【解説】日銀“現状維持”で円下落 “物価上昇率に大きな影響なし”? 「円安」によるデメリットとは 日本経済に警鐘も…
日本銀行は、金融政策決定会合で、現在の政策金利を据え置くことを決めました。日銀の発表を受け、「円安」が加速し、円相場は1ドル=156円台後半まで下落しました。歴史的な円安は、家計や中小企業を圧迫していますが、植田総裁は、いまの「円安」は基調的な物価上昇率に大きな影響は与えていないとの見解を示しました。
日本テレビ 経済部・日銀担当キャップの渡邊翔記者が、「円安」に関する次の3つの疑問点について、詳しく解説します。
●日銀の決定で為替は?
●家計の負担10万円増?
●日本経済に恩恵なし?
鈴江奈々キャスター
「まずは現在の円相場を見てみますと、現在1ドル=156円71銭と、156円台後半となっています。25日よりも『円安』が進んでいますが、これは、日銀の決定、そして植田総裁の発言によって『円安』が進んでいるということなんでしょうか?」
日本テレビ 経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「そうですね。端的に言うと、日銀の政策が何も変わらなかったから『円安』がさらに進んだということなんです。
たとえば、金利を上げるかどうかなど、『ここが変われば、「円安」に歯止めがかかるかもしれない』という政策のポイントが、いくつかありましたが、いずれも変更がありませんでした。
また、円安が物価高にどう影響するかについても、きょう(26日)は『上振れ・下振れ、両方の要因となる』と。つまり、現時点では、物価高がさらに進むかどうか見極める姿勢を示しました」
経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「植田総裁は会見で、『円安によって物価が予想以上に上がっていけば、政策変更(=金利をあげる)の理由になる』としました。金利を上げれば、理論上は円高に進む要因になります。
一方で、きょう(26日)の(金融政策)決定会合の議論では、現状では、円安が『基調的な物価上昇率…つまり、一時的ではなくて本質的に物価が上がっていく、そういう大きな影響はないと、みなさん判断した』というふうに説明していました」
鈴江キャスター
「そして、2つめのギモンは、『家計の負担10万円増?』ということで、家計全体にも、10万円も負担が増えている、ということなんでしょうか?」
経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「そうなんです。シンクタンクが少し前に、『(当時の水準である)1ドル=154円の水準が続き、(これに)加えて、上昇が続いている原油価格もいまの状態が続く』と仮定して推計しました。
これは2人以上の世帯の全体平均で、前の年に比べて今年度は、食費で言うと4万3000円、エネルギー費が3万8000円ほど増え、総額10万8000円あまり増えると推計しています」(※みずほリサーチ&テクノロジーズによる)
経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「経済団体のトップからは26日、好調な賃上げの効果がなくなることへの懸念の声も出ています」
経済同友会 新浪代表幹事
「一番重要なのは、実質賃金がいかになっていくか、と。6月あたりは、すごくいいタイミングになってくるのでは、つまり実質賃金がプラスになってくる可能性がすごくあるなと、こういう期待があったんですが、この円安によってクエスチョンマークがついてきた」
鈴江キャスター
「『クエスチョンマークがついてきた』ということで、賃上げがあったとしても、円安や物価高で生活は苦しい状態が続く懸念があるということなんですね」
鈴江キャスター
「3つめのギモンは『日本経済に恩恵なし?』ですが、これはどういうことなんでしょうか?」
経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「実はいま、円安が進んでいることによって、大企業の業績が良くなっています。ただ、その利益が日本国内への投資に返ってこない、という問題が起きているんです。
まず、円安になると円の価値が下がっていくので、海外から見れば、日本の製品は安くなります。なので、製品を輸出する企業や、世界に販売網を持っている大企業にとってはプラスです。実際、海外展開している企業の決算などの業績は、非常に好調です。
ただ、問題は、海外で日本企業が得た利益のうち“半分”が、また海外の事業に投資したり、または海外拠点にとどめおかれたままで、日本国内に戻ってくる利益は半分ほどしかないということなんです」(※財務省による)
経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「どうしてこんな事態になったのかというと、日本の大企業がどんどん『海外で稼ぐ』構造が定着してしまったからです。
自動車メーカーが、たとえばコストを下げるために生産拠点を海外に移したりする動きが続いてきました。それから、人口が減少するなか、日本の市場がもう大きくならないので、また海外の事業を強化していこうという企業も多いです。
たとえば、コンビニ大手のセブン&アイ・ホールディングスで見てみると、国内コンビニ事業の売上高は9000億円なのに対し、海外コンビニ事業の売上高は8.5兆円もあるんです。セブン&アイは海外での事業を強化していく方針を示しているので、海外で得た利益は、また海外で使われていく、ということになります」
鈴江キャスター
「企業の成長、生き残りをかけてという意味では、海外に出て行くこととは自然な流れかもしれないですが、一方で、円安のメリットがなかなか国内に還元されていない状況ともいえる、ということなんですね?」
経済部・日銀担当キャップ 渡邊翔記者
「そのとおりです。さらに、実はおととい(24日)、経産省の有識者会議が発表した将来の見通しというのがあるのですが、国内に投資が回らず、技術革新が遅れる状況が続いた場合、2040年ごろには日本が『新興国に追いつかれて、海外より豊かでなくなる』、『世界と勝負できなくなるおそれがある』とまで警鐘を鳴らしているんです。
さらに専門家からは、生産や投資が海外でばかりになってしまうということは、国として重要な『人材』の育成も、国内で細ってしまっていることだ、という危機感も出ています。
海外の利益を、日本国内の産業を強化するための投資や、技術革新のための投資に振り向けないと、「円安」のデメリットばかり目立って、国の力も落ちる一方となってしまうかもしれない、ということで、政府・日銀、そして企業も、あらためて、こうした危機感をもって、いまの「円安」に対応するべきなのかもしれません」