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侵攻5か月の裏で進む「ロシア化」(2)  激戦の地・マリウポリのいま

2022年7月28日 17:19
侵攻5か月の裏で進む「ロシア化」(2)  激戦の地・マリウポリのいま
マキシムさん

ロシアによるウクライナ侵攻開始から5か月。いまも激しい戦闘が続く一方、東部や南部ではロシアによる「併合」に向けた動きも出ている。かつて、激しい市街戦が繰り広げられたマリウポリでも、ロシア軍による占領以降、復興も進まない中でじわじわと「ロシア化」の動きが進んでいるという。

■街には「腐敗臭」 水、食料、薬は不足

話を聞いたのは、マリウポリ出身で地元の放送局の記者として働いてきたマキシムさん(33)。激しい攻防で住宅地への被害も広がる中、3月にマリウポリを脱出し、ウクライナ国内の別の町で生活している。記者として、いまのマリウポリの状況を知るため、市内に残る住民とSNSのメッセージ機能などで連絡を取り合い、取材を続ける。

――いまのマリウポリの様子はどうなっていますか?

非常に困難な状況が続いています。状況は、攻撃を受けていた時と変わりません。違いは攻撃されてないということだけで、たとえば(市民が)水をもらいに行った際に、弾薬は飛んできませんが、まだ不発弾がたくさん残っているため、危険なことには変わりありません。

水の確保が大きな問題です。いまは、井戸に行かないと水を得られません。ロシア軍の攻撃によって多くの水道管が破壊されたため、水漏れが発生し、35度~40度という夏の猛烈な暑さによって、水が腐り、不衛生な状況が続いています。

食料も不足しています。ロシアは、プロパガンダのテレビ撮影のためみんなに人道支援を配布しているとアピールしています。しかし、実際は、もらうために長い行列に並ばなければなりません。もらっても量がとても少なく、もらえない人もいます。

薬不足も深刻です。侵攻前は24時間営業の薬局などもありましたが、いまは、国際的には認可されていない薬が並んでいるといいます。私の情報源から聞いた話では、(糖尿病などの治療に必要な)インスリンが不足しているため、足を切断せざるを得なかった、という事例もあったということです。

さらに、マリウポリでは、ロシア軍によって破壊された建物の中に多くの遺体が残っています。暑い中で遺体の腐敗が進み、不衛生な状況です。市民の話によると、街を歩く際に強い腐敗臭しているといいます。街には「死」の臭いが漂っています。中央部にあった百貨店の場所に遺体安置所を設置されましたが、射撃場などに遺棄されているものもあります。恐ろしい状況です。

■ウクライナ語は禁止…教育の中で進む「ロシア化」

3か月近くにわたり激しい戦闘が続き、その後も劣悪な環境となったマリウポリ。ロイター通信によると、かつては人口43万人だった都市からは多くの人が市外に逃れ、いまは数万人になっているという。こうした中で、子どもたちの教育がどうなっているのか聞くと、見えてきたのは「教育の中でのロシア化」だった。

――子どもたちの教育はどうなっていますか?

多くの学校は侵略者によって破壊されました。被害の少ない学校で教室が残っている場所では、侵略者が「教育活動」をさせています。食堂がないため、子供たちのためにマリウポリ市民が給食を屋外で作っています。

戦闘の経験は、マリウポリの子どもたちの幼少期を奪いました。子どもが放課後に、アスファルトにクレヨンで描いた絵を見せてもらったら、ミサイルが家に落ちる様子や死体が描かれていました。これが、いまの子どもたちの実情です。

「教育活動」の流れは、まず、ロシアから教科書を搬入することから始まりました。ウクライナの教科書や図書館の本は捨てられたり、燃やされたりしました。一番恐ろしいことは、ウクライナ人の子供に対して、幼い頃から「我々(ウクライナ人)が悪い」とロシアの「物語」(プロパガンダ)を注入していることです。「教育活動」はロシア語で行われ、ウクライナ語は禁止です。ウクライナ語で会話することさえ禁じられていると言います。

さらに深刻なのは、インターネット環境。多くの人が情報にアクセスできず、「情報の空洞」が生まれていると話す。

――マリウポリに残る人々はどのようにニュースを得ますか?

まず、多くの場所で電気がない状態で、テレビを見られない生活を送っています。ウクライナのテレビだけではなく、ロシアのテレビさえも見られない状態です。そのため、彼ら(ロシア側)が見つけた方法が、数台のトラックにテレビをつけて搬入することでした。多くの市民が集中しているところへ移動させて、プーチン大統領の演説や歴史的なシーンを流したり、「マリウポリは暮らしやすい街だ」という内容の映像などが流れています。

場所によっては、Wi-Fiを拾ってインターネットを見られます。ただ、ネットにつながれば、ニュースを見るよりも家族や友人に連絡することが最優先で、あまり外の情報にはアクセスできていないと言います。それもほんの一部の地域のため、街ではまだ「情報の空洞」の状態が続いています。

嘘の情報も多く出回っています。私が連絡を取っている人物は、マリウポリから脱出したがっていますが、「マリウポリから来た人はウクライナでは裏切り者と見なされ刑務所に行かなければいけない」「(ウクライナ側の)検問所を通ると、男性はそのままウクライナ軍に入れられる」などとまわりから言われたということです。中には「キーウもすでに占領されている」という偽情報も出ていたそうです。

■「故郷に役立つため」伝え続ける

元々、「ドンバス24」というテレビ局の記者やキャスターとして働いてきたマキシムさん。いまは、同僚たちとともに別の街に移り活動を続けている。

――いまはどんな活動をしていますか?

ドネツク州のウクライナが支配する地域に住み続けている民間人や脱出して別の地域に住む人向けに番組を放送し、YouTubeでも発信しています。一般的なニュースのほかに、別の地域や国外に住む人に向けて、生活の役に立つ情報を発信しています。

ロシアに占領された地域に住んでいる民間人にも見てもらいたいですが、現地ではウクライナのテレビを見ることができません。ネットの接続が悪いため、見ることは難しいですが、故郷の役に立ちたいと思っています。

――今後、マリウポリに戻りたいですか?

もちろん戻りたいと思います。最後まで離れたくなかったですが、住宅が破壊される様子を見て、3月に母を説得して脱出しました。

戻るなら、ウクライナが勝利して奪還してからです。現時点では、生活できるような環境ではありません。水道、電気やガスなどが修復できていません。いつかマリウポリに戻って、再建活動の役に立ちたいです。そのためには、ウクライナだけでなく、国際的なパートナーの力も必要です。いつか必ず戻ると信じています。

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