越境攻撃に同行…日本人写真家が見たウクライナが“制圧した町” 現地記者に聞く和平への見通し
ウクライナ軍がロシア側に越境攻撃を開始して1か月がたちました。ウクライナ軍に同行した日本人が見た現地の状況とは。
5日、夜が明ける前、海からロシアに向けて行われたウクライナ軍によるとみられる攻撃。一方でウクライナ軍は越境攻撃も続けていて、この1か月でロシア国内の100の集落を制圧、東京23区の約2倍にあたるエリアを掌握したと主張しています。
先月、国境の町から制圧した地域に向かうウクライナ軍に同行したのは、前線付近などで支援活動を続ける写真家の尾崎孝史さん(58)です。
越境攻撃開始から10日後、無人となり国境管理が機能していないロシア側の検問所を抜けロシア領内に入りました。
向かったのは、ウクライナ軍が先月14日に制圧したばかりだというクルスク州のスジャという町です。
ウクライナ兵
「ハイ、タカシ! ロシアはどうだい?」
戦闘の跡が残る町に人気はありません。通りにいくつも落ちていたのが、ロシア軍が攻撃に使ったとみられる無人機です。
しばらくすると、ロシア人の住民の姿が見られました。尾崎さんが持参した支援物資を渡すと…
ロシア人住民
「ありがとう、ありがとう」
この地域は現在、ライフラインはすべて止まっていて、インターネットもつながらないといいます。
ロシア人住民
「電気もガスも水道も止まっている。(ロシア政府から)人道支援もありません」
ロシア人住民
「(ロシア政府は)私たちを避難させなかった、私たちは見捨てられたんです」
同行したウクライナ兵によると、町には自力で避難できない高齢者などが残されているといいます。
支援活動を終え、ウクライナ側の国境検問所に引き返していたそのとき、突然、検問所から走りだす兵士たち。
ウクライナ兵
「ドアを開けて! 開けて!」
兵士らとともに道路脇に身を潜め様子をうかがいます。数分後、長居は危険だということで再び移動を始めました。
ウクライナ兵
「ミサイルか飛行機か、どこか近くで爆発音が聞こえた」
制圧したとはいえ、いつ反撃されるか分からない緊迫した状況なのです。
越境攻撃でロシア側の支配地域を拡大していると強調するウクライナ側。一方、東部の戦線ではロシア軍が攻勢を強めていて、苦しい戦いが続けられています。
森圭介キャスター
「ここからはモスクワ支局の平山晃一記者に聞きます。ウクライナ軍の越境攻撃ですが、戦況にどういった影響を及ぼしているのでしょうか?」
平山晃一記者 NNNモスクワ
「ウクライナにとっては一定の成果があったわけですが、戦況が有利になったとは必ずしも言えない状況です。これ、なぜかといいますと、もともとウクライナ軍は越境攻撃により、劣勢が続く東部ドネツク州で戦うロシア軍の部隊を引きつける狙いがありました。しかし、ロシア軍は寄せ集めの部隊でこれをしのぎ、主要部隊は移動させずに東部で猛攻をしかけていて、要衝ポクロウシクに急速に迫っています。ここを陥落させれば、プーチン大統領が目標とするドネツク州全体の制圧にまた一歩近づくため、今度はロシア軍にとって大きな戦果となります。そのため、プーチン大統領は今週、ウクライナ軍の狙いは外れたとして、越境攻撃は失敗だと強気の発言を繰り返しました」
平山記者
「一方のゼレンスキー大統領も東部をめぐる戦況について、『困難』だと認めています。ロシアの占領地を保持しつつ、東部でも守りを固める二正面作戦となっていて、戦力の分散で厳しい状況が続くとみられます」
森キャスター
「いずれにしてもこのウクライナ侵攻も長期化しています。今後の和平への見通しというのはどうなっていくんでしょうか?」
平山記者
「両国共に将来的な和平交渉を見据えているわけですが、まずはその交渉で優位に立つことを狙った戦場での攻防が続くとみられます。プーチン大統領はウクライナ東部での戦況に自信を深めています。越境攻撃を退けた上で、東部で圧倒的な戦果をあげ、有利な立場で交渉を迫るシナリオです。一方のゼレンスキー大統領も、越境攻撃で制圧したロシア領を交渉のカードに使うとみられていますが、今後の焦点はウクライナ国内の守りを固められるかどうかにかかっていて、今後も戦場でのせめぎ合いが続きそうです」