Z世代女性のアパレルブランドがなぜ人気?
「ショーツの締め付けで体がかゆくなる」「“プチプラ”の服、着なくなったらどうすれば…」。ファッションを楽しむ中で抱くちょっとした不満。そんな思いに応えるアパレルブランドを立ち上げた、Z世代の実業家2人を取材しました。
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■「ショーツが大きくなったら…」素朴な思いから商品開発
都内の私立大生の江連千佳(えづれ・ちか)さんは、一風変わったアパレル商品を製造・販売しています。その商品とは、「“おかえり”ショーツ」。じかばきすることを想定したショーツなのですが、形は部屋着のショートパンツのようにゆったりしていて、肌に密着しません。
開発のきっかけは、YouTubeで見かけた広告でした。広告は、「ショーツから毛がはみ出て彼氏に嫌われた」という内容で、脱毛を勧めるものでしたが、江連さんはそれを見て「なんで私たちがショーツにあわせて毛をそらなければいけないんだろう」「ショーツが大きくなったら違うのかな」と考え始めたといいます。
それから、女性たちにショーツに関する悩みを聞いてみると、蒸れやかゆみといった悩みが多く集まり、中には「彼氏のボクサーパンツをはいています」「実は家ではノーパンなんです」といった声も聞かれました。
ヒアリングによって「女性用ショーツの形は固定観念に縛られている」と気づいたという江連さん。締め付けのない大きな「“おかえり”ショーツ」を発案してクラウドファンディングを行うと、1か月で72万円もの支援が集まりました。
■高くても20代から支持される「フリーサイズ」の魅力
こうして誕生した「“おかえり”ショーツ」。クラウドファンディングの返礼品としてつくったものから改良を重ね、今年3月からインターネットで販売を開始しています。1枚6500円という価格ですが、ときには在庫が売り切れるほどの人気だといいます。
支持されているのは、女性の快適さをとことん追求したつくりです。たとえば、「フリーサイズ」のみの商品展開。ここにも江連さんの強い思いがありました。
女性たちの中には、生理の前におなかが張ったり、ホルモン周期によって体重が大きく変化する人がいます。そうした体形の変化で女性たちがコンプレックスを感じることがないよう、どんなときもはけるショーツをつくりたいと考えた江連さん。はく人がそれぞれ調整できるようにウエストにはひもを通し、脚やおしりのサイズの変化に対応できるよう、側面にはスリットを入れました。こうして、誰でもはける「フリーサイズ」を実現したのです。
普段、ぴったりしたショーツや体を締め付けるブラジャーを身に着けている女性たちが、家の中では締め付けから解放されてほしいという思いを込めた「“おかえり”ショーツ」。利用者は20代の女性が中心で、中には「買うためにアルバイトを頑張った」という学生もいたということです。
■“プチプラ”だけではファッションを心から楽しめない
支持できる商品にお金を使いたいという感覚は、20代に広がりを見せています。日本大学出身の三和沙友里さんは3年前、大学を卒業した年にアパレルブランド「energy closet」を立ち上げました。コンセプトは、「“服を売らない”アパレルブランド」。一体どういうことなのでしょうか?
三和さんの主な事業は、月に1回開いているポップアップショップ(期間を限定した店)での、洋服の「物々交換」です。ポップアップショップを利用するには、まず、3000円の前売りチケットを購入する必要があります。そして当日、いらない服を3点以上持ってポップアップショップに行くと、店内にある200着以上の中から、好きな服を3点持ち帰ることができるのです。
また、持ち込んだ服はその場で検品され、状態の良いものはすぐに店頭に並びます。そのため、訪れる時間帯によって商品が大きく入れ替わることもポップアップショップの魅力のひとつとなっています。
このポップアップショップ、ときには1日100人もの来店があり、その中心となるのは20代前半の客だといいます。三和さんによると、一番多く聞かれるのは「着なくなった大切なお洋服に居場所があってうれしい」という声だといいます。行き場のない洋服が大量に捨てられていることを問題視しながらも、どうすればいいかわからなかった20代の若者たちにとって、「energy closet」のポップアップショップは、「思いを体現できる場所」になっていると話します。
快適な服を大切に着たい。着なくなった服も捨てたくない。Z世代の思いに応えるアパレルブランドは、ファッションの新たな楽しみ方を提案しています。