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“為替相場を動かしたい”日銀10年前の記録

2023年2月1日 20:25
“為替相場を動かしたい”日銀10年前の記録

記録的な円安の元凶として一部から批判を買ってきた日銀の金融政策。日本銀行の黒田総裁は「日銀は為替を上下させる権限を持っていない」などと繰り返してきたが、少なくとも1月31日に公開された10年前の議事録からは、当時の日銀の最高意思決定機関(政策委員会)の複数のメンバーが、金融政策で為替を円安方向に動かすことが重要だと考えていたことがわかった。

「金融政策で為替市場に働きかける」

日本銀行の10年前の142ページに及ぶ議事録が公開された。当時は1ドル=80円台前半で、円高は経済界から“日本企業が抱える六重苦”の一つとして問題視されていた。こうした中、2012年12月に開かれた金融政策決定会合では、“為替相場が円安に動くよう働きかけるにはどのような金融政策が必要か、考えていきたい”といった主旨の意見が、1人からだけでなく複数から出ていたことがわかった。

発言は、日銀の最高意思決定機関「政策委員会」の9人の委員(当時)の中から複数からあがった。

まず1人目、佐藤健裕氏の発言。「国内経済は現状弱含み」という中で、「現状の円相場の水準に満足することなく、金融政策の枠内で為替市場にどのように働きかけることができるかという観点から必要な政策を考えたい」。

2人目、木内登英氏。「長めの国債利回りの引き下げが為替市場や資産市場に好影響を与え、それを通じて政策効果が高まるといった点も期待」。

3人目、白井さゆり氏。「米国の金利が日本を下回る逆金利差となっている状況を緩和し(略)為替チャネルも意識して可能な限り働きかけたい」。

4人目、西村清彦副総裁(当時)。「直接に為替市場、特に海外からの市場参加者の認識を変える形で金融緩和の実を挙げていく方策を考えるべき時期になっている」。

「発言が頑なだった黒田総裁」

2022年、円安が進行して以来、日銀の黒田総裁は“円安対策”などについて会見で聞かれるたび、「急激な為替変動は経済、物価に影響するため注視」するものの、“為替は日銀の所管ではない”というスタンスを強調してきた。

2022年3月18日の会見で、“円安が日本経済に与えるマイナスの影響が大きいとなった場合に、日銀がそれに対してできること、すべきこと”について聞かれた際の答えは、以下だった。

「為替政策は財務省の権限であり責任であり、日銀が為替を上下させるような政策を採る必要もないし、権限もありません」。

(2022年6月17日・会見)
「為替は様々な要因によって動きます。その為替について、中央銀行が為替をターゲットにして金融政策を運営するということはないわけであり、あくまでも物価の安定を目標にして金融政策を運営するということに尽きるわけです」。

議事録でわかったこと──黒田氏が総裁に就任する前の日銀であり、円安是正ではなく円高是正が課題だったにしても──金融のプロたちが金融政策で為替市場に働きかけることを選択肢としていたことを知ると、黒田総裁の会見での対応は、発言が間違っているわけではないとしても、企業や個人のマインドに働きかけて経済を好転させるようなコミュニケーションがとれていなかったのではないだろうか。

新たな体制のスタートにあたって、今までの課題の検証が必須だ。