×

「教育を」タリバンを前に声を上げた少女

2021年12月30日 17:32

「私たちには教育を受ける権利がある」、イスラム主義勢力タリバンを前に、アフガニスタンの15歳の少女が声を上げました。タリバンが実権を握り、多くの女子生徒が学校に行けない中、少女の勇気ある行動に、世界的な注目が集まっています。
(NNNバンコク支局 平山晃一)

■「学校に行く権利がある」マララさん届けた少女のメッセージ

2021年12月、ノーベル平和賞の受賞者で人権活動家のマララ・ユスフザイさんは、アメリカのブリンケン国務長官と面会した際、あるアフガンの少女の手紙を読み上げ、女子教育への支援を訴えました。

「学校や大学が女子に閉ざされている時間が長ければ長いほど、私たちの未来への希望は失われていきます。女子教育は、平和と安全を築くための強力なツールです。私たちには、学校に行く権利があるのです」

■少女はタリバンを前に、ある驚きの行動に…

この手紙をマララさんに託したのは、アフガン西部ヘラート州に住む、15歳のソトゥーダ・フォロタンさん。日本の高校1年生にあたります。この2か月前、タリバンの当局者ら200人を前に、ある驚きの行動に出ていました。

イスラム教の預言者ムハンマドの誕生日を祝う行事で、詩を朗読する予定だったソトゥーダさん。壇上に上がると突然、こう訴えました。

「ヘラートは知識と文化の街なのに、なぜ女子は学校に行けないのでしょうか? 私たちには教育を受ける権利があります。女子のために、学校の扉を開けてください」

タリバンの旗がたなびく壇上で「学校に戻りたい」と、自らの思いを語ったのです。地元メディアによりますと、彼女の勇気あるスピーチの動画はSNSでも話題となり、タリバンのメンバーの中にも称賛する声があったといいます。

■少女の訴えは、地元政府を動かした

旧政権下では、女子教育を禁じていたタリバン。21年8月に実権を掌握した後は、女子の通学を小学校については認めたものの、中学・高校についてはいまだに認めていません。

教師の母に育てられたソトゥーダさんは、こうした状況の中で、女子のクラスメートの思いも背負い、教育を受ける権利を求めて声を上げたのです。女性初の外務大臣になりたいという夢が、ソトゥーダさんの勇気の源だといいます。

スピーチからおよそ2週間後、ヘラート州では、中学・高校の女子の通学が認められたのです。

■女子教育の再開…教師らによる粘り強い交渉も

学校に戻り、友人らと再会したソトゥーダさん。教室から友人らと共に、マララさんとリモートで会話をする場面もありました。マララさんは自身のツイッターで、この時の会話について「アフガンの未来に希望を持つことができた」と述べています。

タリバン暫定政権が正式に中学・高校の女子生徒の通学を認めていない中、なぜヘラート州は女子教育の再開に踏み切ったのでしょうか。ソトゥーダさんの訴え以外にも、現場の教師や保護者らの取り組みが後押ししたといいます。

AP通信によりますと、ヘラート州では、教師や保護者らが地元のタリバン当局者と粘り強く交渉を続けました。暫定政権の許可なしには再開できないとする地元のタリバン当局者に対し、学校では男女が分離されており、女子には女性教師が教えることや、女子はヒジャブを身に着けることなどを徹底すると訴えたのです。その結果、州独自の判断として、女子の通学が認められました。

ヘラート州以外でも一部の地域で、中学・高校への女子の通学が認められています。しかし、あくまで各地域の独自の判断とみられ、首都カブールなど多くの地域では、女子生徒が学校に行けない状態が続いています。

■貧困や治安の悪化で「教育現場は崩壊」の声

また、国民の多くが日々の食事にも困っている中で、学校に子どもを通わせる余裕のある家庭は多くないのが現状です。「教育現場は崩壊している」カーブルの複数の中学や高校で教師をしている女性は、NNNの取材にこう訴えました。

女性は21年11月から教師の仕事に復帰したものの、学校に通えるはずの男子生徒も、貧困や治安の問題で、およそ2割しか通学できていないといいます。

12月には、教えている男子生徒が通学途中に誘拐され、身代金を要求されるという出来事も。家族が身代金を払い解放されたものの、男子生徒は精神的なショックで学校には戻れず、他の生徒や教師にも動揺が広がっているといいます。

また、いまだ学校に行けない女子生徒らは自宅で自習するしかなく、将来に希望を見いだせない状態だといいます。女性の元には「奨学金をもらって海外で勉強したい」という相談も寄せられています。

■高まる“児童婚”のリスク

さらに深刻な問題もあります。ユニセフ(=国連児童基金)は、「10代の女子たちが学校に戻れない状況が続くと、児童婚のリスクが高まる」と警鐘を鳴らします。

ある学校の教師は、イギリスBBCの取材に対し、「タリバンが実権を握って以降、15歳以下の女子生徒少なくとも3人が結婚を余儀なくされた」と証言しました。女子生徒が学校に行けず、家にいるだけの状況に家族が不満を募らせると、こうした児童婚の増加に拍車がかかるのではないかと危惧していました。

■2022年 女子生徒は学校に戻れるか

タリバンを前に、教育を受ける権利を訴えたソトゥーダさん。イギリス・フィナンシャルタイムズ紙の、21年の「最も影響力がある女性25人」にも選ばれました。

しかしその後、脅迫を受けるなどして、学校に行けない状況に逆戻りしてしまったといいます。「彼女はオリに閉じ込められたカナリアのようだ」父親は、ソトゥーダさんの近況について、地元メディアにこう語っています。

また、一部の中学・高校では、女子生徒の通学を再開できても、説明もなく再び禁止されたり、タリバンの戦闘員が通学途中に女子生徒の服装を確認したりするため、多くの女子生徒が恐怖から登校をやめてしまったケースもあるといいます。

タリバン暫定政権は、22年に新たな教育政策が承認されるまで、女子生徒が中学・高校に通うことは許可しないとしています。タリバンが今後、どのような方針を示すのか、国際社会による監視と検証が求められます。