異色の社長、“松竹”復活への軌跡 2
松竹株式会社社長の迫本淳一氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「松竹創業以来の経営危機 脱出のカギは?」。経営を立て直すために迫本氏が行った“3つのキーワード”に迫る。
■経営立て直しのための“3つの柱”
――松竹では、まず何から始められたのでしょうか?
企業でも国でも立て直しって同じだと思うんですけども、「有利子負債の削減」と「不良資産の償却」、「収益力を上げる」という3つだと思うんですよね。
「有利子負債の削減」も当時、連結の売り上げの倍くらいありました。これと、1年半で800億円を処理したんですけども、まず「不良資産の償却」を早急にやらなければいけないということで、そこから手をつけ始めました。
――1年半で800億円はすごいですね。また次の段階の「収益力を上げる」、つまりもうかるための仕組みは、どのようにお考えになったのでしょうか?
最初の頃は洋画が好調だったので、それが収益力を支えていました。今の時代は、ネットである種“生産者”と“消費者”が直結して、間に介在するものが排除されるというような、革命的なことが起こっていると思うんです。
それはコンテンツでも同様です。色んなルートを使って消費者の方にお届けできるので、我々はコンテンツの制作力を強化しようと。
しかし、映画にしても演劇にしてもリスクのボラティリティが高い。かといって、やめてしまうと続かなくなりますので、継続したモノ作りをやっていかないと強いチームは作れない。
そういう意味で、歌舞伎座のところにオフィスビルをつくって、安定収益で継続したモノ作りをするようになった。それが今の段階です。
次の段階としては、例えば歌舞伎とか他の方にはつくれないようなものを松竹がつくって、それをどう展開していくか。ですから、コンテンツ制作の深掘りと展開という分野の人材育成が今の松竹の課題だと思っています。
■社内イベントでチーム力を
――人材の育成というと、ちょうど3年前に松竹が120周年を迎えたときにも、社内の人向けの色んな施策を講じられました。
対外的にももちろんですが、まず社内がしっかりしたチームにならなければいけないので、“松竹フェス・会社はつらいよ”というタイトルでイベントをやっています。このタイトルで盛り上がるのかどうかわからないですけども(笑)。みんなチームに分けて運動会をします。
――どういったことをなさったんですか?
ちょうど「超高速!参勤交代」という映画が出ていたので、それを模してみんなで一緒に籠を運んで速さを競いました。
――そういったところで、社員のやる気を出すと。
これでやる気が出るかわからないですけど、少なくとも今まで交わったことのない人たちが、交わっていくことは重要と思います。
■良い人材は「志×実現力」
――社長が考える人材育成のコツとはどういうものでしょうか?
これは本当に難しいと思います。亡くなられたリクルートの創業者・江副さんと2人で食事させていただいたことがあって、クリエーティブ人材をどうやって育てるのかをうかがったことがあるんですけれども、「クリエーティブな人材は育てられない。育ってくるのを待つしかない」と答えられたんですよね。
その通りだと思うところもあるので、クリエーティブな人材が育つような場を提供し続ける。プロデューサー人材とマネジメント人材は育成できると思うので、そういう人たちに経験を積ませて人材を育て、クリエーティブの人たちの活躍の場をつくっていくということじゃないかなと思っています。
――社長の考える良い人材とは?
ともかく、志を持たないと始まらないので、まず高い志を持つ。それから実現力があることが重要です。変なアイデアでも良い実現力があればうまくいっちゃう場合もあるし、すばらしいひらめきがあっても、実現しなくてショボショボの結果になっちゃう場合もあるので。
私もどちらかというと、ひらめいてすぐ動くタイプなんですけれども、継続的に緻密にやることに欠けるものですから、実現力のある人たちに支えられてきたなという思いがすごくあります。