただ、マッチングしないんです。収益があるお寺は、なり手がいっぱいいるわけですが、檀家さんが少ない地方のお寺は、なり手がいません。今回は恐らく、そんなに多くの門徒さんを抱えていない“都市型のお寺”だったのだと思います」
■西方寺の住職になりすましていたA氏は何者?実は父と共に所縁が…
井尻氏によると、西方寺・住職になりすましていたとされるA氏は、実は浄土真宗本願寺派の別の寺の僧侶で、A氏の父は西方寺に所属する僧侶でした。A氏は父と共に西方寺の業務を行っていて、A氏の父は2012年に死亡しましたが、西方寺の門徒の名簿を無断で漏洩。父の死後、A氏は西方寺の住職と名乗って法要などを行い、名簿を利用して、作製したカレンダーを門徒に配付していたといいます。
訴状によると、西方寺側は「カレンダーには、A氏自身の連絡先を西方寺の連絡先として記載していた。西方寺への法要等の依頼が全てA氏に連絡が来るようになっていて、お布施をA氏が独占していた」と主張しています。
Q.『僧侶』と『住職』は、どう違うんでしょうか?
(鵜飼氏)
「『住職』は、お寺の宗教的な責任者です。社長に当たる『代表役員』と宗教的な責任者は兼任が多く、聖なる部分は住職・俗なる部分は代表役員と、混在しているのが日本のお寺の特徴です。今回に関しては、住職代務が離れた所に住んでいて、お寺をずっと空け放しにすると檀家さんや門徒さんのことができないので、誰かが入っていたということです。つまり、雇われているA氏の父親がずっと入っていたんですが、恐らく息子のA氏に手伝わせていて、父親が亡くなって、要領をわかっているA氏が檀家さんの名簿を持っているから、なし崩し的に続けてきたという構造だと思います」
■渦中のA氏と代理人弁護士を独自取材!A氏側は全面的に争う姿勢
『ミヤネ屋』は、渦中のA氏本人を直撃しました。
Q.“反論はする”ということで、よろしいですか?
(“なりすまし住職”とされるA氏)
「そうです」
Q.改めて、門徒さんに向けて一言ありますか?
(A氏)
「すみません、全て代理人弁護士にお答えしていますので」
A氏の代理人弁護士は―。
(A氏の代理人・安田善紀弁護士)
「事実状態を見たときに、紛れもなく“『西方寺』を維持していたのはA氏ら”と言うことができるのではないかと。そう考えたときに、果たしてA氏らが原告に損害を与えたと言い切れるのかというのは、私個人としても、甚だ疑問に思っています」
安田弁護士は、「実質的にA氏とA氏の父が西方寺の面倒を見ていたと推測できる。被害を与えたというより、門徒さんを維持したと評価できるのでは」と主張しています。また、初代住職の遺言書が存在しているとして、全面的に争う姿勢を見せています。
Q.誰が住職を決めるんですか?
(鵜飼氏)
「宗門が認定します。だから、代替わりの時に、いろんな名義を変更しなければいけません。まず、宗門に届け出て宗門が認め、そして、自治体が多いんですけど所轄官庁にも届け出て、両方の許可が必要です」
■ポイント②初代からA氏への遺言書の存在 実質は“お家騒動”か
西方寺・初代住職の遺言書は、条件付きでA氏に住職を継承させるという内容でした。その条件が、「A氏が成人になること」と「初代住職の家系の養子になること」です(条件が成就するまでは代務住職を置く)。ただ、安田弁護士によると、「A氏は成人後、幾度となく遺言書に書いてある住職継承を求めていたが、応じてもらえなかった」ということです。
そして、安田弁護士は、「本件の実質は親族間紛争である」としています。
Q.“お家騒動”ということですか?
(鵜飼氏)
「あるあるといえば、あるあるです。先代の住職が亡くなった後に、きちんと僧籍をもって次の住職が継げれば良いんですが、今回のように、収入が少なくてどこかの代務寺院が名義的に入ってしまって、普段は空っぽということが起こります。だから、慣習として、僧籍をまだ取っていない・取っていても申請していない住職の妻や息子がずっと守っているケースが結構あります。そうしないと、お墓が荒れたり、管理費が滞ったり、催促をしたりができなくなりますから」
果たして、訴訟の行方は―。
(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年11月29日放送)