×

【独自解説】「困窮型」「便乗型」「ストレス型」シフトする“被災地犯罪” 能登半島地震でも悪質な手口が多発…減災復興の専門家が指摘する、デマが広がってしまう事情

2024年1月18日 20:00
【独自解説】「困窮型」「便乗型」「ストレス型」シフトする“被災地犯罪” 能登半島地震でも悪質な手口が多発…減災復興の専門家が指摘する、デマが広がってしまう事情
被災地狙う卑劣な犯罪が相次ぐ

 1月1日に大きな地震が襲った石川県・能登半島ですが、現地ではその震災に便乗した犯罪が増えているといいます。被災者を狙う悪質な手口…果たしてその対策とは?兵庫県立大学大学院・減災復興政策研究科の松川杏寧(あんな)准教授が解説します。

「ニセ自衛官」「義援金詐欺」…能登半島地震の被災者を狙う犯罪が多発

 松川杏寧准教授は2012年同志社大学・特任教授に就任、2016年に人と防災未来センター・主任研究員、2020年には国立研究開発法人・防災科学技術研究所・災害過程研究部門・特別研究員などを歴任し2023年から兵庫県立大学大学院・減災復興政策研究科・准教授を務めています。 

Q.今は金沢にいるそうですが、現状はどうですか?
(松川杏寧准教授)
「現状は、冬でかつ道路状況が悪いという、今までに類を見ないかなり難しい状況での災害対応となっています」

Q.当初よりは、七尾市くらいまでは、ある程度スムーズに行けるようになったのですか?
(松川准教授)
「道路状況はかなり改善したのですが、人が生きていく上で非常に重要である水道がしばらく通りづらいということで、奥能登の方はかなり劣悪な状況で皆さん頑張っている状態です」

 そのような中で被災地を狙う悪質な犯罪が増えています。石川県では1月15日時点で今回の災害に便乗した刑法犯が22件認知されています。10都道府県警察約150人で警戒を行っているということで、石川県の馳浩知事も「厳しく対応します」とコメントしています。

Q.認知件数で22件ですから、実際はそれ以上なのでは?
(松川准教授)
「本来、自分が被害に遭った場合は被害届を出すのですが、こういう非常事態ですので『出している余裕がない』ですとか『これくらいだったらいいかな』という感じで被害届を出さない人が増えますので、普段あがってくる認知件数より、この数字はかなり少ないと思った方がいいです」

 その悪質な手口ですが、ある業者が契約書を作らないまま、壊れた住宅にブルーシートを設置し、後から多額の料金を請求するという事案が発生しています。

Q.見積もりなしで設置するのは怖いということですね?
(松川准教授)
「高齢者が多い地域ですので、安全面からも業者に設置してもらう必要があるのですが、その業者も県内だけでは足りていないので県外の業者にも声をかけて、『ここに頼めば正規の金額でできる』というのをまずはつくることが必要です。そして、こういった問題に遭遇したときの相談窓口を周知して、何かあったときは対応するという対策を取る必要があると思います」

Q.「県外から来たので割高です」と言われると信じてしまいますよね?
(松川准教授)
「そうですね。だから、『今これくらいの金額でこういったサービスが提供されています』という公式な情報が被災者全てに行き渡るようにする必要があると思います」

 また、「ボランティアで来た」と輪島市内の住宅に侵入し高級みかん6個(3000円相当)を盗んだ疑いで自称・大学生が逮捕されています。

Q.本当にボランティアで来た人に迷惑な話ですよね?
(松川准教授)
「迷惑以外の何ものでもないです。どういった被災地でも災害対応の支援において行政や他の公的機関だけには頼れないので、民間の専門家の活動も必須ですし一般のボランティアの力添えも絶対必要になって来るんです。そういった民間の支援が信頼できないとなってしまうと、被災者にも、支援しようとしている行政にも損失でしかないので、本当に怒りしかありません」

 そして、SNSで架空の住所を書き込んで、「今後の資金を寄付していただけると幸いです」とオンラインで送金できるリンクをはる義援金詐欺も発生しています。

Q.個人でこういうことをすることはないと考えたほうが良いですよね?
(松川准教授)
「確認していないのでゼロとはいえませんが、今回の場合、高齢者が非常に多い地域なのでこういったことができる高齢者がいるとは思えないので、かなり可能性は少ないと思います。また、こういった寄付などは一般的には直接届けることはなく、行政や有名な財団などが仲介して渡すというのが一般的です」

