堀ちえみ 57歳 舌がん手術から約5年 これまで「痛みがつきものの人生」 【菅谷大介、がんを知る】シリーズ 第4回
■「口内炎だと思いこんでいた」
菅谷:“がん”と言われた経緯は?
堀:(がんと診断される)8か月前に点みたいなのができていて、私の場合は口内炎だと思い込んでいて。周りに口くうがん(の人)が誰もいなかった。でも痛いからあちこち病院に診てもらったけれども、結果は“口内炎”。なかなか分かりづらい、判別がつきづらいのがこのがんの特徴で。
堀さんは、痛みが原因で、食べられない、飲めない日々のなか、最後は眠れなくなってしまい、病院で再び診察。診断は“舌がん”でその時点でステージ4、リンパ節への転移も見つかりました。舌の違和感があってから、すでに8か月の歳月が過ぎていたといいます。
■これまで痛みがつきものの人生…娘からは「生きてほしい」
菅谷:当時のブログをみるとネガティブな、“治療しなくてもいいのかなっていうふうに思った”など書かれているじゃないですか。あれも正直な気持ちだと思います。
堀:その前にもいろんな病気を経験して。“特発性重症急性すい炎”になった時も、3日が山だったし、“リウマチ”も持っていたし。そういう事を考えたら、痛みがつきものの人生だったので、もうこれ以上手術っていう方法を選んで痛い思いしたくないなって。
人生を振り返り“幸せだったな”“もういいかなって”と、全てを手放す気持ちになっていた堀さん。しかし、娘に言われた言葉で心境に変化があったといいます。
堀:一番末の娘に(病気の)告知を受けた内容を話したら、もうわんわん泣いて。「生きてほしい。また痛い思いするかもしれないけど、耐えてほしい。私まだ16歳で、16年間しかお母さんと一緒にいられなかったことになるんだよ」と言われて。“あぁ、そうか”ってふと思って。命って家族を持った以上は、自分ひとりのものではない。だからこの子のためにも、主人のためにも、他の子のためにも私は生きないとって思い、手術の方向でいこうと思いました。
■舌の6割以上を切除 話せるようになるまで
家族のサポートもあり、手術は成功。しかし舌の6割以上を切除し、太ももの組織から舌を再建。新しい舌では、今まで通りに発音することができなかったそうです。
菅谷:発声練習されている映像は見たんですけど、それこそ「あ・え・い・う・え・お・あ・お」から始めてくじゃないですか。
堀:もう言葉は分かってますよね。分かっている言葉に届かないっていうもどかしさ。「あいうえお」は唇だけでなんとかなる。でも「か」は、舌が上に持ち上がっちゃうんで、抑えようと思っても下あごに収まってくれない時には、舌が邪魔して「か」って言えない。でも、母音と子音に分けて「か」という練習をして、母音にくっつけて「かぁー」と。「き」だけでも何百回じゃきかないんじゃないかなってくらい。
ひとつの音から単語へそして文章にと、時間をかけて何回も練習することで、“話すこと”ができるようになっていったといいます。
■これでよかったと思えた“子どもたちの会話”
厳しい発音の練習を続け去年2月、家族の後押しでコンサートを開催し、ライブ活動を再開しました。舌がんからの復帰に家族はとても喜んでいたといいます。
菅谷:一番印象に残っている言葉はありますか?
堀:(ライブを終えて)家に戻ったら、家族がテンションが高いわけで。特に下の娘がすごくテンションが高くて。「ファンのみなさんの顔を見てたお母さんの顔、すごくうれしそうで。よかったよね歌ってきて。今日私もすごくうれしかった」ってうれしそうで。なんでこんなにうれしそうなんだろうって思ったら、長男がライブを見に大阪から帰ってきてくれていて、「そうやな、あの時に手術を選んでよかったな。あの手術がなかったら、おかんはおらんかったし。これでよかったんや」っていう言葉を(長男が)娘にかけて。娘がうれしそうに「そうだねお兄ちゃん」っていうやりとりを見た。
堀:私が家族に接してきたことってすごく無神経だったなって思ったっていうか。家族は家族で当事者と違う観点で、非常に悩んで支えてきたんだと。そう思うと、これから先も頑張って前向きに、もっともっと前向きに生きていかないといけないなと思ったのと、生きてよかったな、これでよかったんだっていうふうにやっと思えた。
菅谷:今の堀さんの心境伺わせていただいて、(完治している堀さんは)僕の3年後でもあるので。ぜひまたいろいろな事を教えていただきたいと思います。またお互いにいろいろ前を向いて頑張っていきましょう!
堀:ですよね。私も次もし(病気が)見つかっても、早く今度は見つけられると思うし。見つけたらもう治療すればいいんだっていう気持ちで。ふわっと生きていきます。
■菅谷アナの取材後記 “生きざま”に感化されている人も、たくさん…「私も、その一人」
発声・発音は、“滑舌”の言葉通り、舌の滑らかな動きがとても重要です。
口の形、舌の位置、舌の動き、それに伴う息の流れ。
それらを駆使して、発声発音をしていくので、
それを意識しながら、私は滑舌練習をしています。
舌がんによって、舌を切除した堀ちえみさん。
私が滑舌練習をしていても、舌を思うように動かすことができず、
もどかしく思うときは多々あるのですが、
さらに動かしづらい状況の中で、
一つ一つの音を作り、そこから言葉を作り、文章を作る、という作業は、
しかも、ライブで歌を歌うというのは、
並大抵の努力ではなかったと思います。
その姿は、もしかしたら、遅々としたものだったかもしれません。
でも、家族の支えを受けながら、確実に前を向き、小さな一歩でも先へと進む。
それが結実したのが、先日のライブだったのだと思います。
かつて、堀ちえみさんが主演したドラマ『スチュワーデス物語』を見て、
感化された人は、たくさんいらっしゃると思いますが、
今、堀ちえみさんの“生きざま”を見て、
感化されている人も、たくさんいらっしゃると思います。
私も、その一人です。