都市空間におけるリアル×バーチャルの可能性【SENSORS】
リアルとバーチャルの境界が曖昧になりつつある現代。エンタメ領域における変革の可能性は無限大とも言えるだろう。2023年10月6日、東京・虎ノ門に最新テクノロジーやエンターテインメント、文化・芸術などの新たな情報発信の場「TOKYO NODE」が開業した。都市を舞台にリアルとバーチャルを掛け合わせた新たなエンタメの可能性とは。都市を起点に、新たなエンタメに挑戦する起業家やクリエイターたちに話を聞いた。
■バーチャル世界が中心のエンタメ
きゃりーぱみゅぱみゅさんらが所属するアソビシステム代表の中川悠介さんは、リアルとバーチャルは、相互にいい影響を与える実感を持ち始めているという。
「以前は、リアルとバーチャルが対立しているようにも感じていました。でも、実際はお互いにプロモーション効果があり、双方に良いことをもたらすとわかってきました。うちのアーティストでも、中田ヤスタカ率いる音楽ユニット『CAPSULE』は、バーチャル空間を中心に活動を展開しています。先日もVRChat(VRプラットフォーム)上でライブをしました」
CAPSULEの取り組みに「希望を感じる」と述べるのは、ストーリーレーベルとして演劇など、さまざまな物語を企画・制作するノーミーツの広屋佑規さんだ。
「コロナが明けてリアルの良さが再認識されていますが、バーチャル領域での取り組みも大事です。たとえば、芝居のオンライン配信をはじめ、バーチャルコンテンツは、『場所性』が良い意味で失われることで、より多くの方に見てもらえます。多くの人に届くのは本当に大事で、日頃からバーチャルとリアルをいかに共存させるかについて考えている身としては、CAPSULEさんのようなメジャーアーティストが、バーチャルを中心に活動を展開されているのは大きな希望です」
■制約を超えたエンタメの新たな可能性
さらに、中川さんは、メタバースやデジタルツイン(オンライン上に現実空間を再現したもの)の技術は今こそやるべきとも考えていて、「初めはテクノロジーや技術が素晴らしいことが伝わりますが、その次に僕たちみたいなコンテンツホルダーが、分かりやすいコンテンツを提供していくことが、大切です」と話す。
虎ノ門エリアのデジタルツイン構想を推進してきた株式会社バスキュール代表の朴正義さんは、テクノロジー活用で新たなコンテンツ価値を生み出す可能性に期待する。
「テクノロジー活用によって近い将来、物理的制約や、言語の制約も超えられるかもしれません。それによって、新たな価値あるコンテンツが生まれる可能性があります。また、既存の拠点・空間ではコラボレーション事例のなかった人同士が、新たなチャレンジをしようと一歩踏み込む。『TOKYO NODE』はまさに、そのような人が集まる場になってほしいと思っています」
■ リアルもオンラインも融合 新たな参加体験
「TOKYO NODE」の企画を担当する森ビル株式会社の杉山央さんは、リアルとバーチャルを組み合わせることは、「見る側」にとっても新しい体験を生み出すと期待する。
「誰と一緒にコンテンツを見るかによって、楽しさは変わりますよね。虎ノ門でデジタルツインが構築されたら、スポーツ観戦でも、音楽ライブでも、リアルの観客とバーチャル上の観客が混じり合うことができます。たとえば、離れたところにいるおじいちゃんとお孫さんが一緒にこの街を舞台に何かできるようになる。そういう混じり合いがあると、コンテンツを見る側にとっても面白いのではないかと思います」
■ ニッチトレンドをメジャーに押し上げる効果...リアルな場所の価値
最新テクノロジーを活用したさまざまなプロジェクトのコンサルティングを手掛けるHEART CATCH代表の西村 真里子さんは、リアルな空間が、ニッチなトレンドをメジャーに押し上げる効果にも注目する。
「多様な価値観が受け入れられるいまの時代、ニッチなトレンドがさまざまに起きていますが、どうやったらメジャーに押し上げられるかを考える必要があります。たとえば、虎ノ門という街は、すでにステータスが確立されていると思いますが、こういう場所がニッチ領域のコンテンツや挑戦を受け入れて、大きなトレンドに持っていくような取り組みをすると、世界的に注目を集められるかもしれません」
杉山さんも同意する。
「ニッチ領域もたぶん、世界中を探せば、その裏側に多くの人がいると思うんですね。そういったものが虎ノ門で発表されることによって、同じ興味関心を持つ人がつながっていくような仕組みができると、まさに都市の多様性を表現する上でも、非常に良い気がします。ぜひとも、虎ノ門をそのようなステージにしたいです」
■権利を守る時代から使う時代に
リアルとの融合により、バーチャルコンテンツに新たな価値が生まれていく。さらに、中川さんは、これからのエンタメの世界は「権利を使って稼ぐ時代になる」と想像をふくらませる。
「エンタメ業界にいる中で、いままで日本では、コンテンツホルダーが権利を守ることでみんながご飯を食べてきたと感じます。これからは、権利を色々な人に使ってもらうことで、利用した人も、コンテンツホルダーも稼ぐような時代になると思います。そういう中で、『TOKYO NODE』のような壮大な実験場ができることに、大きな可能性を感じます。大企業やテクノロジーを持った企業は壮大な実験をしたくてこういう場所をつくり、その実験にはコンテンツが必要。僕たちは、その壮大な実験のコンテンツ側として一緒に組めたら面白いと感じています」
リアルとバーチャルの融合、Web3やNFTなどエンターテインメント領域へのテクノロジーの活用。そして、場所や言語の境界を超える新たな価値を持ったコンテンツ誕生への期待。今後のエンタメ領域では、“これまでにない体験”が生まれ、そこから新しいビジネスにもつながるのかもしれない。