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【話題】映画『コーダ あいのうた』 監督がこだわる“スターを起用しない”意味

2022年1月25日 22:40
【話題】映画『コーダ あいのうた』 監督がこだわる“スターを起用しない”意味
絶賛する人が続出…映画『コーダ あいのうた』 (c) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

21日から公開されている映画『コーダ あいのうた』(PG12 配給:ギャガGAGA)。SNSでは鑑賞した人が「万人におすすめできる傑作」「めっちゃ泣いた」など、絶賛するコメントが多く寄せられています。この作品はサンダンス映画祭で史上最多の4冠を獲得、配給権が映画祭の史上最高額となる約26億円で落札されました。さらにゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)にノミネートなど高く評価され、アカデミー賞でも有力視される作品のひとつです。この記事では俳優たちにフォーカスを当てました。

タイトルの「コーダ(CODA)」とは、「Child of Deaf Adults」=“聴覚障害者の親がいる子供”という言葉の頭文字をとったもの。物語の主人公である高校生のルビーは、父親のフランク・母親のジャッキー・兄のレオと小さな海の町で4人で暮らしています。ルビー以外の父・母・兄は聴覚に障害があるため、唯一耳が聞こえるルビーが“通訳係”として家業である漁業を手伝っています。

そんなルビーに転機が訪れます。学校で憧れの生徒と同じ合唱クラブを選ぶと、顧問の先生から歌の才能を見いだされ都会の名門音楽大学を受験するよう勧められます。しかし両親は歌声が聞こえないためルビーの才能を認めることができません。家族にとっては家業が大事であり、“通訳係”のルビーを失うことを恐れ進学に猛反対します。ルビーは夢を選ぶか家族を選ぶか…苦悩します。

■監督がこだわったキャスティング “耳の聞こえない人の役は耳の聞こえない俳優に”

この映画の特徴の1つが、“ろう者の役をろう者の俳優が演じている”こと。父親・母親・兄は全員、耳の聞こえない俳優たちです。そのキャスティングにこだわったのは、シアン・ヘダー監督(44)。監督は「最初から耳の聞こえる俳優を雇う気はありませんでした。正直、前からそういった考えに嫌気がさしていました。映画を作るときはスターを起用しなければならない、スターをたくさん雇わなければならないという古い固定概念があります。でも今は時代が変わって、そういう考え自体もってのほかだと考えられるようになりました。私は真実味のある物語を作りたかったので、スターを起用することは考えていませんでした」と考えを明かしています。

さらに監督は脚本に書いたセリフを手話で表現するために、“手話を監修する監督”としてアレクサンドリア・ウェイルズさんを迎えいれました。監督は自身で手話を取得し、耳の聞こえる人たちも含め現場では手話で会話をしていたといいます。

父親を演じたトロイ・コッツァーさん(53)は聴覚障害がある俳優のひとり。監督の印象について「私はこれまでに色々な作品に出演しましたが、通訳なしで会話できるようになるために手話を積極的に習う監督は滅多にいません。もしいい監督になりたいのであれば、作品の中で描く文化に積極的に関わらなければなりません。その文化がどんなものなのかを理解する必要があります。シアン監督が通訳を介さずに、私たちと直接コミュニケーションを取れたことはとてもうれしかったです。彼女のように学ぶ意欲のある監督が、もっとたくさんいたら素晴らしいと思います」と賞賛しています。

■先駆者が作品で伝える“エンターテインメント業界の人々の多くが目を覚ますと思う”

母親役を演じたマーリー・マトリンさん(56)は映画『愛は静けさの中に』で1987年にアカデミー賞主演女優賞を受賞し、耳に障害がある俳優として“先駆者”といえる人の1人です。

マーリーさんは作品を見る人たちに「この映画はろう者のコミュニティーを知るきっかけになると思います。世界中のろう者の人たちの存在を知り、彼らの声に耳を傾ける良い機会だと思います。私たちは聞こえないからといってすべてをあきらめるわけではありません。私たちだって実際にこうやって生きているんだという事実を知ってもらえたらいい。世界中に、難聴者やろう者はたくさんいます。この映画を見た人が、“ろう者である俳優がろう者を演じ、ろう者のために美しい手話を使って、音のない世界を伝えようとしている!”と思ってもらえたら、俳優としてこれほどうれしいことはありません」とメッセージを伝えています。

世界でヒットしたホラー映画『クワイエット・プレイス』(2018)でも、聴覚障害のある役を当事者が演じるなど、世界で広がる“当事者を起用する”ということ。

マーリーさんは「耳の聞こえない俳優、監督、脚本家、メイクアップアーティスト、衣装デザイナー、裏方のスタッフの多くが、今までずっと映画業界に入ろうと必死に戦ってきました。この映画が公開されれば、エンターテインメント業界の人々の多くが目を覚ますと思います。この映画の中には本当に耳の聞こえない人たちが出演しているんだ、だから真実味があるんだ、彼らはこの作品に不可欠なんだ、と感じてくれるはずです」と話し、「映画であれ舞台であれテレビであれ、ろう者の人たちにもっと仕事が来ることを願っています」と業界への期待を明かしています。