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【独自解説】ロシア軍機が日本の領空を侵犯 航空自衛隊が初めて「フレア」による警告実施 領空侵犯機にできるのは「退去」と「着陸」 今後自衛隊法第84条はどうなる?武器使用の明記で変わる各国の対応

2024年9月28日 8:00
【独自解説】ロシア軍機が日本の領空を侵犯 航空自衛隊が初めて「フレア」による警告実施 領空侵犯機にできるのは「退去」と「着陸」 今後自衛隊法第84条はどうなる?武器使用の明記で変わる各国の対応
ロシア軍機が日本の領空を侵犯

 ロシア軍の哨戒機1機が9月23日午後1時から3時にかけて北海道・礼文島付近の日本の領空を侵犯しました。ロシア軍機は日本領空に近づくと、ジグザグ飛行や旋回飛行を続け、3回にわたって領空を侵犯しました。 これに対し、自衛隊は戦闘機を緊急発進させ「フレア」による警告を初めて実施しました。 「フレア」とは強い光や熱を放つ装置で、武器には該当しないものの、無線よりも強い警告の意思を伝える時に使用されます。では、なぜ「フレア」による警告を行わなければならなかったのか、今後日本は何を考えなければいけないのか、『読売テレビ』高岡達之特別解説委員が徹底解説します。

■ロシア軍哨戒機が領空侵犯 その時使われた「フレア」とは?その意味は?

 9月23日の夜に、安全保障に関する大きなニュースが飛び込んできました。今回、「フレア」という言葉がいろんなメディアの一面を飾っていますが、あまり聞き覚えのない言葉です。ロシア軍機が日本の領空に短時間で3回侵入し、この対応が、今までしたことのない方法でした。こういったニュースを報道すると、「これは相手方に対してやったら撃墜されるんじゃないのか」という人もいます。世界にはそういう国もたくさんありますが、我が国の場合はそう簡単でありません。

 実は、日本が領空侵犯に戦闘機を上げて対処するような対応を始めて57年です。この間に48回領空侵犯をされています。1度は旧ソ連時代ですが、函館空港にいきなり着陸されたということもあります。飛行機の性能が上がってきて相手の国まで到達できるということがあり、57年前からこの警戒が始まったわけです。

 火花のようなものが機体の頭から出ているのが「フレア」です。この「フレア」は、戦闘機も爆撃機も出すことができます。軍用機が怖いのは真後ろに相手の飛行機がつかれることです。ミサイルはエンジンの熱に反応して、その熱に向かって飛んで来るわけですが、「フレア」を出すとそちらの火花の方にミサイルが行くので、命中を免れることができます。

 また、相手の飛行機から見えるところでフレアを発射すると、「出ていきなさい」あるいは「進路を変えなさい」という大変強い警告の意味になります。今回のフレア発射は、日本が防空任務を本格化して初めて一段レベルを上げたということです。今までは、何度も無線で警告をして、場合によってはロシア語や中国語ができるパイロットはその言葉を使ったりもすることもありますが、今回は3回警告をしてもきかなかったのでフレアを発射したということです。

 やはり、ウクライナの戦争が始まって以来中国とロシアの露骨な日本に対する圧力があります。この2国は国際航路もある日本海で合同軍事演習を行ったりします。今回も直前まで中国とロシアが合同演習を行っていました。言い方は悪いのですが、“やりたい放題”なわけです。日本は平和に対処する国だというイメージを向こうも持っているからか、ものすごくエスカレートしてきているということが一つあります。

 それは領空侵犯です。この57年の間に40数回だったのが、今回は半日で3回侵入してきています。こういった背景もあり今回は、「警告だけで出ていかないのだったら、一段ギアを上げるぞ」という対応をしたということです。

■今、領空侵犯機にできるのは「退去」と「着陸」 対応に当たる「兵器管制官」とは?

 さて、「撃墜はできるのか?」ということですが、ここで領空侵犯に対する対処を簡単に説明します。まず我が国、日本の場合はパイロットの判断だけでは武器の使用はできません。これは国会でも厳格に答弁されています。

 領空侵犯機に対処する場合、聞きなれない「兵器管制官」という言葉の人物が出てきます。この人物は、飛行機に乗っていません。現場のパイロットは目の前で領空侵犯をしている相手方の状況を報告します。判断はこの「兵器管制官」がします。この人物が「この手段を使いなさい」「こういう警告をやりなさい」という指示をします。

 自衛隊の戦闘機パイロットは常に待機をしていて、緊急の場合5分以内に離陸すると言われていますが、実際何分で離陸するかは国家機密です。相手の航空機が領空に侵入し、「領空侵犯機」と判断した場合、パイロットは「兵器管制官」の判断を仰いで対処します。「兵器管制官」は空にいません。

 日本は、列島を囲むレーダーサイトが張り巡らされていて、そこから「入ってくる飛行機がいます。まっすぐ来ます。国籍は○○です」と言うような情報が入ります。そうすると、待機しているパイロットたちは上空に上がります。防衛省は公式に発表していませんが、今回は、まず北海道の真ん中の千歳基地からF-15が2機上がり、青森の三沢基地からF-35という日本では一番新しい戦闘機が向かったと見られています。

