【兵庫県知事選】争点は“パワハラ疑惑”“公益通報”対応への是非 自民・維新は一枚岩になりきれず…重みを増す「清き一票」の行方
11月17日に投開票が行われる兵庫県知事選挙が告示され、史上最多の7人が立候補しました。県の元幹部職員による前知事の“パワハラ”など疑惑の告発をめぐる一連の問題への対応と、3年間の県政に対する是非が大きな争点となる中、不信任決議を突きつけた県議会の最大会派・自民などは「自主投票」を決めるなど、一枚岩になりきれていない現状が垣間見え、知事選の行方は混迷の様相を呈しています。
■不信任決議で失職の前知事VS国会議員・市長経験者ら6人
知事選への立候補者は、届け出順で、前参院議員の清水貴之氏(50)、前尼崎市長の稲村和美氏(51)、前兵庫県知事の斎藤元彦氏(46)、共産の推薦を受ける医師の大沢芳清氏(61)、会社経営の福本繁幸氏(58)、「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏(57)、会社経営の木島洋嗣氏(49)の7人です。
立候補の届け出を終えて、街頭に立った各候補はマイクを握りました。
斎藤氏
「改革はまだまだ道半ばです。時代に合わない予算を見直し、県民の皆さんのための県政をしなければならない」
と前知事が訴えるのに対し、ライバル候補たちは、
清水氏
「生まれてしまった混乱、そして断裂を解消していく。そのために全力を尽くしたい」
稲村氏
「兵庫県をこのままにしておくわけにはいけません。風通しの良い県庁にしていきましょう」
大沢氏
「知事と幹部職員が告発を潰そうとしたことは大きな問題。県政を正常化させる仕事をさせてください」
福本氏
「県庁の皆さんは、心理的に追い詰められてきた。新しい兵庫県政を作るために立候補した」
などと声をあげました。一方で、
立花氏
「圧倒的な得票で斎藤前知事を(県庁に)もう一度戻さないといけない。一緒に正義の活動をしていきましょう」
木島氏
「職員とのコミュニケーションとか、いろいろ改良する点はがあるが、政策面については完全に継続をしたい」
などと訴える候補もいます。
県議会の不信任決議を受けて失職した前知事に、国会議員・市長経験者ら6人の新人が挑む構図となっていますが、『パワハラ疑惑』や『公益通報』をめぐる対応への是非が最大の争点となっています。
■自民・公明「自主投票」、維新「公認・推薦せず」の背景
取材を進める神戸支局の神田貴央記者が、知事選をめぐるポイントを解説します。
一連の問題をめぐっては、職員への“パワハラ”だけでなく、去年の阪神・オリックスの優勝パレードの“資金還流”など、様々な疑惑が告発されました。
斎藤前知事は「合理的な指摘、必要な指導だった」「告発文は誹謗中傷性が高く適切な対応だった」との主張を繰り返しましたが、県議会の全会派・全議員が不信任決議案に賛成して可決し、斎藤前知事は9月30日に失職しました。一連の疑惑への検証については、百条委員会や第三者委員会で調査が続いています。
県議会としては「不信任決議案」を突きつけたので、「斎藤前知事以外の候補を何としても勝たせたい」というところではあるのですが、前回の知事選で斎藤氏を推薦した「自民」と「維新」は今回、どの候補も推薦をしていません。
中でも、疑惑を追及する百条委員会の設置や不信任決議案の提出を主導した最大会派・自民は、独自候補の擁立を断念し、「斎藤前知事の支援を禁止」という条件付きでの「自主投票」を決めました。
なぜ自民は独自候補を擁立して推薦をできなかったのか、その背景にはまさに「万策尽きた」といった状況がありました。
知事選の構図は前知事に新人6人が対決する状況になっていますが、いわゆる“反斎藤”の立場で、早くからいろいろな候補が立候補を表明していました。
その状況下で、自民が知名度・実力が中途半端な候補を立たせてしまうと、“反斎藤”の票が分散をしてしまう、その結果、共倒れとなって斎藤前知事が勝利してしまうのではないか、という懸念がありました。
さらに、最大会派である自民の候補が立候補して、仮に落選してしまうと自分たちのメンツも丸潰れとなってしまうということで、独自候補は断念せざるを得なくなったとみられています。
一部の自民県議の中には、稲村氏を支援する動きもありますが、「稲村氏は自分たちとイデオロギーや政策の考え方が違う。そういった方を勝つためだけに支援するのはどうなのか」といった意見もあったということです。
稲村氏は無所属ではあるものの、第4会派である立憲民主系の「ひょうご県民連合」の県議も支援に回っていて、そういった候補が知事になって実績を出してしまうと、次は自分たちの議席も危うくなってしまうのではないかという懸念もあり、兵庫自民としてまとまることができなかったということです。
第3会派の「公明」も、自民と同様、独自候補は擁立せずに自主投票を決めています。
一方、第2会派の「維新」は、参院議員だった清水氏に出馬を打診して候補者として擁立しましたが、清水氏は日本維新の会を離党し、維新としても「公認・推薦は出さない」という決定をしました。
「推薦」と「支援」には大きな違いがあって、党として「推薦」する場合は、表立って候補を全面的に支えるため、他の候補を支援することはできなくなり、場合によってはペナルティが課されることがある、というものです。
「支援」の場合、まさしく“ただの口約束”のようなものですから、「維新」色を薄めることで『票を獲得したい』というような狙いがあるのです。具体的には、「政策が自民と違う稲村氏など他候補を応援しにくい」という方や、「斎藤前知事以外がいいけど、維新という看板は微妙だ」という方たちの票を獲得したいというような思惑があります。
ただ、維新の支援は文字通り“口約束”で、自民のように斎藤氏への支援は禁止をしていません。
それによって、一部では斎藤氏への“隠れ支援”があるのではという懸念も出ています。実際に兵庫県議の一人は、「斎藤氏は実務能力が高く、政策には共感する。本当は支援したいけれども表立ってはできない」いった声も聞かれました。
こういった「本当は斎藤氏を支援したい」といった方に配慮したのではないかという声も県議の中からは聞かれ、維新もまた“一枚岩”になれていない現状を表しています。
県議会で残る会派は共産(2人)と無所属で、共産は唯一、大沢氏への「推薦」を決めましたが、立憲系の「ひょうご県民連合」などと行動を共にすることはできませんでした。
■混迷の知事選…重みを増す「清き1票」
地元の有力者たちにも顔がきく『議員』は選挙戦では重要な存在で、特に自民や公明などは組織戦に長けています。
ところが、今回の選挙では、自民・維新をはじめ、選挙を支える組織がバラバラということは、有権者の『一票の重み』が増すということでもあります。
全国的にも注目が集まる中、17日間にわたる選挙戦の火ぶたが切られましたので、ぜひ兵庫県民の皆さんには、それぞれの候補の主張を聞いて、次の知事候補者への『負託』を行ってほしいと思います。
兵庫県知事選の投開票は11月17日に行われます。
※10月30日放送「かんさい情報ネットten.」の内容をもとに、告示後の取材内容を加筆しています。