 さらに、穴水町では迷彩服を着用したニセ自衛官が出没しているということです。自衛隊の吉田圭秀統幕長は、「我々は組織で動いているので、一人で孤立地域の家屋を訪ねて行くということはありません」と注意喚起をしています。

Q.自衛官もそうですが、警察や消防の人間も被災地で単独行動はしませんよね?
(松川准教授)
「全くあり得ません。被災地は、プロでも危ないところなので一人で行動するのはあり得ません」

 過去にも被災地での犯罪はいろいろありました。1995年の阪神・淡路大震災では、がれきによる道路の閉塞により、小回りの利くオートバイの盗難が激増しました。さらに、2011年、東日本大震災ではガソリンやタイヤなどの万引きや窃盗のほか、福島県では侵入盗が著しく増加したということです。そして、2016年の熊本地震では、空き巣が増加しSNSに端を発したデマが
広がり、便乗値上げや悪徳業者も現れたといいます。

Q.熊本地震では、猛獣のライオンが逃げたというデマが広がりましたよね?
(松川准教授)
「発端はSNSなんですが、SNSを見た人からの口コミで加速度的に広がりました。熊本地震のときに調査をしたのですが、被災者は手近な情報源に頼ります。行政から出る公式な情報は限られるので身近な人からの情報に頼ってしまって、デマがまことしやかに広がってしまいました」

「今能登は『便乗型』や『ストレス型』」シフトする被災地犯罪の実態

  被災地犯罪は大きく3つに分類されるといいます。最初の段階が「困窮型犯罪」です。これは被災者や被災者の関係者による生き延びるための犯罪です。食料などの万引き・窃盗・略奪、乗り物やガソリンの盗難、違法ながれき処理などがあたります。そして「便乗型犯罪」、これは侵入盗、義援金や支援金の詐欺・横領・窃盗など、リフォーム詐欺、物価つり上げなどです。さらに「ストレス型犯罪」で、暴力事件、薬物依存・ギャンブル依存、性犯罪などの増加が挙げられます。松川准教授は「今(能登)は困窮型犯罪の段階は終わり、便乗型やストレス型犯罪にシフトしている」と言います。

Q.被災地での犯罪はシフトするものなのですか?
(松川准教授)
「『困窮型犯罪』は生き延びるための物資がないという状態を何とか回避するための止むを得ない犯罪です。今回の能登の場合は道路事情の関係でその期間が長かったのですが、物資が届き始めると『困窮型犯罪』は減って行きます。そこから、被災者支援のボランティアなどが入って来ると、被災地内外の移動が増えます。そうなると『便乗型犯罪』が増えます。そして、『先が見言えない避難所生活がいつまで続くのだろう?この先自分たちの住まいはどうなるのだろう?』と見通しがつかないとなると、どうしていいか分からなくなってストレスがたまります。そうなると避難所でのトラブルや依存症、もともとそういう傾向がある人が起こすDVなどが増えていきます」

Q.復旧の目途がたつと変わるものでしょうか?
(松川准教授)
「そうですね。その目途を示せるように各自治体の人たちも頑張っているはずです」

「相談することで、同じ目に合う人が救われる」一人で悩まず相談を

 被災地犯罪への対策です。過去の被災地での事例を挙げて、「周囲の人にも注意喚起をしてください!何かあれば近くの消費生活センターや消費者ホットライン188ヘ連絡をしてください」としています。

Q. 一人で即断即決せず、用心するのは大事ですよね?
(松川准教授)
「相談窓口や周りの信頼できる人に助けを求めるということが非常に大事です。特に奥能登の人たちは奥ゆかしくて我慢強いので、自分の困りごとを過小評価してしまい『こんなことで相談するのは申し訳ないな』とか『わがままなんじゃないかな』などと感じてしまっているようです。しかし、決してそういうことはないので自分が助かるために、生活を立て直していくために周りに相談するべきです。相談することで『こんなことが起こっているんだ』ということが行政や他の公的機関に伝わって、同じような目に合う人が救われます。一人で悩まないで周りに相談できるようになればと思っています」


(「情報ライブミヤネ屋」2024年1月17日放送)