 今回のような「撃墜することを日本はできないのか」というのは国会でもたびたび問題になってきました。「他国の場合には問答無用なので、他国は領空侵犯を未然に防いでいる」というような主張があるわけです。

 領空侵犯について法律に書かれているのは自衛隊法の第84条です。ここで明文化されているのは、「退去してもらいなさい」と、もし入ってきた飛行機が言うことを聞かなかったら「着陸をさせなさい」ということになっています。そして、どの武器を使っていいなどは一切書かれていません。

 では、「何もできないのか」というとそうではありません。戦闘機は2機1組で飛ぶのですが、1機に対して相手が攻撃してきた場合は、もう1機が援護するために相手に攻撃をすることができます。上官の判断を仰いでいる余裕がない緊急避難、分かりやすくいうと“正当防衛”で撃っていいという解釈をしています。

 もう一つは、日本の上空に入って来た飛行機で爆撃機など、爆弾を落とす準備をしていて、下に日本国民いる、つまり国民に対して被害を加える準備をしている場合は法律に明文化されてなくても武器を使用するという解釈がされています。

 しかし、正当防衛というのはなかなか立証も難しいです。相手側は違うというかもしれません。2機1組ならば、1機が証人になるという意味合いもありますし、もう1機に対してバックアップをするという意味もあるわけです。

■実際に領空侵犯機を撃墜すると後始末が大変 トルコとロシアの場合は…

 では、「世界の常識は撃墜することだ」といいますが、実際に撃墜してしまった場合、これは国対国の問題になって、国と国の力がもろにぶつかり合うことになり、後始末がもう大変になります。それが2015年のトルコとロシアの間でありました。

 この2国は、両方とも軍事大国です。ロシアは圧倒的な大国で核保有国です。トルコ側の主張は、「ロシアの爆撃機が国境を越えて入ってきた。10回警告したけど言うこと聞かなかった」というものです。ロシア側は「いやいやそんなことはない。もうあっという間に落とされた」と主張して、お互い相手を非難し合いました。

 しかし、こういう時にロシアは大国の力を使います。トルコはロシアからエネルギーも含めていろんな貿易をしていました。そこでロシアは経済制裁をおこないました。エネルギーなどでトルコはその喉元を締め上げられました。結局、7ヶ月後にこの誇り高いトルコ・エルドアン大統領がロシアに謝罪して、領空侵犯した方のロシアが「そんなに謝るんだったら許してやるよ」というような感じになって、しこりが残っていると言われています。

 残念ながら、トルコとロシアのように、より大国の方が押し切ってしまうとなると、その時に撃墜をして、国民の憤懣(ふんまん)は晴れても長期的に見ると利益になるかどうかは難しいといえます。

■今後自衛隊法第84条はどうなるのか?武器使用の明記で変わる各国の対応

 今回、自民党の総裁選や立憲民主党の代表選などが行われている中で、先ほどの自衛隊法第84条が、「このままでいいのか」という声はもう上がっています。

 この自衛隊法第84条、領空侵犯の対処ですが、「着陸をさせる」か「わが国の領域から退去させる」ということだけが明文化されていますが、この「必要な措置を講じる」というところに「武器使用」という言葉を入れるかどうかです。この「武器使用」を入れると、「即撃墜か」と思われる人もいると思いますが、これは相手からすると自衛隊が取る手段が増えるということです。今回は「フレア」です。その前は無線で呼びかけるか、機体を相手から見えるところへ翼を振る国際的な警告を行うかでした。ただ相手は武器を使われるという恐怖は感じません。

 しかし、武器使用も書いてあるということになると、相手側は「日本がどの手段を取ってくるかわからない」と思って、全部止まるとは思いませんが一定の抑止力にはなるだろうと思います。これをするかどうかは判断の一つだと思います。

 第84条だけで済まないのが今の時代です。「無人」という言葉が、今空の世界も飛び交っています。無人機や無人の気球もありました。アメリカは問答無用で撃墜しました。日本も無人の気球については、落とすという解釈ができているようです。それは高さに理由があります。気球は民間の旅客機が飛んでいる高度と重なるものがあって、民間の旅客機のスピードだと目で見た瞬間にもう激突の危険がありますので、「どこの国のものかわからなくても落とす」という方針だということです。

 しかし、問題は無人機の方です。この無人機は瞬時に見てどこの国のものだというのはわからないです。ましてや、アメリカも持っています。中国やロシアも持っている。北朝鮮も実用化しようとしている。となると、「国籍を隠して飛んで来たらどうするのか?」これは決めた方がいいといわれていますが、法律に武器使用すら書いてないわけですから、無人機に対する対処がわからない。「国籍がわからないものを落としたらどういう因縁つけられるかわからない」というような国会議員もいます。

 我が国は1年間で700回近く緊急発進があり、戦闘機が毎日飛行しています。日本は法律の改正も含めて常に周辺諸国からその出方を試されているということを再認識する今回の「フレア」のニュースです。
(『読売テレビ』高岡達之特別解説委員)


(「かんさい情報ネットten.」2024年9月24日放送)