GoToトラベルめぐる5日間の軌跡
新型コロナウイルスの感染拡大がとまらないなか、政府は11月20日の分科会で、専門家らによる提言を受け、急きょGoToトラベル事業の運用見直しを発表した。札幌市と大阪市を目的地とする旅行を一時対象外にすると発表したのは24日。その間、政府、自治体そして専門家の間に何があったのか。5日間の軌跡を追った。
【11月20日】GoToトラベル“ズレが生じた”
11月に入り「第3波」ともいえる新型コロナウイルスの大きな感染の波がまた日本を襲った。7月以降、GoToトラベルやGoToイートなど、政府による需要喚起策が盛んに実施され、まさに感染対策と経済活動の両立を目指すなかでの出来事だった。
政府は当初、GoToトラベルによる感染者が少ないことを挙げ、「GoToトラベルが感染拡大の要因である証拠=エビデンスは現在のところない」と一貫して事業を継続する方針だった。この当時のことを関係者は、総理肝入りの政策を止めるつもりはなかったと振り返る。
しかし20日に事態が変わる。政府の分科会で専門家らが、「感染拡大には色々な要素があるが、その一つが間違いなく人の動き」との見解を発表。感染が拡大している地域でのGoToトラベルの一時停止を求めるよう提言があった。専門家と政府の考えにズレが生じていたのだ。
ある政府関係者は、「尾身先生とはいつも連絡をとっているんだから、うまく調整するべきだった」と苦言を呈した。
【11月21日】見直しめぐり“バッテンついた”
提言を受けた翌日、政府は対策本部を開く。感染が拡大している地域でのGoToトラベルの運用について、感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約一時停止などを正式に決定した。
ただ、開始時期や対象地域について問われた西村経済再生担当大臣は、「具体的な制度設計は、観光庁で急いでいる」と話すにとどまった。
この西村大臣の発言についてある政府関係者からは、「あれにはさすがに総理も怒っていた。何も決まっていないというなんて、政府が後手に回っている印象を与える」との声があがる。
また、ほかの政府関係者も「今回の対応をめぐって、総理からバッテンがついちゃった」と話す。結局、詳細が決まらないまま3連休に入る。京都や箱根など観光地は大勢の人で賑わった。
【11月24日】対象地域“勘違いしていた”
連休が明けた24日。事態がようやく動き出す。北海道知事と大阪府知事と協議し、札幌市と大阪市を目的地とする旅行を、GoToトラベルの対象から一時除外することを決めた。なぜ対象地域を決めるのに時間がかかったのか? 政府関係者は、「西村大臣は、鈴木知事とも話していたから、札幌を除外するのは簡単に合意してもらえると勘違いしていた。しかし、説得に時間がかかり、みっともないことになった」と話した。
「日ごろから知事らとは緊密に連携をとっている」と話す西村大臣だが、その対応には政府からも疑問の声があがっている。
さらに見直しの対象になっていない東京都とは、政府は「自治体が判断すべき」、東京都は「国が判断すべき」と、判断の主体をめぐって対立した。
その理由についてある政府関係者は、「総理は東京を外したくない。『GoToトラベル』が失策だったという証明になってしまうから」と話す。
こうしたやりとりが国民の視線と程遠いところで交わされていた。分科会のメンバーからは、「一部地域の医療提供体制は既にひっ迫している」「この政府の対応だと間に合わない」と切実な声もあがっていた。
【11月25日】3週間の勝負
西村大臣は会見で、「この3週間が勝負。緊急事態宣言が視野に入るような局面にならないよう今の段階で抑えていく」と話した。
政府と自治体と専門家が連携して感染拡大を抑えられるのか、手腕が問われる。